第65話 スポンサー契約?

 昨夜遅く、姉御から美尊とのコラボに関して打ち合わせをしたいと連絡が来た。

 一も二もなく、喜んでむしゃぶりつくような申し出だったので「朝一から行けます!」と連絡したんだけど……。


「おはようございます。お迎えにあがりました」


「川鶴さん、一体何時休んでるんですか?」


 朝の9時。


 川鶴さんが迎えに来てくれた。

 どうやら美尊も昨夜姉御からメッセージが来た時には寝ておらず、何時いつでも可能と返事をしたらしく――川鶴さんが朝一で迎えに来てくれた。


「ご心配なく。今日は私、打ち合わせが終わったらお昼はお休みですから。それに……1番休んでないのはオーナーだと思いますよ? 今日も朝一の便びんで日本に帰って来て、直ぐに関係各所へと報告書を提出してから打ち合わせへ参加されるようですので……。フライト中もずっと様々な作業をされていたようですから」


「あの人の体力は化け物ですから、川鶴さんのような人間と比べてはいけません。姉御を疲れさせたいなら、飛行機じゃなくて神通足じんつうそくで日本とアメリカ間の空を飛ばせるべきです」


「あの……。お気持ちは分かるんですけど、流石にひどくないですか? 常に仕事をしていて、時差ボケとかもキツいはずですよ?」


 酷いのかな?

 尊敬しているからこそ言ってるんだけど……。

 姉御を人間の物差ものさしで測っちゃダメだと思うんだ。

 後部座席をスモークウインドウで外から見えなくしている車へと乗り込み、数分待っていると――。


「――おはよう、お兄ちゃん。川鶴さん」


「美尊、おはよう!」


 川鶴さんが美尊も迎えに行き、車へと連れて来てくれた。


 うわぁ~、美尊が隣に座ってる!

 めちゃ近い! これだけでも、すっごい嬉しいなぁ~。


「それでは、事務所へ向かいますね」


「はい! お願いします」


「お願いします」


 川鶴さんの運転する車に揺られ、俺たちはシャインプロの事務所へと向かう。

 道すがら、配信時間だけは他の配信者との調整で既に決まっており、今日の19時から3時間だと説明を受けた。


 既にシャインプロのSNSで配信告知も行っており、反響はんきょうが凄い事になっているらしい。

 朝から賛否両論の議論がSNS上で紛糾しており、美尊ファンでも俺のファンでもない人まで口論を見守る事態になっているそうだ。


 それはそうだろう、と。

 むしろ姉御は何を考えてるんだろう?


 美尊と俺をコラボさせるなんて、ファンを刺激するに決まっているだろうに。

 SNSでそんなバチバチにやり合ってるって事は、面白半分で様子を見に来る人だって沢山いるだろう。

 もしかしたら、また炎上商法紛えんじょうしょうほうまがいの手口で視聴者数を増やそうって考えなのかな?

 う~ん……。そんな定着ていちゃくしなそうなファンを集める手口って、どうなんだろう?

 俺たちの事や事情を知ってもらうけにはなると思うけど……。


 何が起こるか分からない。

 予想すらつかない。

 それでも俺は美尊と一緒にダンジョンへ潜れるのが心の底から嬉しくて、楽しみだった――。


 事務所に到着すると、俺たちはミーティングルームへと向かう。

 扉を開けば、4つ繋げた長机ながづくえで四角く形作り、机の前にはワークチェアが並んでいる。

 その最奥さいおうには――。


「――2人とも、良く来たな。昨夜は遅くの連絡となってしまい、すまなかった」


 机にノートパソコンを置き、椅子に腰掛けながら作業をする――姉御が居た。

 なんだか、たった数日なのに……随分ずいぶんと久しぶりに姉御と直接顔を合わせた気がする。

 色々と聞きたい事もあるが――。


「――姉御、せ……というより、やつれました?」


 以前のようにバシッとスーツを着ているが――ほほせこけ頬骨きょうこつが浮かび、首も一回り細くなっている。

 死人のように土気色つちけいろな顔色の中でも、肉食獣のように爛々らんらんと眼光が輝いている。

 だが……。


「頬にうっすら傷まで……」


 化粧で誤魔化しているのかもしれないが、数日前には無かった一閃いっせん傷跡きずあとが頬へと刻まれている。まるで鋭利えいりな何かに切り裂かれた跡のように。

 治癒魔術でも跡が残る程の深手だったのか?


「……久しぶりに修行をしているだけだ。断食だんじきも天心無影流の修行にあっただろう? 成長期だった向琉には、やらせていなかったがな。……傷は交渉を有利に進める為、ダンジョンで素材採取の依頼を受けた際、不覚を取っただけだ」


「あ、アメリカまで行ってダンジョンに潜って来たんですか?」


「それだけをしていた訳ではないがな。……私の話など、どうでも良い。まずは全員、座ってくれ」


 姉御の言葉に従い、俺たちは適当な椅子に腰掛ける。


 どうでも良いって……。

 姉御がこんな異常な状態なのに、どうでも良いなんて流さないで欲しい。

 なんで心配すら、させてくれないんだろうか?

 それすら許されない程――俺は姉御にとって、頼りない子供のままなんだろうか?


「兄妹コラボの打ち合わせより前に――先ずは、だ。向琉」


「はい?」


「お前にマルチバース本社がスポンサー契約のオファーを検討中だ。……昨日の時点での感触だが、かなりの好感触だ。十中八九、正式なオファーが来るだろう。良かったな。スポンサー契約を締結ていけつすれば、多額の金銭に加え最新の機材や装備、開拓に関連する全てのサポートが無料で提供されるぞ。デメリットは装備品などに企業ロゴやネームが刻まれるだけだ。それでも相手は、今や世界一の大企業。スポンサーとしてロゴやネームが刻まれるのは、名誉めいよですらある。……シャインプロは芸能業界に広い伝手つてを持つと言えど、所詮しょせんは国内のみ。これで企業勢きぎょうぜいではなく個人勢こじんぜい転換てんかんしても――ウチとは比べ物にならない好待遇こうたいぐうを、国内外問わず受けられるぞ」


 突拍子とっぴょうしもなく、事務所退所をほのめかすような提案をしてきた――。



―――――――――――

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