第82話 きょうだい
「……世の中は
「えっと……。
「金についてそう考えているうちは、50点もやれんな。一般の職業で生きるには良いが、一流開拓者のように大金を稼ぐ者の使い道としては、不合格だ」
「う……。それなら、合格の答えはなんなんですか?」
「無数にあるが――金とは、人間社会で自分の守りたい何かを守る為の
「ぶ、武器弾薬?」
「そうだ。……実際に今回、私は金を武器弾薬として使用した」
「え? い、いつ? どこで、ですか?」
「声優、俳優の卵や駆け出し、養成所の生徒などの中から信用が置ける
「お、俺への詐欺疑いでも、特捜部が動いてたのでは?」
「向琉に関しては……
「や、やっぱり、そう言う意見もあったんですね。……予想はしてましたけど、実際に言われると怖くもなりますね」
「そこを強引に、
俺、公安にも監視されてたの?
公安って……国家の安全を脅かす存在に対応する組織だよね?
うん、まぁ……Sランクダンジョンで10年間も生き抜いた、思想不明の人間だもんな。
姉御とのダブルチェックという意味でも、それぐらいはするか~。
「詐欺疑いの件でも、一応は特捜部が調べ直したようだが……。現時点で金の流れは、私から向琉へ一方的に
「そ、そうですか……」
「借金を盾にしている件は、
「遠慮しておきますよ。俺は姉御を訴えたくなんかありません。……それより、そのサクラみたいな人は平気なんですか?
「漏れて困るお願いはしていない。私はどうコメントしろとは、一切注文していないのだからな。そもそも、募集は私の知人で誰を紹介してもらったか分かるようになっている。仮に、私から無理やり言わされた、と誰かが声を上げて裁判となった時……どうなると思う?」
「それは……その人を紹介してくれた人の顔が潰れますね」
「その通りだ。業界人の
全ては……姉御の
俺が地上へと上がった瞬間から――
「簡単だったよ。……人は自分を中心とした
姉御の利益ではない。
俺が最大限に望む利益――美尊と過ごす日々を手に入れられるように。
姉御は
「
「姉御……。ありがとうございます。でも、そう上手く行きますかね?」
「上手くいくさ。世の中、
「……つまり、世の中には
「ああ、よく覚えておけ。人の世には、そうした積極的に強い言葉を発信しないマジョリティと、声のデカい極一部のマイノリティが存在する。声のデカい極一部を場当たり的に排除する措置を講じても、別のアカウントや端末を使って加熱した攻撃を続けたり、私たちの目に見えぬ所で何をでしかすか未知数だ。最悪の場合、ネットに留まらず逆恨みからリアルへの突撃や陰湿な嫌がらせも起こり得る。……ならば、どちらにも成り得るマジョリティを味方へと誘導する必要がある。――
だから姉御は、ミーティングの時にパーティとして当たり前の行動を取るよう念を押していたのか……。
ドッペルゲンガーも、姉御のレポートに書いていなかったからには予想外だったんだろう。
本当に未発見で……姉御もさぞ、焦ったことだろうな。
きっとあのバトルがなくとも、パーティの絆を見せる程良い場面があれば――マジョリティが俺たちの仲を叩くのは悪。
姉御こそを叩くべきだと上手く誘導する手筈だったんだと思う。
「……人の世で生きるには、綺麗な部分だけでは
「世の中が綺麗事ばかりじゃないのは分かります……。でも、なんで姉御はそこまでしてくれるんですか?
「……向琉自身が、その答えは美尊に言っていただろうが」
「え、俺が?」
「美尊が――妹が幸せになる為ならばなんでもやる、と」
「……姉御、それはつまり――」
「――
なんで、なんで……。
そんな――当たり前のように、サラッと言えるんですか?
普通はもっと、格好付けて言うようなセリフでしょ?
お前を守る為に、私は傷だらけになろうと構わんって……。
ヒーローの
そんな当たり前みたく言われると――
「……姉御。でも……。もっと、上手いやり方もあったんじゃないんですか? 姉御が手を汚して、悪にならなくても済むような……」
「あったのかもしれんな」
「じゃあ、なんで――」
「――あったのかもしれんが……。頭の悪い私には、思いつかなかった。向琉も知っての通り、私は武術にばかり生きて来た人間だ。……力尽くで強引なやり方ばかりしか思いつかん、愚か者なのだ」
本当にだよ。
本当に強引で……。姉御はアホだよ……。
「元より武術とは、護りたい大切な何かを守る目的を
「姉御……」
こんなの、姉御にはなんの利益もないじゃないか。
自分の名声、金、地位――姉御は、失うばかりだろう?
なのに――……。
「――向琉は必ず生きていると、私も美尊も信じていた。だから死亡届も出さなかったし、生存してる者として扱うよう手も回した。美尊の
ああ、改めて聞いても……凄惨な状況だ。
残された人たちの混乱や絶望は、計り知れないものがあったんだろう。
「冥府行きのダンジョンに、私は何度も開拓へと乗り出した。道場のあった地を1人、食糧と体力が尽きる程に深い闇を降り続けた。今度こそ、今度こそ……見つけてみせると意気込み挑んで来た。単独到達領域、世界記録となる地下35階層――気付けばAランク開拓者となる程に、な。……己の無力さに、私は絶望したよ。このダンジョンには――まだ下がある。そこで向琉や師範は生きているかもしれぬのに、私の力では辿り着けなかったのだから……」
「災害発生から7年間が経過した時……。開拓者も含めた調査の統計から――初代ダンジョン庁長官は、行方不明者の生存は絶望的と発表した。その結果……猛烈な非難を浴びて辞任にまで追い込まれた。強権を与えるからと強引かつ逃れようのない狡猾な手口で、私は現場を良く知る開拓者として長官へと据えられたのだ。だが……直ぐに、これは好機だとも思った。そうした政府見解で被災者の生存を否定されても尚――私たちは信じていたから。……鍛錬を積み重ねていた向琉は特別だと――少なくとも私は、
忙しない復興の中で、
それは、俺には想像も付かない心の痛みなんだろう。
「個人の力量で届かぬならば、組織力で辿り着けるようにと国内開拓者の成長と発展、ダンジョン内を配信して生存者の痕跡を発見出来るようなシステム作りにも心血を注いだ。そして――限りなく0に等しいと告げられた被災者の生存可能性が、あの日に打ち破られた。……この身は歓喜に胸が詰まった、昂った、打ち震えたのだ」
その時を思い出しているかのように、弾むような姉御の声音……。
こんなにも――俺は姉御に想われていたのか。
「……
ああ、もうダメだ……。
口元がジンジンと痺れる、目頭が熱い……。
「そう願うのは――
こんなにも不器用で、
口先ばかりじゃない。求め続けた真の優しさを人から向けられたら、俺は――……。
抵抗も
―――――――――――
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