第83話 俺が思う、正しいお金の使い方
「そう泣くな、向琉」
無理に決まってるでしょ……。
自分の為に、自分の大切な人がボロクソになっているのに……。
道理が通らない借金とか
俺が人の世で生きられそうな力とファンを得たら――あっさりと自分の手から離れていく道まで、用意してくれていたのに!
そんな事にも気が付かず、まんまと騙され――姉御は俺を裏切って金儲けに利用しているのかもと疑い続けていたなんてさ!
姉御は、わずか数日でこんな……。
世間を敵に回して、
感謝の気持ちと、のうのうと暮らしていた自分の情けなさが相まって――感情がグチャグチャだよ!
「……全く。泣いていては、戦えないだろう? ここが戦場なら、何もかもを失う事になるぞ?」
そう言って
でも――確かに、幼い頃から何度も俺の頬を拭ってくれた温かい指だ。
不器用な優しさを込めたセリフ、乱雑な拭い方。
修練が辛くて涙を流していた俺を
こんなの……返って、涙が
「涙を流す事など、私は求めてない。向琉は人々の
なんで自分を必要悪だなんて言えるんだよ。
普通は、誰だって嫌われたくないだろう?
俺たちの――
「……姉御は、辛くないんですか?」
「悪を行った者が叩かれるのは、道理だ。だから――私はなんの
「――そんな訳、ないじゃないですか!」
「…………」
「……お金が武器弾薬になるというのは勉強になりました。でも、お金を武器として使用するのは――人間。……つまり、姉御じゃないですか? 武器として使用して、誰かを
「……関係ない。罪悪感などは無い。――結局、引き金を引いたのは私だ。私は間違いなく、
「……許せないですよ」
姉御の問いに、俺はボソリと答える。
それを聞いた姉御は、一瞬だけ表情を
なんで……。
「……そうか。そうだろうな。――オーナーの意思に従えないならば仕方ない。
「――違う! 俺は、俺自身が許せないんですよ!」
なんで姉御は――俺に弱味を見せてくれないんだ!?
不器用な愛に、不器用な優しさばかり!
もっと素直に、本音を
「……何?」
「姉御が少し歳上の大人だからって、手を汚させて良い訳がない! 姉御が引き金を引かざるを得なくさせた俺の弱さが――俺は許せないんです!」
「……私が勝手にやった悪を、貴様が気にする必要は――」
「――気にします! するに決まってるでしょう!……姉御が本当に手を汚している事に罪悪感を感じていないと言うなら! 世間に叩かれようと、なんの
「――なっ!?」
姉御は
そして、掌には何も付いてないのを確認すると――俺を
「引っかけですよ。……姉御、引っかかりましたね?」
「……やってくれるじゃないか」
常に警戒している姉御から一本取れるなんて……今の姉御、やっぱり弱ってるんだな。
「これで姉御の
「
あくまで姉御は、自分が全ての悪だと
俺だって――ここは引けない! 引きたくない!
「そうですね。だから俺は――強くなります! 武力だけじゃない! お金の正しい使い方を覚えて、自分の身を守る
「……向琉」
俺の宣言に、姉御は目を丸くして声を漏らした。
そして、ふっと
「……そうか。その覚悟だけで十分だ。貴様は年齢こそ大人だが、社会経験的にはまだ未熟な高校生と同様、子供だ。そして
光差す所には影が生まれる。
姉御は――なんで俺だけを、光り輝く幸せな道に行かせようとするんだろう?
暗く汚い部分は自分が担当するから、と。
俺には光差す道を生きろと――なんでそう強調するんだろうな、この人は?
「今に見ててください! 姉御が暗い闇を抱えて陰から俺たちを守らなくて済むようにします! 姉御が誰にも見えない所で泣かず、素直に明るく笑えるようになります!――吹っかけた62億円? 美尊と
俺の言葉を聞き終えた姉御は、息を飲むように停止した。
そうして俺から視線を逸らし――窓から夜空を眺め出す。
腕を組むその姿は、何か思い詰めているのか。
星々と月明かりに照らされる姉御の横顔は、病的に
「……ふんっ。道場へ入れてもらえず、夜な夜な泣きながら
「ええ、人は成長しますから。……それと姉御、お金の使い方ですがね? 武器弾薬以外に、もう1つ――俺は使い方を知ってますよ?」
「……ほう? なんだ、言ってみろ」
視線は外へと向けたまま、姉御はそう言う。
その声は、
「お
サムズアップしながら言い放つ。
そんな俺に目もくれず、姉御はしばし考えるように片手を
「……ふん。守ると奪うは
「そうですね、結局は受け取り方次第だと思います。だから俺は――お金を使って不幸になってる姉御の暗い性格も、きっと直してみせますよ! 大金だろうと
俺の言葉をゆっくり
「――……そうか」
姉御は顎に当てていた手を開き、そのまま顔の下半分を
声のトーンが揺れ、
それとも――。
「――あれ、姉御……泣いてるんですか?」
「わ、私は泣いてなどいない!」
「す、すんません!」
振り向きながら大きな声を出す姉御に、驚いて腰を抜かすかと思った……。
無意識で、声に
天心無影流は、あらゆる物を武器にするけど……。
姉御は声すらも
相変わらず、
「……用が済んだなら、早く美尊の元へ行ってやれ」
スッと、視線を切り――姉御は俺に背を向けた。
しっかり美尊との時間も楽しまないと失礼、だよな?
「はい! 自分を中心とした
「……馬鹿者めが。己の発言に責任も持てない
最後、背から聞こえた尻すぼみに小さくなって行く姉御の声は――
―――――――――――
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