第181話 束の間の休息が天国
地上へ上がった俺たちを待っていたのは、甘くて温かなジュースをお盆に持った川鶴さんだった。
「皆さん、お疲れ様でした!……エリン・テーラーさんの作品とは驚きで、問い合わせの電話が私に殺到してましたが……。一先ず、休んでください!」
「そ、それは、なんかすんません!」
そっか。
エリン・テーラーさんがそれだけ影響力が強い人物なら、俺たちの所属するシャインプロを通じて「仲を取り持ってくれ」と願う人たちも多いだろうな。
これまでシャインプロと濃厚な付き合いをしていた人たちにしろ、浅い付き合いの相手にしろ……。
マルチバース社を世界一へと押し上げた功労者と、どうにかして縁を繋ぎたいと思うだろう。
そこまでは考えてなかったわ。
飲み物を受け取った面々は、ギルドの休憩スペースに座り休ませてもらう。
労働後のビールじゃないけど、寒いダンジョンに潜った後に温かいジュースやコーヒーを飲むと、生き返るよね~。
一仕事、やり遂げたぜ感って言うのかな?
これでシャワーを浴びれば、もう完璧だ。
今回、俺は何もしてないも同然だけど!
「トワイライトの皆さんの努力が実り、指導配信とはなりませんでしたが……。視聴者の反応も良い感じでした! エリン・テーラーさんのネームバリューがあるにせよ、英語圏でも話題になってます!」
「あ、なんかコメントでも英語がそれなりにありましたね~。俺の枠では、あんまり見なかったんすけど……」
「はい! 事務所の公式SNSや大神さんと共同管理のSNSでも、英語で改めてアーカイブを告知しておきました! 後で動画化する際には、英語での文字起こし版も検討中と予告しています!」
「い、いつの間に……。さすが、川鶴さんっすね!」
「そ、そんな……。私なんて、未熟なマネージャー兼任社長でして……」
「ううん、私たちも川鶴さんに助けられてる」
「川鶴さん、何時もありがとうございます」
「本当ですよ! ウチらのお姉ちゃんみたいなもんですから! 大神先生はお兄様だし!」
深紅さんの言葉にピクッと過剰反応するのは美尊だ。
ガチャッと重そうな装備が音を立てるぐらい、動揺に身じろいでいた。
「精神的にはそう。でも血統的にお兄ちゃんの妹は私だけだから」
「美尊ちゃん、張り合わなくても良いんだよ? 深紅ちゃんが言ってるのは、最初から精神的な方だからね?」
「ははっ。美尊はブラコンだね~」
「ん。私はブラコン」
「そして俺はシスコン」
「大神さん? 張り合わなくて良いですからね? 良く分からないコントみたいですよ?」
表情には顕さずクールに言うから、美尊は流石だ。
俺は若干、照れ臭くなってしまう。
そんなユルッとした雰囲気で休憩を取り、やがて1時間近くが経過した後――。
「――よし。そろそろ行こっか!」
深紅さんは――配信リンク式腕時計で時間を確認して立ち上がる。
それに続いて、美尊や涼風さんも立ち上がった。
ゆるふわっとした、女子校生の顔が――一瞬で凜々しい戦士の表情へ
この切り替えは流石だ。
「――皆さん、行ってらっしゃい! 私はまた、上でお待ちしてますので!」
「俺もここで待ってるから! 落盤を起こしたりモンスターパレードを起こさないように気を付けてな!」
手を振って見送る俺に、美尊たちが苦笑を浮かべる。
うん、言葉にされなくても分かる。
「……俺には言われたくないなって顔、してましたね」
「ええ、トワイライト全員の苦笑が物語ってましたね……」
川鶴さんも苦笑しているもんね。
まぁ狙ってモンスターパレードを引き起こして効率の良い狩りをしたり、スタンピードでは落盤を意図的に引き起こして止めてたからなぁ。
言われても仕方がない。
「さて、俺たちは座りながら配信を視聴して応援しましょうか!」
「はい、私は引き続き電話やメール対応もあるので、2人分のお飲み物を追加で買ってきますね!」
「あ、お金を――」
「――来月末以降は、ちょうだいしますね?」
ニコッと笑いながら、川鶴さんはギルド併設のカフェテリア店員へ注文をしに向かった。
ふぇええ……。
早く広告収入とかスパチャ代金、振り込まれないかなぁ……。
しょぼん、ですわ――。
―――――――――――
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