side 大宮愛(1)

 とある大病院の豪勢ごうせいな個室に、大宮愛おおみやあいはやって来ていた。


「この度は、当事務所に所属する開拓配信者のインテリジェンスウエポン――我が流派の御神刀ごしんとうがご迷惑をおかけしました」


 深々と頭を下げ、謝罪をする。

 ベッドにふんぞり返りながら座る男は、ギルドの重鎮である。


 その見た目からは、個室へ入院する必要があるようには見えない。

 不機嫌そうに顔を歪め、ギルドの重鎮は口を開く。


「まさか、そんな頭を下げただけで終わらせようというのではなかろうな? それに大宮長官はシャインプロの所属と主張しているが、それはおかしいな。あのように未知数な者……ダンジョンから出て来た者の身柄みがら、まずは開拓者ギルドが預かるのが道理」


「……と、言いますと?」


 大宮愛は、下げていた頭を上げて尋ねた。

 鋭利えいりな眼差しが、ベッドへ座る老人に突き刺さる。


「聴けば被災以来、ダンジョンで10年も暮らしていたとか。それもSランクダンジョンで、だ。その身が安全であると保証を得る為にも、しばらくはギルドが預かり検査をするのが良かろう」


 ニヤニヤと、嫌らしい笑みを浮かべながら男は空想くうそうひたる。

 その脳内で考えられている未来を――大宮愛は、ぶち壊した。


「――おや、虫がおりますね」


「ぇ……ヒッ!?」


 ビュゴッという風切り音と共に、男の顔を台風の目に突風が室内を吹き荒れる。

 駆け布団も吹き飛んで行った。


 男はダラダラと脂汗あぶらあせを流しながら、己の顔横に留まる拳を見詰みつめる。


 目にも止まらぬ速さで突き出され――当たれば頭が打ち抜かれたスイカのように破裂していただろう。


「い、一体なんのつもりだ……」


 怯えながら問う男に、大宮愛はゆっくりと拳を戻しながら答える。


「虫がいたもので、つい」


「し、白々しらじらしい! 虫など、おらんかっただろう!?」


「いえいえ、居ましたよ? 虫の良い話が、そこに浮かんでいました」


「な、なに? 貴様、おどすつもり――ヒッ……」


 そこまで口にした所で、男は恐怖に口を閉じる。


 視れば、大宮愛からはとてつもない威圧感いあつかんが放たれている。

 オーラが可視化かしか出来るほどの圧は、流石はAランク開拓者と言った様相だ。


「……どうやら、残暑ざんしょが長引いて虫がわきやすいようですな。私は虫が大嫌いでしてね。虫は――潰したくなるのですよ。お邪魔虫じゃまむし、などね? 虫唾むしずはしった日には、果たして自分がどうしてしまうか……。怖い物ですな」


「……な、何が望みだ? これだけおどすからには、望みがあるのだろう?」


 すっかり怯えた男は、震える声音でたずねる。

 そんな男を見据えながら、大宮愛は同行していたシャインプロの顧問弁護士より2枚の書類を預かる。


「脅しと捉えられてしまうとは、心外しんがいですな。……ですが後々、脅迫で訴えられても面倒だ。こちらへサインをお願いします」


 自分は既に署名しょめい捺印なついんを終えた書類。

 男は怯えながらも、書面を見詰め――少し悩んでから、自分もサインをした。


「――確かに。それでは、お大事になさってください」


 片方の書類を受け取った大宮愛は、病院を後にする。


 そうして顧問弁護士と共にタクシーへと乗り込み――。


「――国会へお願いします」


 運転手へ、そう告げる。

 予想外の行き先に一瞬戸惑ったタクシードライバーだったが、相手が有名なダンジョン庁長官大宮愛だと分かると、緊張に背筋を伸ばしながら車を発進させた。


 重苦しい車内。

 そんな中に、スマホの振動音が響く。


「――川鶴かわつるか。どうした?」


『お疲れ様です。……あの、オーナー。本当に良かったのですか?』


「何がだ?」


『大神さんの事です。世間の声は……オーナーを悪の元凶として叩いています。被災者に対して救済もせず、金儲けに利用する悪魔だと……』


 憂いを帯びた川鶴の心配する声。

 その言葉に大宮愛は、口角こうかくわずかにげる。


「そうか。私を叩いている声は承知しょうちした。向琉への恐怖、美尊との仲をねたむ声はどうなった?」


『それは、オーナーの不条理ふじょうりを叩くのに夢中なのか……。大神さんへの脅威論きょういろん小康状態しょうこうじょうたいです。お2人の仲を妬む声に関しては、変わらずにくすぶっていますね。美尊さんの……所謂いわゆる、ユニコーンと呼ばれる方々が各掲示板やSNSで暴れまわっている状況です』


「……そうか。まだ足りん、か。……いや、当然か」


『――え?』


「何でもない。報告は分かった。私に計画がある」


『計画、ですか?』


「うむ。昼に伝えた通り、かねてより私が企画しておいた向琉に関する企画は全て進めてくれ」


『よろしい、のですか? 私はオーナーが世間で炎上しているのは――』


「――このままで良い」


『……オーナー』


まんな、川鶴。……初めての男性タレント、スタッフで戸惑とまどうだろう。……だが、どうかよろしく頼む」


 そこまで告げ、大宮愛は通話を切る。

 そのままスマホでネット掲示板やSNSを開けば、自分への誹謗中傷ひぼうちゅうしょうの数々が目に入った。


 会見前まで渦巻いていた、大神向琉おおかみあたる脅威論きょういろん下火したびになる程に、激しく燃え盛っている。

 大宮愛は、思わず笑みを浮かべながらも――ズキリと痛む左胸、胃へ手を当てる。


 そうこうしている間にタクシーは目的地へと到着する。

 正門から徒歩で入場した2人は、国会の分館へと歩みを進める。


 そして、とある委員室へと入ると――そこには政府高官せいふこうかん行政機関ぎょうせいきかんの重鎮がずらりと数十人座っていた。



―――――――――――

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