第10話 地底人、配信にて会見する(2) 62億……

「あ、姉御あねごぉおおおおおおおッ!」


「放送中に姉御と言うな! 師範代しはんだい、もしくは大宮おおみやさんと呼べ!」


「痛いです姉御ぉッ!」


〈え!? ダンジョン庁長官の大宮愛おおみやあい!?〉

〈日本に2人しかいないAランクの!? マジで!?〉

〈シャインプロのオーナーだから来てもおかしくない〉

〈いやいや、今まで一度も配信には出てなかったから〉

〈姉御って、似合いすぎwww〉

〈地底人とどんな関係!?〉


「あぁ~……。まぁ私とこいつは、同門どうもんだ。とある武術流派ぶじゅつりゅうはで、コイツは次期当主候補じきとうしゅこうほ。私は師範代をしていた。……当主とうしゅがダンジョン災害で亡くなり、今は途絶とだえた流派だがな」


〈ああ、そういう関係か〉

〈ガチの師弟みたいなもんか〉

〈気まずいこと聞いた〉

〈ダンジョン被災者か……〉


「さて、話を戻すが……私はこの国のダンジョン界を背負せおう者として、そして私人のシャインプロオーナーとして、この地底人ちていじんに可能性を見出みいだした。ゆえに、当社所属とうしゃしょぞくのダンライバーとして徹底的てっていてききたえ上げるつもりだ。我が社で初の男性ライバーという事で思う所がある者もいるだろうが……。視聴者の皆さんには是非、大神向琉おおかみあたるを応援してやって欲しい」


「姉御……。実は優しかったんですね!」


 俺の頭を撫でながら、姉御はほがらかに笑っている。

 うわぁ……。まだ入門したばっかりの小学校低学年以来かも。こんな優しくされたのは!


「何しろコイツは違反金いはんきん税金ぜいきん未納みのう延滞金えんたいきんで――私とシャインプロに62億円の借金しゃっきんがあるからな」


 ミシッと、俺の頭蓋骨とうがいこつが悲鳴を上げている。


 うわぁ……これ、スイカなら割れてるんじゃない?

 優しいんじゃない、これはアレだ。

 美味しい獲物を見つけた捕食者の笑みだ。

 完全に威圧するタイプの笑みだったわ。


〈62億!?〉

〈草〉

〈やばwww〉

けたがヤバいwww〉

〈借金70万円の俺、希望を見出す〉

〈良いから働け〉

〈そんな額の借金、個人にどうこうじゃねぇだろ。ましてや被災者だぞアホなん?〉

〈ダンジョンから脱出出来たら債務者扱いとか可哀想過ぎるだろ〉


「その……仕方がないんです! 俺、高1の時にダンジョンへ道場ごと落ちて……。それなのに住民税とか違反金とか! 支払い通知書みたいなのも、もらってないんですよ!? だからたおそうとしたんじゃなくて……えっと、これから頑張って稼ぎます!」


 ちょっと涙目になった。

 なんで俺、こんな大勢の前で借金を抱えた経緯けいいを話してるんだろう?

 あの右下にあるヤツが視聴者の数だよね? 10万人を越えてるんだけど……。


〈頑張りますってwww〉

〈いくら開拓者が金を稼ぎやすいとはいえw〉

〈なんか必死過ぎて応援したくなってきたwww〉

〈政府で救済してやれよ、ふざけんなボケ!〉

〈所属する他の子に手を出さないなら許した〉

美尊みことちゃんぐらい許してやれよ、兄貴だぞ?〉

〈美尊ちゃんの兄で、このイケメン。だが借金62億だ〉

〈美尊ちゃんの兄になれるなら構わん!〉


「当然、特別扱とくべつあつかいはしない。こいつは最下級のFランク開拓者からスタートだ。ちなみに向琉あたるの住んでいた道場は、『冥府行めいふゆきのダンジョン』のSランクフロアだ。3ランク以上高いランクへ潜るのは、ダンジョン内で生じたトラップなど以外では違反。つまりこいつは、最低でもBランクにならねば……家にも帰れん。――どうだ、視聴者諸君しちょうしゃしょくん。Sランクダンジョンで10年の歳月を生き抜き、62億円の借金を抱え、家にも帰れない開拓者が足掻あがさま……見たくはないか?」


〈き、鬼畜きちくぅ!〉

〈家なし借金62億Fランwww〉

〈ナニソレ、めっちゃ面白そうwww〉

〈借金の額は信用の証だぞ? これは姉御の愛だってw〉

〈大宮愛ちゃんだけに?〉

〈つまんな〉

〈ふざけんな! 国民を守れ!〉

〈地底人、応援したくなるわw〉

〈これがダンジョン庁長官のお仕事ですか。生還した個人に多額の借金背負わす簡単で無責任な仕事ですね。くたばれ〉

〈↑めっちゃ早口で言ってそうw こんなんギャグだろ。ギャグだよな?〉

伊縫美尊いぬいみこと:お兄ちゃん頑張れ。最悪、私も半分背負うから〉

〈本人!?〉

〈公式だ! マジだ!〉

〈お兄ちゃん、俺たちの美尊ちゃんに借金背負わせんなよ!〉

〈頑張れよ!〉


「よし、こんなもんだろう。川鶴、良いか?」


 視聴者数と流れる好意的なコメントを見て、姉御も満足気に頷く。


「ええ。オーナーも仰っていたように、大神向琉さんは期待の開拓者です。10年間、ダンジョンで生き抜いた配信者のダンジョン開拓。明日の18時から配信開始予定です。チャンネルの公式URL、SNSは概要覧がいようらんに載せます。皆様是非、チャンネル登録をお願いします! それでは、ありがとうございました!」


 川鶴さんは微笑みながら話を纏め、上手く締めてくれた。


 やっぱり頼りになる御方ですわ……。

 配信が終わったのか、川鶴さんがふぅ~と深い呼気を吐く聞こえる。

 やっぱり、疲れたんだろう。


「……オーナー。私の書いた台本、無意味になりました」


「すまん。コイツが慌てているのが無様で、黙っていられなくてな」


「それは……私も助かりましたけど……」


 川鶴さんは助かったと言いながらも、苦々にがにがしい表情を浮かべている。

 全ての台本をぶち壊した姉御に、恨み言の1つも言いたいんだろう。


 まぁ……俺が不甲斐無ふがいないのが原因なんですけどね!



―――――――――――

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