第200話 難敵のおまけに、ボス退治!

「全員、俺が治癒魔法をかけます。近くに寄ってください」


 俺が声をかけると、全員が近付いてくれた。

 右手を俺の頭上へと上げ、範囲内の人物へ向けて治癒魔法をかける。


 そうして右手に注意が向いている隙に――床を転がっていた自爆バンドは、回収させてもらった。

 身に付けるだけで爆発するリスクがあるような物で覚悟を示したりリスクを犯すような場面じゃ、もうないからね。


「サイクロプスの最大の武器、棍棒はもうぶんどりました! 後は連携して――皆さんで倒しましょう! 大分遅れましたが、強敵を倒す為の教官からのアドバイスです!」


 俺の枠では指導が出来なかったからね。

 こうして、ここで強敵を倒す指導をしよう。


 まぁ……既にかなりのダメージを与えて弱らせちゃってるんだけどね?


 それでも――今のトワイライトではまだ、ちゃんと連携をしなければ厳しいと思う。


「旭社長と涼風さんは、敵の攻撃範囲外を動き周りながら只管ひたすらに目を狙って下さい。涼風さんは威力はこれからですが魔法の発動速度、技巧ぎこう繊細せんさいさのレベルが高い。社長の持つ自動小銃から放たれる銃弾の先端全てに、涼風さんの持つ魔法……爆撃系ばくげきけいをかけるんです。その銃が射出する弾には魔力がこもっているから、良いダメージと隙を作れるはずです!」


 俺の指示に涼風さんと旭社長は頷き――サイクロプスに向かって構えながら、イメージ練習を始めている。


「あんな加工筋肉かこうきんにくかたまりが鎧を着て歩いているような化け物相手の間合いに入るとか自殺行為です! 美尊も遠距離から槍と魔法の混合で足下あしもとくずして! 硬い皮膚を破れるよう、氷と炎魔法の温度差でもろくし、爆撃魔法で脆くなった部分を吹き飛ばすんだ!」


「うん、了解。お兄ちゃんの指導を信じる。……でも、その加工筋肉の化け物から棍棒を奪って殴り倒した――」


「――深紅さんは作戦の肝ですよぉおおお!? 深紅さんは爆撃魔法が得意ですからね、弾に乗せず連発しながら機動力も用い攪乱かくらん! 時に美尊が崩している足に爆撃を、更には腕や脇を狙ったりと敵に目と足だけを防御させないように! そして美尊が足を破壊し動きを止めた隙を見計らい、貯め有りで渾身こんしんの爆撃魔法を1つの銃弾にだけで良いんで乗せて、放ってください!」


「はい! 父さん、美尊、連携よろしくね!」


「あ、ああ! 深紅、やろう!」


「……うん。お兄ちゃん、逃げたね?」


 お、俺の動きは……真似しちゃいけません。

 視聴者も言ってたけど、有害図書みたいな扱いなんだもん。

 教育に悪いらしいからさ、俺は。


 だからこそ今回は、万が一の時を除いて動かないようにと自分に言い聞かせてるんだからさ!


 これは深紅さんたちが乗り越えなきゃいけない試練!

 手を出したくて身体がうずくけど――我慢!


