第202話 雪溶け? いや、熱過ぎだってぇえええ!?

「え、えぇえええ!? じ、事務所を辞めるぐらい、俺がキモかったですか!? そうですよね、ごめんなさい! 恥ずかしくて痛かったよなぁと自分でも反省してるので、そんな事を言わないで!?」


〈深紅ちゃんがアイドル続けられない!? はぁあああ!?〉

〈どゆこと、ねぇこの状況どゆこと!?〉

〈いや、分かるだろ。この状況と流れを見てて、マジで分かんない奴いるの?〉

〈↑あーあー、見えない聞こえない!〉


 うわぁあああ!? 

 大炎上激アツの予感!?

 垂れ流し配信していたコメント欄も、あっつあつにブチ切れてる!?


 自分が推してたアイドルが事務所を止めるかもとか、アイドルすら止める話になれば……それはそうだろねと思う!


 俺だって美尊がアイドル止めるとか思い詰める理由を作った奴が居たら――南極なんきょくから北極ほっきょくまで赤道せきどうを横切っての往復旅行おうふくりょこう空の旅スペシャルをプレゼントしたくなるもん!


「み、深紅さん!? 俺がキモかった件は謝りますから! 本当にすいませんでしたぁあああ!」


 もう先に謝っとけ!

 キモイのは確定なんだから、頭を下げておくべき!


「……お兄様」


 俺が頭を下げると、身長差的に深紅さんには丁度良いようだ。

 深紅さんは俺の顔を両手で優しく掴み、上を向かせ――。


「ウ、ウチを妹にしてください! お兄様の、世界一のファンです!」


「――……は?」


 え?

 今、なんて言いました?

 ちょっと、予想外の言葉で……脳が機能を停止したんですが?


「……あ? 深紅、なんて?」


 美尊、ちょっとステイ。

 ズイズイと進み出ない、折角の可愛い顔が昔のヤンキーが睨み効かせるみたいに歪んでるから!


 きっと、多分、間違いなく、これは深紅さんの言い間違いだからさ!


「ちちち、違くて! 妹じゃなくて、本当は……。――ああ、もう……胸が、胸がぁあああ!」


 耳まで真っ赤に染め、ピョンピョンと跳ね――すみっこでうずくまってしまった。


 妹の言い間違い――弟子でしって事かな?


 ああ、姉御の1番弟子が俺で、妹弟子にしてくれって――んな訳ねぇよなぁあああ!?

 い、いくら俺が鈍くても――これは分かるぞ!?


 あれ、これ……。

 耳まで真っ赤にして胸を押さえて飛び跳ねるとか……。


 もう鈍感系でもバッチリ気付くぐらいに露骨ろこつですやん!


 これ、アイドルが禁止される風潮ふうちょうにある――恋愛とか、そんな話になってるよねぇ!?


 嘘ぉおおおおおお!?


 99パーセントはドン引きでキモがられてると思ってたから、頭が処理落ちしてパンクしそうなんですがぁあああ!?


〈ああああああああああああああああ!?〉

〈ざっけんなコラぁあああ! あたおか、ソレとコレとは話が別じゃぁあああ!〉

〈逆にあたおか以外に相応しい人が居ない件。とは言えコレは泣きそう〉

〈ぎぃやぁあああああああああああああ〉

〈救ったの2回目だもんな。握手会の襲撃と今回。イケメンにこれされて惚れるなは無理よ。いくらプロ意識高くても人間なんだから〉

〈普通に言われたらキモくてウザイ言葉だったけどイケメンに命救われた直後に言われたら落ちる〉

〈↑ダンジョンの底だけに落ちるってかw〉

〈↑つっまんな。ホント、そういとこだぞ〉

〈『どしたん、話聞こか?』レベルに下心透したごころすけてるお前らと違って、あたおかは下心じゃなく真心込めて言ってたからなwww〉

〈頭では仕方ないと分かってても魂が涙を流すんだよぉおおおおおおおおお!?〉

〈お兄様ぁあああ!? でも2人が幸せならオッケーです!〉

〈おんぎゃぁあああああああああ〉


「おんぎゃぁあああああああああああああああ!? だだだ、大炎上!?」


 どどど、どうしよう!?

 まず歳の差とかアイドルって立場とか色々あるし――って、何を俺は真剣に考えてるんだ!?


 こんなの、思春期女の子が妙に大人に見える先輩に助けられて一時的なキュンしちゃう現象だって!


