第72話 その背を――……
「いっ……!」
ストレンジバットは美尊の左腕に噛みつこうとしているが、美尊が腕ごと壁へ叩き付けると――。
「――
気配も完全に
そんな光景を見て、俺は――。
「ぁあああッ!」
コメントに精神を
「えっ!? お兄ちゃん、なんでそこに居るって……」
姿を消したストレンジバットを握りつぶし――魔石ごと、怒りを込めて粉々にした。
「美尊! 直ぐに治癒魔法をかけるからな!」
「ぅ、うん……。ありがとう」
美尊の左腕に触れ、治癒魔法をかける。
「……凄い。一瞬で傷が治った。お兄ちゃん、治癒魔法までこんなレベルで使えるんだね」
「毒も入れられていたから、解毒も一緒にかけておいたよ。……美尊、俺が油断したせいでゴメン」
周囲への警戒はしつつ、美尊に頭を下げる。
俺はバカだ。
コメント欄から広がる無意識の悪意に気を取られて、モンスターの
「ううん。ストレンジバットは、個体によって全然違うから。……多分、さっきのは上位個体のイレギュラー。本来はこの階層に居るべきモンスターじゃない。完全にステルス化して毒まで使う個体なんて、初めて遭遇した」
「それでも俺は、気が付くべきだった! ステルス化してても、注意を払ってれば風の流れで気が付けたのに――」
「――お兄ちゃんは悪くないよ」
自分を責める俺の頭を、美尊は背伸びして撫でてくれた。
嬉しいけど、そんな事をしたら――。
〈テメェなにやってんだボケ美尊ちゃんが傷ついただろうがあああああああ!〉
〈あんなヤバいストレンジバットいるのか、絶対このランクに合わないイレギュラーだろ〉
〈ざけんなよ大神テメェえええ! 大宮愛責任取れよ。マジ
〈
〈
〈やっぱ冥府行きのダンジョンはイレギュラーばっかでヤバい。よく勝てたな〉
〈あ~あ。もう良いわ。これで美尊ちゃんのファン減ったな。全部大宮愛とか周りの大人が悪い。むせび泣いて反省しろ〉
〈コメント欄のやつらキモすぎ、開拓者なら普通の光景だろ?〉
〈ぁああああああああああああああ〉
〈被災者に対して地底に帰れとか抜かしてる奴。人の心ないの?〉
〈イレギュラーに良く対応したな。迷わず自分の身体を盾にするのは立派〉
〈美尊ちゃんを守れないならなんでコラボ出るとか言ったの? まぢでないわ〉
〈迷わずモンスターの前に飛び出すなんて大切に想ってないと
〈アイドル開拓者なんだからこんなん叩かれて当然だろ。黙れよにわか〉
〈過激なユニコーン発言してる数人、連投しまくってて恥ずかしくないん?〉
当たり前の事だが、コメントは今まで以上に荒れてしまった。
俺は……ダメだ。
昔を思い出す。
集団から『ズル』だの『チート』だのと悪口を言われ続けた日々を……。
こんな人の悪意になんて……。
無自覚な悪意になんて、耐えられない。
悪口を言われるのが俺か違う人なんか関係ない。
一体何をやっているんだ、俺は!?
「お兄ちゃん、ここまでにしよう」
「……え?」
「元々、私たちの仲を認めてもらうなんて……無理だったんだよ」
美尊は、その青い瞳に薄らと涙を
なんて
違うよ、美尊が輝くのは……そんな笑顔なんかじゃない。
「……美尊」
「お兄ちゃんと、1回でもこうして映像に残しながら開拓が出来て私は満足。……これ以上、私はお兄ちゃんを傷付けたくない。だから……ここでお別れにしよう」
ここで、お別れ?
美尊は、何を言ってるんだ?
「――皆さん。今日のコラボはここまでにします。……残りの配信時間は――私1人で開拓をしますので、よろしくお願いします」
「なんっ……」
それは違うだろう!?
当初の企画を無視して、美尊を1人で開拓に向かわせるなんて――。
〈それが良い! 元々美尊ちゃんの適性ランクダンジョン。付け焼き刃の連携が足引っ張って邪魔だったから〉
〈よっしゃあああ! 大神向琉と美尊ちゃんはそれぞれ別にやるのが1番!〉
〈とにかく叩きたいだけのガキが多すぎて最悪の
〈↑さっきチェックしたけど、人数はそれほどでもない。おかしいのが10人くらいメチャ連投してるだけ〉
〈えええッ!? コメント欄がウザかったけど、2人の連携気持ち良かったのに……〉
〈無茶なコラボ企画した奴、ぜってぇに責任取らせてやる〉
〈再会した兄妹2人を離れさせてガッツポーズとか闇深過ぎだろ……〉
〈よっしゃああああ視聴継続決定!〉
〈あたおかが報われなさすぎて辛い。なんでこんな酷いことが出来るん? 大宮愛もお前らも異常だよ〉
「美尊、考え直してくれないか!? 俺はもう油断しない。姉御だって、こんな結末の為にコラボを企画した訳じゃないはずだから!」
「……ゴメンね、お兄ちゃん。愛さんには何か考えがあるのかもしれないけど……。私はもう、お兄ちゃんがボロボロになるのを見てられないの」
〈は? 大宮愛に考えなんかないよ。詐欺師でクズなだけだろ〉
〈どうせ兄妹2人をコラボさせたら炎上して人が集まるとかいう
〈元から無理のあるコラボではあった〉
〈
〈こっからやり直し! それが本来有るべき姿!〉
〈大神向琉も自分の配信に集中するべき。あと大宮愛への訴訟を頑張れ。そっちはマジで応援するから〉
「美尊……」
「じゃあ……。またね、お兄ちゃん」
俺に背を向け遠ざかる背中。
追いかけようにも――美尊の決意したような足どり、左腕から流れる俺や姉御へ向けられた悪意の言葉の数々が――俺の身体から、自由な動きを奪った。
結局、明るい光を放つ美尊の配信用ドローンが消えるまでに……。
俺は何が正しいのか、答えを出して追いかける事は叶わなかった――。
―――――――――――
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