〈うおお! クライマックス頑張れぇえええ!〉

〈サイクロプスが立ち上がったぞ! 止めさせぇえええ!〉

〈大宮愛以来のAランクボス攻略、ここまで来たならやっちまえぇえええ!〉


 サイクロプスが蹌踉よろめきながら立ち上がり、重心位置が高くなる。

 重心位置が高まると言う事は――それだけ、足下が不安定になると言う事。


「――作戦、開始です!」


「社長さん、行きます!」


「はい、那須さん!」


「ウチは左から、美尊は右から攪乱かくらんしつつ適宜フォーメーションチェンジ!」


「了解!」


 各自が動き出し――サイクロプスの1つ目と足に集中して、攻撃が叩き込まれていく。

 最大の武器――長い射程を持つ棍棒も、俺に奪われて後ろに転がしたまま。


 高い重心位置と低い重心位置の同時攻撃。

 その防御の厄介さにサイクロプスは防戦一方で、やがて――。


「――片脚崩れた!」


「ナイス! もう片方もやってから、デカイ爆撃行くかんね!」


 前方でしっかりと冷静に指揮を執りながら――助け、助け合いの動きを深紅さんは展開している。


 その成果が、サイクロプス攻略にも現れている。


 みるみるうちに、サイクロプスの足は削れていく。

 美尊が遠隔からの氷魔法で、皮が弾けたサイクロプスの骨まで凍らせ――炎魔法の繰り返し。


 冷熱衝撃れいねつしょうげき――ヒートショックは、人間の血管から金属など様々な材質で起こりうる。


 真冬、冷たく凍ったガラスに熱湯を掛けると割れてしまうように――温度が上がって膨張ぼうちょうしたものが急速冷却きゅうそくれいきゃくで収縮すれば、クラックや破損が生じる。


 そこに爆撃魔法までぶち込めば――如何に強靱なサイクロプスとて、何れ削れる。

 骨が破損し始めて来れば――もう後は、止めの一撃の準備だ。


 その時を察した深紅さんは――爆撃魔法を乗せる銃を撃つ旭社長の隣へと降り立った。

 魔力を右手へ、貯めに貯めている。


 そして――。


「――私は、ね……。深紅に大きくした旭プロを渡したかったんだ。汚名おめいは現経営陣の私と鹿奈かなが全て引き受け、一新して大きさとコネだけを残した芸能プロダクションをね……。お金の力でダンジョンを根絶ねだやしにしてしまってから、の計画だったがね」


「あ……」


 旭社長が苦笑しながら語る言葉に――深紅さんは、ハッとした表情を浮かべた。


 昔の……親子にしか分からない思い出話かな?

 そして深紅さんはゆっくり、思い出した儚い記憶の一部を手繰たぐせるように――。


「――ねぇ父さん。ウチ……小っちゃい頃、『なんでお金持ちなのに母さんを救えなかったの』って聞いて、追い詰めたよね?」


「……そんな事があったかね? もう、私もいい歳だ。覚えていないな」


「嘘吐き」


「…………」


「ウチ、小学校1年生の頃に『どうして父さんはお金持ちなのに救えなかったの? 父さんは助けてあげなかったの? ねぇ、なんで父さんは母さんを見殺しにしたの。復讐ふくしゅうしないの? そこにかたきが居る巣窟そうくつがあるんだよ』。……そう言って、父さんをおかしくしちゃったんだ」


「……長年悪の道を進んでいると、そのスタート地点なんて分からなくなるんだよ。――私が何故、悪の道を進んで来れたのか。そんなものは、悪の道を進む気質的な才能があったからだ。……幼い深紅に、金が大きな力を持つと教えてしまったおろかなおや。深紅が気に病む必要も、同情する必要もない。深紅には私と違い、正義の道を歩む才能がある。母さんと同じで、ね。……だから、自分らしいその道を歩めば良いんだ。信用の置ける、大切な人たちと、ね」


 死闘の間につむがれた、親子が仲違いする原因の――雪溶ゆきどけ。


 その瞬間を、俺は肌で感じた。


 いよいよ美尊が脆くなっていた足の骨に爆撃魔法を打ち込み――サイクロプスが、足の支えを失い崩れ落ちる瞬間が来た。


 全員に聞こえるように声を張り上げ――。


「――今です! 弱点である目玉にどぎついの、叩き込んで下さい!」


「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!」」


 旭社長が撃った弾が着弾する時に爆ぜるよう、深紅さんは貯めに貯めた爆撃魔法を乗せた。


 親子が放った銃弾の1つは――サイクロプスの大きな1つ目に着弾。


 まるで対戦車ロケット砲が着弾したかのような爆撃音を、大空間に響かせた――。



―――――――――――

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