 たたた、多分一時的な、吊り橋効果に近いアレ……だと思うから。

 ほら一気に熱っすると、冷めるまで一時的に凄いって聞くし!?

 これも一種のヒートショックよ!


 ここは一旦いったん、落ち着いて冷静に持ち帰り、真面目かつ真摯しんし検討けんとうを重ねた上で時間を置いて互いの気持ちを――って、俺の気持ちって何!?


「……大神さん? 私の娘に何か気にくわない所でも? 大神さんは私と違い、責任を果たす誠実な方だと信じてますよ?」


「旭社長!? 自分の事を棚に上げましたね!? しかも責任って、別に俺は責任の生じるような――」


「――お兄ちゃん?」


 あ、死んだ。

 ヒュンッて――魂から氷魔法をかけられたでしょ、コレ?


 後ろから……なんの抑揚もない美尊の声。


 恐る恐る振り返ると――。


「――般若はんにゃぁあああああ!?」


 般若が持っていた扇と短刀を手にした美尊が――ひかりとぼしい瞳を浮かべていた。


 その表情は、まるで般若!


 そして……その武器は、ドロップアイテムの!?

 ドローンに積んだままだったのを取って来たのか!?


「す、涼風さん!? ど、どうにか――」


「――薄い本が……厚くなる」


「天を仰いで泣いてる!? そんな現実逃避をしないでぇえええ!?」


カナン約束の地……」


「涼風さんは何処に行っちゃってるの!? 帰って来て、俺を見捨てないで!?」


「……お兄ちゃんは悪くない。でも、この気持ちは……私、どうしたら良いんだろう? 般若って、嫉妬しっと憤怒ふんど業火ごうかに燃える女性が鬼化した存在なんだよね? ねぇ、私……モンスターになっちゃったの?」


「みみみ、美尊! 落ち着こう! 美尊は可愛い俺の妹のまま――」


「――可愛い!? ウチの事っすか!?」


「もう深紅さんは抑圧から解放されてブッチギッてるなぁ!?」


「え……。じゃあウチは、やっぱり可愛くない?」


〈あたおか、深紅ちゃんが可愛くないと思ってるの? オイ表出ろや、きっと寒いから〉

〈↑お前もそろそろ部屋から出ろ。今夜は俺と一緒に居酒屋で泣こうぜ〉

〈↑煽りと思いきや優しいの止めろwww〉


「かかか、可愛いと思いますよ!」


「……私は?」


「みみ、美尊は世界一可愛いです!」


「え……じゃあ、ウチは?」


「ほんぎゃぁああああああああああああああああ! 姉御、助けてぇええええええ!」


 誰か、俺も助けて!

 世の中『助け合い』のループでしょう!?

 誰か、誰かぁああああああああああああ!


「ハハッ。冗談ですよ、お兄様。ウチは、世界一のオタで十分ですから!」


「ああ、世界一の厄介やっかいオタが誕生しちゃった……。――だが、尊い」


 涼風さん、貴女は何を言っているんですか!?

 もう収集が付かないよォオオオ!


〈大宮愛:良いから1度地上に戻ってこい。サイクロプスが復活したらどうするつもりだ〉


 さっすが姉御ぉおおお!

 その通りだ!


「よし、皆さん! 帰りましょう! 開拓は帰るまでが開拓ってね!」


 テンションに任せてそう逃げる俺に、周囲の目線は冷たい。

 でも、だって――だってだってなんだもん……。


 し、仕方ないじゃん!

 色恋だとかこう言うの、経験無いから分からないんだわ!


 そうして――スマホが震動した。

 姉御からのメッセージ?


 中身を開くと――『日本に戻ったら、いの一番に話がある』。

 そのメッセージだけで血の気が引くには十分なのに――。


「――般若のスタンプとか、買ってる!? も、もしかして俺が般若より姉御のが恐ろしいって言ったのを気にしてた!? こんなん、お金の無駄遣いだってぇえええ!」


 俺、今日は頑張ったじゃん!?

 皆、本気で責めてないのは分かるけどさ……。


 もうちょっと、落ち着いた最後も偶には迎えたいよぉおおお!


 結局、地上に戻るまで――地上に戻ってからも、この騒ぎは収まりませんでした。

 美尊は終始、俺の腕や腰に張り付き、ねながら妹の座を主張していて……。


 正直、誰かに刺されても幸せなぐらい可愛かったです。


 後ろから美尊に抱きつかれてる時は、美尊が触れてる背中に全神経を集中してたから、前からサイクロプスに殴られても痛みを感じなかったと思う――。



―――――――――――

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