第150話 シャインプロのフェスだもんね!

 美尊たちのマイクパフォーマンスも、終わりが近付いて来た。


 終演に向けてのラストスパート。

 会場のボルテージもマックスまで高まっている。

 そうして迎えた、最後の曲――。


「――少しだけ、少しだけだから」


 ちょっとリズムを刻み、少しステップを踏む。

 そうしているウチに――気が付けば、本気で踊りかねないレベルの衝動に襲われていた。

 いくら俺でも、それはダメだとは理解している!

 だから――。


「オタ芸って言うんだっけ!? これならオッケーでしょう!」


 美尊たちの歌やダンスに合わせ、警備の赤い棒を振る。


 多少オリジナルで、アクロバティックな動きも混ぜて!

 会場をファンと一緒に盛り上げ、楽しむのだ!

 するとステージ上の美尊が俺に気が付いたのか――ちょいちょいっと、手招てまねきをした。


「……え? 良いの?」


 いやいや、流石にそれは……。

 まだ配信でトワイライトとコラボすらしてないんだよ?

 俺だって某アイドル事務所のグループが一同に会してるステージで、たった1人異性が乱入したらどうなるか――想像ぐらいは出来る。


 流石に、それは――ダメ!

 オタ芸を打ちながらも、バッテンを作る。


 すると美尊は苦笑しながら手を振り、立ち去った。


 ふう……。

 流石にマズいと、美尊も理解してくれたか。

 危ない危ない。

 テンションが高まる場だと……自分を抑えるのに苦労するね!


 そうして最後の曲も終わり――トワイライトの面々は、再び沈み行く太陽をバックに消えて行く。

 観客に手を振り、ステージから姿を消すも――盛り上がった観客のボルテージは、収まる所を知らない。


 アンコールの声が鳴り響くのも、当然と言えた。

 そうして数分、アンコールの声が鳴り響き続けても――誰も姿を現さない。


「あれ、おかしくない? こう言うのって普通アンコールの声が聞こえたら、すんなり出て来るもんじゃないの?」


 3万人の観衆もおかしいと思っているのか、アンコールの声の中に悲痛な叫びが混じる。


「おいおい、マジでアンコールねぇの!?」


「嘘でしょ!?」


「待ってるぞぉおおお! もういっちょ、盛り上げてくれぇえええ!」


 そんな声が響き渡る。

 そうして、アンコールが聞こえ始めてから優に5分以上が経過した時だった。


「俺のスマホ?……川鶴さん?」


 スマホが震動を始め……ディスプレイを見れば、通話だった。


 なんだろう……。

 凄く、嫌な予感がする!

 出たら行けないような……。

 でも、通話は鳴り響いたままだ。


 と言うか……コール音が、会場の大音量スピーカーで流れてない?

 観客も、一気にザワつき始めたんですけど……。

 で、出るしかない……のか?


「も、もしもし? 大神向琉です」


 もしかして、とは思った。


 俺の通話が――マイクに乗せられている!

 川鶴さんのスマホのスピーカーからか!?


「そ、そちらは会場で警備中の大神向琉さんですか?」


「そ、そうですけど……これは一体!?」


「もしもし、お兄ちゃん? 私、美尊」


「み、美尊!? ななな、何をしているのかな!? この通話は、みんなに聴かれているんですが!?」


 音声だけじゃない。


 会場のカメラも通話中の俺の姿を抜き――大スクリーンに、俺の姿が映る。


 男女比で言えば、男の方が遙かに多いこの会場に――野太い大歓声が轟いた。


「ちょっ!? これ、聴いてないんですけど!? な、何をやらかすつもりなの!?」


 あたふたする俺を観て「あたおかぁあああ」、「握手だけで終わるつもりかぁあああ」、「エンタメ提供しろぉおおお」、「お兄様ぁあああ」等と、観客は叫び声をあげている。


「あのね。お兄ちゃんに染められて――私たちも、『あたおか』になったみたい」


「――ふぁ?」


 その通話音声が聞こえると同時、まるでパチスロに当たったような音楽――俺の公式イメージソング『たるみちく』が会場へ響き渡る。


 ステージ上には、シャインプロのこれまで出演してきたアーティストたち全員が出て来ている。


 そして大スクリーンには――マジで公式MVになったのか、何時ぞやのモンスター殲滅せんめつタイムトライシーン。


「さあ、お兄ちゃん。歌は私たちに任せて。――存分に踊ってね」


「はぁあああああああああ!?」


 俺の驚愕の声と同時に、会場が割れんばかりの大歓声に包まれる。

 俺を野次ったり、早くしろなどの声が飛び交っている。


 これ、アンコールだからって――アドリブだろぉおおお!?

 振り回されるスタッフさんたちに謝りなさい!?

 その交渉と準備で、少し時間がかかってたのか!?


 そうこうしているウチに、シャインプロ一同による合唱が始まる。


 ええい、もう……行くしかない!


「ド派手にいくぞぉおおおおおおおおおお!」


 神通足じんつうそくで空中を駆けながら、警備員服の帽子を客席へ投げ捨てる。


 す、ステージ上だから……派手に! 

 無駄に神通足を使い、空中で炎魔法と水魔法、風魔法を交えて舞踏を舞う。


 種も仕掛けもないけれど、観客からすればサーカスの一幕のように見えているだろう。


 あんまりアイドルと仲良くしているのを観られると、マジで命がヤバいのでステージから距離を取り――。


「――あたおかぁあああ!」


「お兄様ぁあああ!」


「ぅおおお!? マジで空を駆けてる! ワイヤーとかCGじゃねぇの!?」


 観客席の傍を跳び回り、手を振って回る。

 これでステージにいる娘たちとイチャついてるだのと言われずに済む!


 そうして曲が終わるなり、観客席に何度も礼をして――俺は舞台裏へと逃げた。



―――――――――――

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