第101話 家庭内暴力?個々人の事情
そうしてやって来たのは、姉御の執務室がある庁舎。
3度目だけど、重苦しい堅い空気が漂っている。
姉御の居る『ダンジョン庁長官室』をノックすると「空いている」と返ってきた。
「――失礼します。姉御、来ましたよ」
「ああ、よく来てくれた。……先ずは座ってくれ」
「は、はい」
よく来てくれた?
姉御、なんか随分と……弱ってる?
いや、顔色は以前より少し良くなってる。
多分――これから話す事は、姉御が俺へ下手に出なければならないような頼み事なんだろう。
ふかふか過ぎるソファーへ姉御と向かい合うように座り、俺が先に口を開く。
「姉御、ご
ちゃんと、
「いや、邪魔をしたせめてもの
「良いんです。俺は、あの人が俺たちを利用するつもりと言うか……。他の何かの目的に取り憑かれている。そう感じましたから」
それがお金や権力……或いは、競合他社である姉御を負かしたいという気持ちなのかは分からない。
それでも、あの旭柊馬って人の瞳からは、危険な
口調も
鹿奈さんもパッと見ただけで気位が高く、プライドも高そうで……なんか、気を遣いそうだった。
何より、アイドル兄妹でパーティを仮に組んでも大きな批判が無いように身を切ってくれた人を裏切れ無いっすわ。
人道的に考えて。
「取り憑かれている、か……。鋭いな」
しみじみと、姉御は呟いた。
「姉御は、あの2人と仲が良いんですか?」
「いや、仲は最悪だ」
「やっぱり」
俺が軽口で返すと――ギラリと、日本刀の
こわぁ……。
「……いずれ、旭夫妻の件でも、向琉に頼み事をするだろう。私は……あの夫婦に対して強くは出れるが、深紅に対しては無力だ」
「……それ、旭深紅さんの――家庭の事情、ですよね?」
「ああ。だが、同じ事務所の者として、
「それは、確かに」
「詳細はいずれ、本人の許可と機会があれば話す。深紅にも必要とあらば他者へ話すのを許可されているのは、あくまで概要までだ。――深紅は旭柊馬の子ではあるが、旭鹿奈とは血の繋がりがない。……深紅の
「…………」
成る程……。
「旭鹿奈は、旭柊馬の
「えぇ……。いくら政略結婚と言えども……。それは、あんまりでは? それじゃ深紅さんもお母さんの遺族も、納得出来ないでしょうに。」
「うむ……。まぁ、上手く行くはずもない。深紅の母は、深紅と良く顔が似ていてな……。旭柊馬は、深紅の顔を見る度に
こんなにハッキリと物事を言わず口を
それだけゴチャゴチャしていて、今も尚続く複雑かつ繊細な問題なんだろう。
「その
「ああ、その通りだ。深紅が成人年齢――18歳になるまでだ。その
ん?
その話を聞く限りだと……深紅さんは、親元を離れたがっていないという事か?
人の感情って……難しいな。
「家庭内暴力やそれに
「特徴、ですか?」
「強者が弱者を支配するのが自然、『弱いこと』が悪いと考えるようになる。暴力で問題解決しようとする。自己評価が低くなる。常に緊張を強いられ、安全感や安心感が育たない。他者を信頼できない。楽しい時がいつ崩れるか分からない不安をいつも持ち、楽しめないなど、な」
「成る程……。深紅さんとの面識は無く、動画での動きしか見ていませんが――動きには内心が現れる。確かに、傾向としては
「先日、向琉が深夜枠で深紅の事を話していた気負いは、この人格形成――特に、強くなって2度と奪われないようにならねば。その
先日の配信でも言ったけど――深紅さんは、周りにもっと助けてと言った方が良い。
それを言えない気質も理由もあるんだろうけど……。
もしも俺を頼ってくれたら――出来る限りの事をしよう!
「分かりました! 言いにくい頼みって、これですよね?」
これだけ重い話しで、姉御はその敬意と立場からあまり動けないと来た。
そりゃ俺に対して、命令じゃなく『頼み』とも言うよね!
「いや、違う」
「え」
「この件は、パーティの
姉御も
強く断れなかったのは――予想だけど、今の姉御の立場が微妙だからだと思う。
俺と美尊の為に悪役を演じるに当たって――ダンジョン庁にも凄い迷惑を掛け、
「分かりました! そのお願いを聞かせて下さい」
ドンと胸を叩いて俺が言うと、姉御はスマホを中央のローテーブルに置いた。
ディスプレイに映るは、5つの赤い丸。
1から5まで、丸の横に数字がふられている。
これは……東京都の地図か?
じゃあ、この丸は一体――。
「――スタンピードだ。ダンジョンから一斉に地上を目指す、約300モンスターの異常発生」
「……え?」
「開拓者ギルド及びダンジョン庁合同の依頼だ。予備自衛官兼Dランク開拓者、大神向琉には――5カ所のダンジョン。計1500体を任せたい」
申しわけ無さそうに、姉御は依頼を告げた。
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