第113話 発想の転換。反省はするけど、後悔はしない

「そう言えば、1回……致命的ちめいてきまでにルールを破って罰金ばっきんかさんでるんだし――今更じゃない?」


「……は?」


「……と言うか、姉御と外に居る人たちの命が掛かってる場面で、我が身可愛さにルールを守るとか良い訳してるの――違うよな?」


 ルールは、人がより良く暮らせる為にあるものだ。

 平時なら、それは守られるべき尊いものだと思う。


 それでも、ルールを守ることが――かえって人の命を……特に民間人の命を危うくするのなら?


「――よし、行ってきます! すいません、ギルド長さん! 俺、地底が住処の地底人『あたおか』なもんで!」


「ま、待ちなさい! 注意勧告ちゅういかんこくの上での違反は、更に罰則ばっそくが重くなりますよ!? 罰金だけでは済まない可能性も――ああ、本当に行ったぁあああ!?」


 ギルド支部長らしき人が駆け寄って来るのを尻目に――俺は扉の奥へと進む。

 この奥に入っては行けないのは、ギルド支部長だろうと同じ。

 これでもう、邪魔は入らない。


 ――向琉。わらわは、そなたなら確実にやると思うておったぞ。


 そうだね、俺もそんな予感はしてたよ。

 黙って地上で待てる訳ないもん。

 兎に角、もう――姉御の所に行くしかない!


〈いったぁあああああああああwww〉

〈ルール違反はいただけないけど、破る理由は流石あたおかだぜwww〉

〈やっちまえ! もし本当に姉御がいるなら、国民を守る為に身体張ってる人を見殺しにするな!〉

〈¥50,000

伊縫美尊いぬいみこと:お兄ちゃん。やっちゃって。愛さんを守って、お兄ちゃんも一緒に帰って来て〉

〈¥50,000

那須涼風なすすずか:お兄さん、愛さんは奥で待ち受けてるはずです! 攻めに転じてしまってください。見守るしか出来ないですが、お兄さんの決断を応援します!〉

〈¥50,000

旭深紅あさひみく:お兄様。ご迷惑をおかけして、すいません。どうか国民を、そしてオーナーを助けてあげてください。ウチも健闘を祈ってます〉

〈トワイライト勢揃せいぞろいきたぁあああ!〉

〈そりゃ事務所のオーナーの危機だもんなぁあああ! あたおか、フィーバーしろぉおおお!〉

〈お兄様ぁあああ! Aランクダンジョンで連戦でも、お兄様ならイケると信じてますぅううう!〉


 左腕からは、規律破きりつやぶりでスタンピード状態のAランクダンジョンへ潜った事に対するコメントが止まらない。

 聞き慣れた名前もある中、俺は垂れ流しでダンジョンを進んで行く――。


 駆ける道は、車道一車線しゃどうひとしゃせんぐらいの広さがある道だった。

 壁には真新まあたらしい破壊はかい痕跡こんせき


 物理でえぐられた跡に、高温で変色するまで焼かれ、毒で溶けた岩肌。

 この状況を作り出したのは、姉御の攻撃だけではないだろう。


破壊はかい痕跡こんせきだけ見ても……やっぱ格が違う。思い出しますねぇ……」


 まだほんの僅か前なのに、もう随分と昔に感じる。

 Sランクダンジョン――真に強者が集い、常在戦場じょうざいせんじょうを忘れた者からエサになる。

 そんな世界を思い出さずには居られない危機感を、肌で感じる。


 そうして――生き物が殺気を巻き散らし、叫ぶ気配が近付いて来る。

 洞窟を照らす程のほむら


 その中に――頭部以外を立派な装備で覆い、双剣そうけんを手にまいを繰り広げている女性がいた。

 赤い血飛沫ちしぶきで黒い長髪にはクリムゾン色がまだらににじみ、黒い目は焦点しょうてんすらもおぼろ


 いや――単体相手ではなく、対多数の戦い方だろう、

 えて視覚のみに頼らず、全体の気配を感じる為に、目からは感情と焦点しょうてんが消えている。


 白刃はくじんがヒュッとちゅうく音がすれば――血の噴水ふんすいが湧く。

 モンスターの群れから遠ざかれば、どこから取り出したのか暗器あんき鋭利えいりな岩がモンスターの瞳を襲い――次に目を開けた時には、斬られている。


 そんな光景が――150体以上もの獰猛どうもうなモンスターの中央、姉御を中心に繰り広げられていた。


「姉御……。それは返り血ですか? いや……姉御から流れる血っすよね……」


 モンスターの攻撃に突き破られたであろう鎧。

 血が流れていない所がないぐらい、姉御も傷だらけ。

 美しい顔も、血に塗れている。

 正に満身創痍まんしんそういといった風貌ふうぼうだ。


 俺は身を低くし、平足で地を駆け――。


「――はぁあああッ!」


 姉御に気を取られているモンスターの背に気配を消して忍び寄り、手刀で首を裂く。

 よし。疲労した今の俺の力でも――通用する、戦えるぞ!

 山野さんやを何日も駆け回る修験者しゅげんじゃ、そしてダンジョンに住んで戦っていた成果が出ている!


「おっと!?」


 ほんの少しモンスターを倒した余韻よいんに浸っている隙を突き、他のモンスターが攻撃を叩き込んで来る。


 これは……流石に賢いな。

 1体1体が、まともに戦うには手強く感じる。

 パフォーマンスして戦うのに慣れすぎたかな?


「姉御、手伝います!」


「…………」


 一瞬、姉御の口角こうかくが少し上がったように見えたが――己を戦闘マシーンにまで高める極限きょくげん集中しゅうちゅうに至っているのか、返事は返して来ない。


 ただ、その背を俺に向け――無言で預けてくれた事が、武人にとっては何よりもの返事だろう。


「行きますよぉおおお!」


 そうして互いの隙をおぎないながら、俺たちはモンスターの群れへと斬り込んで行く。

 どちらかが隙を作り、どちらかが敵の急所きゅうしょ一撃いちげき仕留しとめる。


 お互いの動きを熟知じゅくちしている――やりやすさ。

 それは同じ天心無影流てんしんむえいりゅうの使い手だから、くせわざも読めるという事もあるだろう。


 だが――何より、お互いの動きや癖を、物狂ものぐるいの稽古けいこで見て体感たいかんしてそだった。


 そんな血生臭ちなまぐさはぐくみで結んでいく絆から生まれた、生への活路かるとを切り開く暴力だと思う――。



―――――――――――

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