第199話 絆の結び目

「人間関係って、友情や愛情みたいな、『繋がりの種』を芽吹かせられるかだと思うんですよ。この人を信じたいという種に、助け合いや談笑みたいな水や肥料を撒く。そうする事で種は芽吹き、お互いの関係性というツタが伸びていく」


「…………」


「伸びたツタは互いに絡み合い、切っても切り離せない縁となりやがて一緒に美しい絆の花を咲かせる。小学校で良くある、アサガオの種をいくつも発芽はつがさせるアレ。俺は人間関係とそっくりだなと思って観察してたんですよ。そうじゃないですか?」


「……アサガオが、人間と?」


「支柱はお互いのコミュニティだったり、共通の目標だったり。俺の場合、それは天心無影流の兄姉弟子だったり、美尊でした。深紅さんはどうです?」


「え?……ウチ?」


「そういう共通の目標とかコミュニティがあって、情という種を撒けそうな存在はいませんか? 今まで一生懸命生きながら無意識に種に水、肥料をまきながら歩んできた足跡そくせきを振り返ると、草花は生い茂ってるものです。振り返り確認して……成長していたツタは、誰かと絡み合っていませんか? 良く振り返り、今を見詰め――確認してみてください」


深紅さんは周囲を見回すと――ボロボロになっても自分の指示に従い、互いに助け合おうと……死の瞬間まで立ち上がる覚悟があるだろう涼風さんや、美尊に目線を向けた。


「今、自分の抱えている人は? 自分の姿は――どうですか?」


 意識なんて朦朧としていても、深紅さんを助けようと藻掻もがく旭柊馬の姿がある。


 よく見れば、深紅さんの装備だってそうだ。

 仲間と開拓して、オーナーに援助され、『助け合い』ながら作った装備――常に、そんな温もりへ身を包んでいるじゃないか。


 何も一方的に強者として助けていた訳じゃないんだよ。


「……そっか。ウチはとっくに『助け合い』をしてたんですね……。『助けて』と意思表示をしても見捨てられず……。『助け合う』仲間として、認めてもらえてたんですね。それなのに、ウチは……」


 今までの信じ切れなかった自分を恥じているのか、唇を噛んで涙を流している。


 そうだね、気が付かなかった自分を責めたくもなるよね。

 分かるよ……。


 俺も姉御が俺を助けてくれていると気が付いた時には――信じ切れなかった自分を、姉御が身を削って助けてくれている事に気が付かなかった自分を責めて泣いたから、さ。


「1本のツタは直ぐに切れますけど、たくさん絡み合えば、人がぶら下がっても切れないロープのように頑丈になりますよ。落ちそうな人がいても救える、ロープのように」


「…………」


「深紅さんが一心不乱に駆けてきた道の後ろには、多くの人との素晴らしい交わりが芽吹めぶき、絡まっているんです。あとは勇気を出してキュッとむすを付けてあげましょう」


「……結び目、ですか?」


「そうです。言葉にして伝え合う事で、ツタが絡まる結び目のように、より分かりやすくて見えやすくなる事もありますからね。勇気を出して、簡単には解けない互いに助け合いのしるしを結んで見ましょう」


「言葉は……印」


 反芻はんすうする中で、深紅さんは――何度も頷いている。


 きっと俺の言葉を、自分の中で納得が行くように変換しているんだろう。

 1つ1つ、丁寧に。

 そうして、心を縛ってきたかせが解けたのか――顔が明るくなってきた。


「深紅さんが大切なもの、人を護れるように強くなろうと、勇気を持って拳を握り努力してきた過去、未来を俺は否定しません。むしろよく頑張った、よく頑張ってますねと応援しますよ!……でも今は、その拳で護れるだけの力が不足している場面です。それなら――逆に助けて欲しい時は、武器を持ち拳を作る手をどうするべきですか?」


 そっと、深紅さんの手をマッサージする。

 武器を握り続け、硬く強ばっていた指が――徐々に開いていく。


 そうして開いた右手を、深紅さんはトワイライトの面々や旭社長、俺を見ながら伸ばし――。


「――ウチを、助けてくれますか?」


 震える唇で、ハッキリ『助けて』と口にした。

 未だ動かないサイクロプスを警戒しながら、治癒魔法で回復を図りながら近くに来ていた涼風や美尊は――。


「――ん、お互い様だよ、深紅」


「勿論だよ。私たちだって、何時も助けてもらってるんだから!」


「あ……」


 そう言って、震える深紅さんの手を握り返した。

 ギュッと、ここまで音が聞こえる硬い握手。


 何度も豆を潰し、すっかり硬く肥厚した掌が――繋がれた。


「私も……混ぜてくださいよ。何があっても、父として深紅を助けるに決まってます。親子の絆と言うには、親側のツタが腐りすぎていますがね……深紅を助けたい。この気持ちは――ゆずれぬ信念しんねんなのですよ!」


「父さん……」


 意識を取り戻したばかり。

 バンドの副作用か、真っ直ぐ立てずにふらついている旭社長も――両手で深紅さんの左手を握った。


 そうして俺の渡した指輪を、旭社長は深紅さんの指へと再び嵌めた。


「皆――ありがとう」


 勇気を出して、硬い絆を再確認した深紅さんは――せきったように涙を溢れさせた。


〈深紅ちゃん、良かったな〉

〈トワイライトの絆は永遠!〉

〈ワイらも何時も深紅ちゃんの直向きさに助けられてるよ!〉

〈私たちが助けられる事があるなら言ってね!〉

〈開拓では助けられんけど他なら全力で助けるからな!〉

〈このコメント欄こそが深紅ちゃんがやって来た成果だよ!〉


「皆……本当に、本当にありがとう!」


 深紅さんは、これで――1番の難敵を倒した。

 後は――あのサイクロプスをパパッと倒して、終了だ。



―――――――――――

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