第201話 討伐! まるで自由な鳥のように

 数秒にも満たない沈黙の時間。


 黒煙こくえんを伴う爆炎ばくえん中空ちゅうくうを舞う中――サイクロプスも魔素の霧となり、霧散むさんして行く。


 ゴトッと、大きく重量感のある魔石が落下する音が――ボスを討伐したんだと皆に実感を与えた。


「……やった、やったぁあああ! ウチら皆で倒したよ!」


 歓喜の声を上げた深紅さんの声を皮切かわきりに――全員の歓喜に沸く声が響く。


〈うおおおおおおお!〉

〈史上2人目(パーティ?)のサイクロプス撃破だぁあああ!〉

〈あたおかが9割ぐらい殺していたのを黙ってる俺は空気が読めてるな〉

〈↑あたおかも仲間なんだから良いんだよ! 深紅さんの育んだ絆のツタで作るロープ(あたおか名言集入り)の1本なんだから〉

〈あたおか名言集www 語録で分厚くなりそうだw〉

〈あたおか語録、今日だけで一気に増えたぞwww まぁ無事に終わったからこんな冗談も言えるんだがw〉

〈なんにせよ良かったぁあああ! ナイスファイトぉおおお!〉

〈大神さん。トワイライトを救ってくださりありがとうございます〉


 扉前に居たモンスターの討伐が済んだのだろう。

 パスパレードで集まっていたモンスターを倒し終えた2パーティも、集まってきた。


「――終わったな。……まさか本当にあの化け物を倒しちまうとは」


「大神さんだけじゃない、皆さん本当に凄いですね。……もう俺たち、絶対に死んだと思いましたよ」


 全員が、無事。

 死人も重症者も出なくて、本当に良かった……。


「――本当に、すいませんでした! 私が間違っていました! 私に出来る償いは全力でやらせて頂きます!」


 自分のプロダクションへ所属するパーティ、そしてそのパーティにパスパレードを受けた人たちに向け――旭社長は土下座しながら謝罪をした。


 なんか……今日だけで、何度もこの光景を見ている気がする。

 でも――。


「ウチからも、本当にすいませんでした! 元を正せば10年前……父さんを追い詰めたウチの責任です! 責めるならウチも責めてください!」


「深紅! それは違う――」


「――父さんは違うって言っても、ウチが納得行かないの! 本当に謝っても謝り切れることではないですが……。すいませんでした!」


 深々と頭を下げる深紅さんに、被害を被った2つのパーティは顔を見合わせる。

 そうしてパスパレードを受けた側のパーティは――。


「お互い様、でしょ? 確かに命の危険には晒されましたが、旭深紅さんや皆さんが助けに来てくれなければ、文句を言う事もなく死んでましたよ。……だから頭を上げて下さい」


 何処まで爽やかなんだ。

 メッチャ良い男ぉ……。


 旭プロの所属パーティも頭を掻きながらぶっきらぼうに――。


「10年前って、小学校1年生とかでしょ? そんな小さい子が大災害で親を失った直後に口にした言葉まで、責められんての。……社長、これからの経営方針に期待してますよ」


 旭社長は、「罪を償ったら必ずや!」と、答え――ゴリゴリと地に頭を擦りつけた。


 全員から許してもらえた深紅さんは――涙を流しながら涼風や美尊を抱きしめ、お礼を言っている。


 小さい身体をピョンピョン跳ねさせて抱きつき、お礼を言って回る姿は――自由を手にした小鳥のようだ。


 やっぱり、自由に笑えるって良いよね。

 鎖で雁字搦がんじがらめになって張り詰めてる猛獣より、見てる側も幸せになれるよ。


 そうして深紅さんは、俺の下へも跳んで来て――。


「――ぁ、その……」


 なんか、モジモジとし始めた。


 なんだ?

 ま、まさか……。 

 さっきの――身の程を弁えない、臭いセリフがオンパレードの説教を、掘り起こすつもりか!?


 や、止めてよ?

 冷静になった今となっては――地上まで穴掘って抜け出したいぐらい恥ずかしいんですからね!?


「あの、ウチ……少しは変われましたか!? お兄様から見て、成長しましたか!?」


 え、何を言うかと思えば……。

 何だ、そんな事か。


 でも、それは気になるよね。

 今まで人に助けてと言わないよう努めて来た子が、大きく変わる一歩を踏み出したんだ。

 自分がどう見えるか、気になるのは当然の感情ってもんだよな。


「今の深紅さん、今までで1番幸せそうに笑ってますよ?」


「……え。マジ、ですか?」


「マジです」


「そっか……。お兄様のお陰で――やっと心から信じて良いんだなって……。無意識じゃなく、心底から安心出来た気がします! 今、最高に救われた気分です!」


 ああ、晴れやかで良い笑顔だ。

 ずっと大切に思えば思う程――その分、失う怖さも膨れ上がったんでしょうね。


「仲良くなれば成る程……。自分の心に締める割合が増えれば増える程、怖かったでしょう? よく今まで耐えました。そして、よく気が付いて自分を認めてあげる事が出来ました! 本当に深紅さんは、強い子です!」


 1度は引っ込んでいた深紅さんの涙が――また溢れだしてしまった。


 ああ、俺とした事が……。

 また余計な事を言ったか!? 

 思い出さなくても良い事を思い出させて……俺、やっちまったよね、これ!?


「す、すんません! まだ配信は続いてるのに、ウチこんな……。泣くなんて、みっともない!」


 俺は慌てて左胸の内ポケットからハンカチを取り出し――深紅さんの頬を伝うしずくを、ぬぐっていく。


 それと、このままじゃ赤く腫れた目が配信で流れてしまう。


 それじゃ、プロ意識の高い深紅さんは泣きたくても素直に泣けないだろうから――。


「――サン、グラス? これ……まさか、ウチが泣いてもバレないように?」


 そっと、ふところから取りだしたサングラスを無言でかけてあげる。


 小柄で笑顔が似合う深紅さんには、あまり厳めしい黒サングラスは似合わない。

 元々は姉御が自分に合うと選んだ一品だからね。


 それでも――涙が溢れる赤い目をカメラに晒し続けるよりは、気分的にマシなはずだ。


 そもそも、泣いてる姿なんて配信で易々と見せるべきものじゃない。


 乙女の涙が――絶え間なく努力してきた人の泣き顔が安く思われるなんて、あってはならないんだから。


「美しい涙ですが、深紅さんは笑顔の方がもっと素敵ですよ? だからこのサングラスは、また心から笑えるまでお貸し致しますね」


 深紅さんの両口角りょうこうかく人差ひとさし指でげてみる。

 サングラスをしているせいか、まるで本当に笑っているようだ。


「お、俺も寂しがり屋なので……。これからも、仲良く絡ませてくださいね? 深紅さんや皆がもっと笑顔になれるように、俺もまた頑張りますから!」


 グッと拳を作って、俺の願望も伝える。

 これっきりなんて、寂しすぎるからね。

 まさか説教がウザかったから距離を取られるとか……いや、どうしようあるかも!?


 深紅さんうつむいちゃったし、絶対顔も見たくないとか思ってるよね!?

 自分でかけといて難だけど、サングラスで目が隠れてるせいで感情が読めない!


 ほわぁあああ!?

 き、嫌われた!?


「――ウチ……。もうアイドル、続けられないかも……」


 ふぁあああんっ!?




―――――――――――

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