第180話 終了です……

 俺が巻き込まれるのは勘弁!

 般若と闘いたくないとかじゃなくて、姉御あねご般若はんにゃをコメント欄の皆が比較するのを続けると――後が怖い!


「と、トワイライトの皆さん! お、お返しします!」


 俺は般若の着物を掴み――トワイライトの面々がいる方向へ巴投げをかます。


〈ああ、おんなてたぁああああああ!〉


「言い方ぁあああ!」


〈お兄様に触ってもらえるなら、投げ捨てられたいぃいいい!〉


「あなたは病気ですか!? 一端、落ち着いて発言を考えなおして! 握手会の時の純粋な感情を思い出して!」


〈大宮愛:向琉。後で話そう〉


「忘れてぇえええ!? 姉御、さっきの感情を忘れて! 過去に囚われるのは良くないっすよ!?」


〈メチャワロタwww〉

〈ここまで姉御、『ほう。向琉。後で話そう』しか言っていないのに、般若より恐怖を与えてますwww〉

〈成る程、夫へ圧をかけるにはこうするのか〉

〈ギャップって普段は厳しい人が乙女になった時も大ダメージだけどさ。逆もあるよな。最近は優しかった人が静かにキレると般若にも勝るw〉

〈仲の良い姉弟だなぁ(遠い目)〉

〈さっきの姉御のコメントが読み上げられた瞬間のあたおかの表情の切り抜き動画、スローモーション加工して投稿しますわwww〉

〈↑リアクション100点満点だったよなwww〉


「み、皆さん! 良い動きですから、さっさと般若さんを倒してしまいましょう!?」


 心なしか冷めた空気が漂う中、俺はトワイライトの皆さんに般若を託す。

 もう実力的には、あと数分も冷静に攻めれば般若に致命傷を与えられるぐらいのはず!


 これ以上、事実無根な俺の醜聞が広まる前に、嫉妬の業火に燃える女性の念が~とか逸話がある存在は討伐してしまいましょう!


 このダンジョン――俺、嫌いだぁあああ!

 良い飯素材モンスターも見当たらなかったし、俺は何もやる事がない!


「最後まで油断せず、地道に隙を作って行くよ! バリュエーション付けて攻めて行こう!」


「うん、任せて深紅。涼風、連携フォーメーション5で」


「了解! まずは弓での牽制、連発行くよ!」


 その後も油断なく、敵に読まれないようバリュエーションを付けた多彩な攻め方で追いこんで行くトワイライトの面々。


 火力が上がった分、無理攻めをしてもおかしくないんだけど……。

 冷静に隙を産み出し削っては、小さな隙を大きなものへ変えていく。


 終始危なげもなく――読み通りそれから8分の戦闘を経て、般若は魔石とドロップアイテムへと姿を変えた。


 俺が離れていたからか、ちゃんとおうぎ短刀たんとうがドロップしたようだ。

 白星はくせい、魔素を食べなくて偉い!


「――うん、素晴らしい! 俺が言う事はなかったですよ!」


 戦闘に関しては嘘を吐かない――悪い所には愛する妹だろうと容赦なく言う俺の気質は、皆が理解しているからだろう。


 素直に嬉しそうな笑みを浮かべる彼女たちを見ていると、こちら迄もが嬉しくなるね!


〈Erin Taylor:何てことだ! ガールズの武器性能を高めすぎてアクセサリーのテストデータが取れなかったじゃないか!? 武器は返却してもらおうかな!? いやむしろ弱体化させる修行用武器を贈れば良いかい!?〉


 揺らがないな、このマッドサイエンティスト。

 と言うか、修行用に弱体化させる武器までも作成可能なのか。


 それは修行用としては有用かもしれないけど――一般的には、呪いの武器扱いされる代物じゃないの?


 でも、何だかんだで自分が分析して作る物には――妥協しない。

 そんなエリンさんは、素敵だと思います!


 俺のポケットに入ってる自爆バンドも、作るからには本気だったからこそ、誰でもリスクと引きかえに力を手に入れられるようには形に出来たんだろうしね!


