生き別れの妹とダンジョンで再会しました 〜10年間ダンジョン内で暮らしていたら地底人発見と騒がれた。え、未納税の延滞金?払える訳ないので、地下アイドル(笑)配信者になります〜
第146話 これが数字じゃない、俺のファンか
第146話 これが数字じゃない、俺のファンか
握手会会場には、裏口から入らせていただいた。
握手会開始の10時を前に、既に行列が出来ているらしい。
俺はと言えば……会場の中央に設えられた簡易的なステージに立ち、お客さんが来るのをボーッと待っている状況である。
入場口から握手ゾーン。そして退場口まで一方通行にルートが決まっているそうで……。
このスペース内には、剥がし役という係員も控えていた。
「大神さん。握手時間は1人につき5秒ですからね」
「たったそれだけですか!?」
川鶴さんの言葉に驚愕してしまう。
会場まで来てくれて、普通に買うよりも高く写真集を買ってくれたらしいのに……。
「本当は、もっと触れあいの時間を作りたいんですけどね……。握手券付きの当たりは、グッズ会場販売限定1500冊にランダムでの封入です。予約画面と引き換えに1人1冊の購入が出来る制度なんですが……」
「え!? そ、それじゃ外れた人は……折角早く来てくれたのに、握手も出来ずに帰るんですか!?」
「いえ。それだとあんまりなので……。外れた人には来場購入者限定、スペシャル生写真を1枚プレゼントしているんですよ」
「お、俺の生写真で満足しますかね?」
「しますよ。この写真もランダムなので……。早くもSNSでは、写真の交換希望や購入希望が殺到している状況ですよ」
そ、そんなのがあるのか……。
凄い世界だ。
どれぐらいの割合かは知らないけど、外れた場合には外れた場合なりの楽しみがあるのは良かった。
「さぁ、1番目の方から入場しますよ」
「は、はい!」
いよいよ開始か!
どんなファンの人が来るんだろう?
ああ、人見知りが発動するぅううう……。
川鶴さんが隣に居てくれて良かった!
「どうぞ。握手時間は5秒です!」
そう言われ入場して来たのは――
女性ファンではなく、一発目は男性ファン!
なんとなく普通のアイドル開拓者配信者になりきれない俺らしい!
「何時も応援してます!」
「あ、ありがとうございます!」
頭を下げてくる男性の手を握ると、男性が涙ぐんでいるのが分かった。
「危険扱いしたり、姉御を叩いてすいませんでした!」
「え?」
「はい、時間です!」
俺がどう言う事か深く尋ねようとするも――剥がしの人に剥がされ、出口へ歩いて行く。
これが……この流れる感じが握手会なのか。
短い時間で相手の言いたい事を汲み取り、こちらも相手の希望に応えねば!
「――気にしてませんから! また一緒に開拓を楽しみましょうね!」
手を振る俺を振り向きながら見て――男性は、瞳に涙を浮かべブースを出て行った。
あれかな……。
地底から地上に上がった初期に、俺が危険視されていたって話だろうな。
後――姉御は、つい最近までボロっかすに叩かれていた。
そこにも加担していたんだろうけど……。
今日、1番に並ぶぐらいに応援してくれる『あたおか』になってくれて、嬉しかった。
誰も彼もに好かれる――と言うのが、夢物語なのは分かっている。
でも、あの人のような味方を――もっと増やして行きたい。
続いて入って来たのは――初老の女性だった。
「応援、ありがとうございます!」
「わ、私の息子はダンジョン災害で亡くなりまして……。一言、母さんと言ってもらえませんか?」
時間ギリギリ、本当に早口で言う初老の女性。
突然の要望に驚いたけど――。
「――お母さん。生きててくれてありがとう。これからも元気でね」
「――
そうして剥がし役の人に剥がされ、誘導されて行く。
ブースを出る時には、嗚咽を堪えているようだった。
ファンの人には――俺に、自分の息子を重ねている人も居るのか。
人それぞれに歴史があり、想いがあるんだな……。
本当に、様々な視聴者が多様な思いで視聴していてくれてたんだと実感する。
続いて入って来たのは――
服の上からだから目立ちにくいけど、歩き方とパンツの
年齢は――まだ若い。
20台前半ぐらいだろうか?
「お兄様ぁあああ!」
「え」
握手をしようとブースに入った瞬間――そう叫び寄る女性。
スタッフは一瞬身構えるが、彼女は飛びつくように握手をして来ただけだった。
「やっと直接感謝が言えます! 私はあの日、片脚を失って殺される寸前で誰かに助けられたんです! 今なら天心無影流を使う男性だったと分かります! 片脚を失っても命は助かりました! 本当に、本当にありがとうございます! お兄様を一生応援しますぅううう!」
もの凄い早口――きっと、短い時間でも気持ちを伝えられるようにと練習してくれたんだろう。
剥がしの人に誘導され、退場口に向かう背中に――。
「――
そう声をかける時間しか無かった。
ああ……。
もっともっと、1人1人と長く会話したい。
災害当時に足を失ったのなら――きっと、中学生ぐらいの年齢だったのだろうか。
青春まっ盛りの時期に片脚を失ったなら、そのまま笑顔も失ってもおかしくはない。
あれだけパワフルに笑えてて、良かった。
ああやって笑えるようなエンタメコンテンツを俺が届けられて、本当に良かった……。
やばいなぁ……。
まだ
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
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