第203話 週明け、朝。
そうして週明け。
月曜日の午前7時。
「――
「まぁ解決したなら、良いんですけどね? やっぱ余程の場合を除けば親子が仲違いしないに越した事はないっすから」
姉御はマジで帰国するなり、いの一番に俺の部屋へやって来た。
スーツケースを抱えて空を駆け、窓からの侵入。
有人監視のマンションも、姉御の前ではセキュリティが負けるな。
姉御は律儀に高級そうな海外のコーヒー豆までお土産に買って来てくれて、今は朝コーヒーを満喫中。
因みにミルとかはないので、姉御が素手で粉にした。
ほぼ同じサイズに削ったとか言ってたから、この人の技はやっぱり俺よりも人間を辞めてると思うんだ。
「エリンのように余程の天才を除けば――1代にして金と権力を手にする者には、怨念にも似た執念を抱く者が多い」
姉御の言葉が誰を指しているのか、分かった。
旭柊馬は、深紅さんの奥さんをダンジョン災害で失った後――政略結婚で自分の資産を飛躍的に伸ばして行ったんだっけ?
そこには物事の分別が付いてない幼き深紅さんが何気なく発してしまった一言が、怨念に火を灯したのが影響していたのは、これまでの流れからも分かる。
大人としてやって良い事と悪い事の判別はして欲しいけど、それさえ出来ないぐらい大災害後は怨念に取り憑かれていたんだろう。
「旭柊馬はダンジョン枯渇を起こし2度とモンスターを出現させないような強力な開拓者集団を、一刻も早く生み出さねば。金で多くの人命を救わねば。……そんな妄念に取り憑かれていたらしいな」
「その旭社長も、今は警察に勾留されてるんですよね? なんか今回の非開拓者のダンジョン侵入の一件だけじゃなく、色々と自供も始めてるとか……」
お陰で連日、テレビは大忙しだ。
試しにテレビの電源をつければ――朝のニュースでまた取り上げられてる。
何処何処の留置所で取り調べを受けていて、新たな自供の内容だとかが大きなテロップ付きで流れてるな。
もしかしたら、これに俺の名前も出ていたかもと思うと……美尊に申し訳なくなるな。
たとえ命を助ける為とは言え、家族が犯罪者としてメディアに叩かれてるのは辛いだろう。
「旭のが逮捕された件で、向琉が気に病む必要はない。旭のも愛する者を災害で失い、心に溜まった
「……地上に上がるなり問答無用で警察にしょっ引かれた旭社長と違って、俺には先ずその場で丁寧に事情聴取をしてくれて助かりましたよ。もしかしてあれですか、姉御がくれた賞詞のおかげですか?」
「あの賞詞にそれ程の効力はないだろう。単に地上でギルド職員から事情聴取を事前に受けていた結果だろうな。旭プロのは言い逃れの出来ぬ現行犯だったのも関係あるはずだ」
「……実の父親が目の前でパトカーに連行される。連日、和解した実の父親が大悪人としてテレビで報道される。……これもシンドい体験ですよね」
深紅さんの顔を思い浮かべてしまう。
世の中には親子だろうと、絶対に相容れない存在は居ると思う。
それでも深紅さんは――旭社長と運良く和解が出来た。
そんな顔を見ていたから余計に、旭社長の現状へ何とも言えぬ気持ちになってしまう。
「解り合った肉親が罪人として大きく報道されるというのは、世間からの目も合わせて余計にキツイだろう。……深紅は一直線だからこそ、折れやすい部分がある。頼る……いや、依存とも呼べる信仰対象、心の拠り所も私しか居なかった。……その後の深紅のメンタルは私も気になっていたのだが、な」
難しい事だ。
悪いのは罪を犯した旭社長なんだけど、それを叩く事が周囲の罪なき人にまでダメージを与えてしまうなんて。
テレビドラマや漫画みたいなエンタメ作品のように、スッキリする勧善懲悪なんて……現実には殆ど無いんだと痛感する。
「……反省もせず強引に深紅を奪い取ろうとした時に備え、私も色々と
「色々って……旭社長の弱味とかですか?」
「ああ、そうだ。――
「思った以上にやってんなぁ、あのオッサン」
マジで何してんの?
娘の為に命を張る、あのシーンでちょっと印象が良くなってたのに。
それは流石に自首して罪を償うべきだわ。
姉御が言ってた怨念に似た執念で動いた罰は受けるべきだと思うよ、うん。
「ダンジョン
「……行き過ぎなければ、志は立派なんですけどねぇ」
「ああ、何ごとも行き過ぎは良くない。――行き過ぎた言動とは時に、容易に人の正気を失わせるから、な」
姉御が妙に含みのある言い方をした時――ガチャッと、玄関の扉が開く音がした。
怖いよね。
だって、俺は鍵を締めたまま。
開けてないんだよ?
―――――――――――
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