第154話 保護者乱入

 深紅さんが立ちあがりながら無事をアピールしコラボの発表をすると、続けて涼風さんや美尊も立ち上がった。


 全く驚いていない……。

 川鶴さんも事件の会見だから真面目な表情はしているけど……動揺はしてない。


 皆――知ってたな!?


 川鶴さんは立ちあがってから補足説明を加える。


「深紅さんやトワイライトが開拓者として強さを追い求める姿勢は、ファンの皆様ならご存知かと思います。17歳にして深紅さんは単身Bランク開拓者。パーティとしてもBランクに位置する上級開拓者です」


〈そりゃ知ってるけど……。それとコラボが関係ある?〉

〈今は事件の説明じゃないの? え、もう終わりのつもり?〉

〈↑警察が捜査中だから発表できる事が少ないんだろ。元気な姿をライブ配信で見せたのが何よりの発表〉


弊社所属へいしゃしょぞくの仲間――今回、深紅さんを最悪の事態から救った開拓者である大神向琉さんは、つい昨日まで彼女たちの学園にて講師をしていました」


〈あ、それは知ってる。なんかスゲぇ熱心に指導してる動画が拡散されて来たw〉

〈あれを全員に毎日送ってたんでしょ? シャインプロブラック過ぎだろ……〉

〈皆、あたおかをまだ知らんな? あたおかはダメと言われても正しいと思ったら勝手にやるブラック脳なんだよw〉

〈そこも、お兄様の素敵な所ぉおおお! もう一生、手は洗いません!〉

〈大神さんは直接お目にかかってもそのままの方でした。本当に思いやりに満ちた人格者です〉

〈成る程。同じ事務所の後輩がまさに今、危険な目に遭ってる。それなら自分の身を守れる更なる強さを教授きょうじゅすると言う流れ?〉


 そのコメントを目にした深紅さんは、コメントを読み上げてから――。


「――はい! このコメントの通りです! 皆も薄々、感じている通り……。ウチには旭プロの社長――旭柊馬あさひしゅうまの血が流れてます。今は親子の縁を切ってるつもりですが……。やっぱり、親権を持ったお父さんなんですよ。だから今後も私がシャインプロに所属を続けたいとなると……ね?」


〈あ……。察した〉

〈成る程、それは護衛と力が要るわ。理屈じゃどうにもならん場合もあるだろな〉

〈コラボが嫌より先に、旭プロのヤバさから回避させてあげたい気持ちが優先されたわ〉


 凄いな、旭プロの――旭柊馬さんの悪名高さは……。

 深紅さんが公式に実の父親だと認めるのも、これが初めてじゃないか?

 そこまで口にした深紅さんの気持ちを皆、優先してあげたいんだろう。


「――聞き捨てならないねぇ……。深紅」


 そんな時、事務所の扉が開き――。


「あ、旭柊馬さん!? どうしてウチの事務所に入って来てるんですか!?」


 川鶴さんが、生放送中の乱入者に対し抗議をする。


「今、私は旭プロの社長として以前に――深紅の実の父親として、管理責任を問いに来ているんですよ。……今回の事件の不手際、シャインプロでアイドル開拓者を続けさせるのは危険過ぎると分かったからには――もう娘を預けてはおけない。そう思うのは、親として当然では? 川鶴社長?」


「う、ぐ……。よ、よくも、ヌケヌケと……」


 今回の事件の犯人が果たして旭プロによるものか。

 それはまだ発覚していない。


 だからこそ管理責任を問われると――川鶴さんも強くは出られない。


 深紅さんは未成年者で、旭柊馬は親権を主張が出来る優位な立場にあるんだから。


「……父さん」


 深紅さんは、顔をうつむかせてしまった。

 先程まで強気だった表情は不安げに歪み――手は震えている。


 美尊も涼風も、深紅を庇うように前へ立ちつつも――家庭の問題に何処まで口出しをしたものかと、戸惑っている様子だ。


「深紅。……過去の事は悪かったと、本気でそう思っている。私も改めるつもりだ。だからもう危険な目に遭う必要なんて無い。アイドルも開拓者も……危ない事をしなくても生活が出来る。旭プロの役員になって、経営を手伝ってくれないか? いずれは社長職も継がせたい。……それが深紅の将来と安全の為に、反省した私が用意出来る全てなんだ」


 そう深紅の将来を憂う旭柊馬の顔は――酷く切羽詰まって見えた。


 なんだろう……。

 俺は正直、旭柊馬を――分かりやすく同情の余地がない、悪の権化だと思っていた。


 勧善懲悪かんぜんちょうあくで言えば、気持ち良く叩きのめせる悪。

 なのに――なんでそんな、娘を憂う親の顔をするんだよ……。

 その顔は――俺を天心無影流へ養子に出した両親と、同じ顔じゃないか……。


「……嫌、です。ウチは、オーナーに必要としてもらえてる。お父さんや鹿奈さんが私に暴言を言っていたのは、事実でしょ? それを……ちょっと反省したからって、また戻って来いとか……。嫌だよ!」


「み、深紅……」


 旭柊馬は――深紅さんの拒絶に、顔を泣きそうに歪め、手と声を震えさせている。


 なんだ?

 なんの策略もなく、感情に任せて来たのか?

 あなたは、姑息な策を弄するタイプだろうに……。


 何を普通の親のように、娘から拒絶されてショックを受けてるんだよ?


 涙ぐんで、拳を振るわせちゃって――己の過去を、心底悔いた振りなのか?

 これが演技だとしたら……本当に大したもんだ。


 だって俺の目には――嘘偽りなくショックを受けている大人の姿に見えるんだから。


〈家庭内暴力から大宮愛が保護したってのはマジだったのか! 帰れDVジジイ!〉

〈サラッと自分の過去の悪行を水に流そうとしてて、本当に救えねぇわ〉

〈本当に子供の気持ち考えた事あんのかよ、毒親が〉

〈同じ親としても今更感あって引く。一時の感情でカッとする事はあっても、何年放置してたと思ってんの?〉

〈子供は物じゃねぇんだぞ! 深紅ちゃんの感情を大切にしろ!〉

〈旭プロの社長を継がせるとかw 汚名だらけの泥船用意しやがって〉


 コメント欄の流れも――深紅さんを擁護するコメントばかりだ。


 元々、旭プロの悪名高さと深紅さんの境遇に関しては噂が出回っていた。


 この社長は――生放送に突っ込んで来たら、世間の声でこんな展開になると、本当に読めなかったのか?


 いや……。

 仮にも大手企業の社長だ。

 感情が先走って、理性が追いつかなかった。


 顔にそう書いてある。

 金に意地汚くて、多くの開拓配信者を絶望に追いやった旭柊馬を――俺は叩き潰したい。


 そう思っていたけど――。


「――深紅さんの指導、引き受けましょう! コラボ、やりましょうよ!」


「お、お兄様……」


 突然の乱入者でゴチャゴチャになっていた話題を、俺は引き戻した――。



―――――――――――

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