第58話 舞台は整った

 一歩一歩、玉座を目がけて土を踏みしめていく。


〈えぇえええええ王様!?〉

〈こんな所があるの!?〉

〈本物の王様の人骨!? それともモンスター!?〉


 俺が一定の距離に近付くと――玉座に座る人骨が動き出した。


「情報通り、このダンジョンの裏ボス……。ワイトキングですね」


 ワイトキングが、その左手に持った王笏おうしゃくを上にかざすと――床へ魔素が集まり、大地からがるようにモンスターがうごめでる。

 ワイト、そしてキョンシーにスケルトン。


 その数、約50体ほどが広間――玉座の間へと湧き出して来た。

 死霊系ダンジョンにおう親衛隊しんえいたいと言った所だろうか?


 這い出たモンスターを無視して――。


「――ヨイショオッ!」


 微弱びじゃくな神通力を込め、ワイトキングの右腕を砕く。

 そして再び距離を取ると――。


「――これも情報通りですね」


〈うぇええええええ! メッチャ増えた!〉

〈これ、百体は居るだろ!?〉

〈裏ボスって調べたけど、普通のボスよりヤバい稀に見つかる、ダンジョンの真の主らしいぞ!〉


 うん、その情報も姉御からもらっていた。

 ワイトキングは、その手に持つ王笏おうしゃくを砕かない限り――一定のダメージを与えれば、モンスターを50対前後召喚し続ける厄介な敵だとも、ね。


「いやぁ……。このダンジョンに出現するモンスターたちが勢揃せいぞろいですね! 夜は墓場で運動会ってやつでしょうか?」


〈脳天気に言ってる場合かw〉

〈いくらなんでもこの数はヤバくね……?〉

〈あたおかが言ってた、イメージソングをお披露目するのに相応しい場所って、まさかモンスターに囲まれた玉座?〉

〈あたおか視点、マジでこの世の終わり感ヤバい〉

〈死霊系モンスターの大軍とかキモイ。絶望感エグい〉


「改めて連中を見回しても……本当に思いますよ」


 俺は湧き出てきた死霊系モンスターの群れを見つめ、大きく口を開く!


「ここは――ダンジョン飯には向いてないってね! 外れダンジョンです!」


〈そこ!?www〉

〈このダンジョン飯開拓者を誰か助けてやってwww〉

〈あたおかと死霊、どっちが怖いか分からんw〉


「――もう一丁!」


 そしてもう一度、モンスターの群れをすり抜けて――ワイトキングの右肩を砕く!


〈またぁあああ! ワラワラと這いだしてきた!〉

〈もう無理だ逃げろってえええええええ〉

〈一回に50体、もう150体はいるんじゃね!? こんなん攻略出来るかああああ〉

〈裏ボスマジで無理ゲー。CランクダンジョンなのにBランク開拓者パーティでも全滅不可避だろ……〉


 そう。

 モンスタ―がついに、大きな広間に寿司詰すしづめになっている。

 それどころか、壁に掴まってまでこちらを目指そうとしているモンスターもいるぐらいだ。


 適切な倒し方をしなければ、このような大惨事だいさんじになる。

 初見しょけんだったら、多くの人は絶望するだろうな~。


「そんじゃ――行きましょう!」


 俺は神通足で空を飛び、モンスターの群れを飛び越える。

 そうして、ボス部屋方向へと向かう道へと向かうのだが――。


「――おっと? 魔法を飛ばすのもいるのか。ワイトとかキョンシーが魔法で中衛から後衛、スケルトンが前衛と考えると、良い連携が出来そうなパーティですね!」


〈それを余裕で避けてる貴方は何者? 地底人かwww〉

〈あたおかの方がモンスターじゃねぇかと思ってきたw〉

〈姉御を擁護ようごする訳じゃないけど、この怪物かいぶつに首輪ついてて良かったと思っちゃった……〉

〈強さの底が知れないのも恐怖だな……。この配信に映ってる全てが怖い無理〉

〈死霊系モンスターの群れ、地獄絵図……。VRゴーグルしてると、恐怖で震える!〉


 空中を跳び、魔法を避け――やっとの思いで正規のボス部屋へと通じる道へと着陸が出来た。


「さぁ皆さん。行きますよ!」


 手首をクイクイッと曲げ挑発すると――モンスターが列を成して俺を追ってくる。

 スリル満点の持久走、ファイト!


〈モンスタートレインじゃねぇかwww〉

〈ガチでお化けが運動会してんじゃねぇよぉおおおおおおwww〉

〈こんなモンスタートレインと遭遇そうぐうしたら間違いなく死ぬ〉

〈あたおかぁあああ! そこの道狭いんだから、そこで戦えば数の差の不利を軽減出来るだろ!〉


 確かに、俺が通っている道は狭い。

 人が2人、ギリギリ通れるぐらいだ。


 でもさ、ここで倒しちゃったら――最高の舞台に連れて行けないじゃないか。

 なんの為に、ここまで来たのかって話ですよ!


 俺はコメント欄の視聴者に「このままボス部屋へ行きます!」と宣言し――駆け続ける。


 背後から地鳴じなりのように響く足音。

 ガシャガシャとやかましい骨と金属の音に追われ……遂に、出口らしき所へと出た。


 穴を飛び出すと――そこはボスがいる扉の前から、6メートル程の高さの崖へと通じていた。

 暗いダンジョンでボス部屋に集中させておきながらこの高さ、見逃される訳だわ~。


「――よっと」


 ぴょんっとジャンプをして、そのままボス部屋へ繋がる金属扉を開ける。

 左腕の配信リンク式腕時計は、自動読み上げ機能が鳴り止まない。

 まさに悲鳴を上げている。


「さてさて、正規せいきのボスの間に着きましたよ~! 100メートル四方はありそうな空間の中央に、5メートルぐらいある石像せきぞうの悪魔……。お、動き出した! 情報通り、ガーゴイルですね! 俺は出入り口の反対側まで――ダッシュ!」


 動き始めたガーゴイルを尻目しりめに――一足飛いっそくとびに壁の反対側へとやって来た。


 出入り口からは150体前後のモンスターがこちらを目指し走ってくる。

 先頭にガーゴイル、続く150体前後の死霊系モンスター。

 背後には壁、唯一の出入り口もモンスターの群れに塞がれている。


 その光景は正に、地獄絵図じごくえずと表現するに相応しいだろう。


〈あ、死んだわ〉

〈あたおか……これは無理だって〉

〈あぁああああああああああ絶望的な光景過ぎる〉


 もう俺の生存を絶望視するようなコメントを聞きながら、俺は頬を緩め――。


「――お披露目に相応しい舞台は整ったな」



―――――――――――

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