「さて戻りましょうか! この後、トワイライトのみの開拓配信ですからね! しっかり1時間は休憩を入れてく余裕を持って、地上へ帰りましょう!」


「はい! ウチらに教えてくださり、ありがとうございます!」


「お兄さん先生、ありがとうございます」


「お兄ちゃん。コラボ楽しかった」


〈そう言えば、コラボだったな。既にトワイライトの単独配信かと思ってた〉

〈↑実質、開拓シーンはそんな感じよなwww〉

〈それでも楽しかったから、あたおかも流石よなw〉

〈居るだけでなんか楽しくコミカルになる開拓者www〉


 ぬ、ぐぐ……。

 良いんだもん!

 今日は教官役が言うこと無いぐらいの動きをした3人を褒めるべきなんだもん!


 そうして地上へと戻る最中――。


「――あ、お疲れ様で~す」


「…………」


 開拓者パーティとすれ違った。

 ここは人気のダンジョンなんだな。

 この時間が、何時も俺が潜る時間よりも人の出入りが激しい時間帯なのかもしれないけど。


「……無視されちゃった。態度、良くないね?」


 集中力を保つ為にフォーメーションで深紅さんと先頭を切り替えながら歩いていた美尊が、振り向きながら不快そうに目を細める。


「ま、まぁまぁ、美尊ちゃん? 殺気立ってる開拓者だと、ドローンの光をモンスターの魔法攻撃と間違えて誤爆攻撃をして来る人も居るぐらいだからさ……。そう言う行為がなかっただけでも、ね?」


〈涼風ちゃんが言う事も一理あるわな。警戒して殺気立ち敏感になってるからな〉

〈地上とまるでテンションと態度が違う開拓者も多いらしいな〉

〈とは言え、態度が良くないのは事実よな……〉


 コメント欄も、さっきすれ違った開拓者パーティの態度について論じている。

 それにしても、だ……。


 俺が気になるのは――。


「美尊、本当にここが修行場で良いのか? こうして他の開拓者が居る人気ダンジョンだと、モンスターを大量に集めて効率よく狩るのもやりにくいような……」


「お兄ちゃん。それは普通やらないから、考えなくて良い心配だよ」


「そうなの?」


「そうなの」


「そっか」


「そう」


 美尊が良いと言うなら、良いか。

 Bランクダンジョンはトワイライトの動きなら、もう実力に不釣り合いな場かなぁと思ったけど――この先を進めば、Aランクダンジョンにも繋がってるんだしな。

 連携を確認してからAランクに行けば案外、丁度良いのかもしれない。


 そう納得している俺の腰に、チョンチョンと突つかれる感覚。

 見れば、視線を俯かせた深紅さんが居た。


「……さっきの愛想が悪い開拓者パーティ、旭プロ所属でした。ウチ旭プロ所属の配信で見た事あるんです」


 深紅さんが責任を感じるべき事でもないのに、凄く辛そうな表情だ。

 こう言う責任感が強い人に、口先で慰めても解決にはならない。


 俺に出来るのは、頭を撫でて慰めてあげるだけだ。

 根本原因を排除出来ないなら、こうして態度で自分は味方だよと示し続けるのが1番よね。


「――お兄ちゃん?」


「どうした?」


 前を歩いていた美尊が振り向いた時には、もう俺の手はいつも通り。

 暫くジトッと俺たちを眺めていた美尊を眺め、思う。


 女の人の勘、こえぇえええ!


 それから、もう1組パーティとすれ違ったけど――そちらは爽やかに挨拶を交わした。

 うん、人によってスタンスはまちまちよね。


 やがてギルドへと繋がる階段を前に辿り着き――。


「――それではこの後、1時間後から始まるトワイライトの単独配信も、よろしくお願いします!」


「はい、よろしくお願いします! 次はウチら、Aランクダンジョン最初の1層まで攻略する予定ですので! ランクアップしたダンジョンでも戦えるか、見所が沢山の予感です!」


「これは楽しみですね~! 俺も地上のギルドで、楽しみながら視聴させていただきます! それではコラボ配信のご視聴、ありがとうござました~!」


 配信を終了した。

 俺、マジで最後まで教官して無かったなぁ……。


 少しショボンとしながら階段を昇る俺の背を撫でてくれる美尊の手が、メッチャ温かいです――。



―――――――――――

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