第145話 ハロウィンフェス当日の朝!

 土曜の早朝、俺は――さいたまスーパーアリーナに来ていた。


 スタジアムはエンドステージ型と言う形に調整されており、観客は約3万人も収容出来るらしい。


「――リハと同時に、設営最後の仕上げ行きます!」


 会場設営スタッフによる熱気が籠もった指示に従い多くの人が動く。

 俺も頭にタオルを巻き両手に軍手を着用したTシャツ装備で参加中。


 まず1組目の開拓配信者アイドルユニットが、スポットライトを浴びてステージ上に飛び出す演出だ。

 カタパルトと言われるその装置を、実際に1組目のユニットが体験してみる。


「う~ん。照明の位置、ちょっと調整します!」


 流石は身体能力が高い開拓者。

 反動をものともせず、着地と同時に歌い出せる姿勢を取ってる。

 その背後から、バックダンサーが次々に踊りながら階段を降りて来るのだが――。


「――ぁ」


 ダンサーの数人が、10メートル以上ある鉄骨の舞台装置にぶつかった。


「あ、あぶねぇ!」


 照明の位置を修正する為か、固定が一時的に緩んでいた舞台装置が傾き――。


「――よっと。危ない危ない」


「ぇ……」


 神通足で空中を跳び、俺は装置を元の位置へと戻す。

 おでこへ良い感じに浮かんでいた汗を軍手の甲で一拭い。


「…………。お、おい、安全確認は気を付けろ! 事故が起きたらどうする!?」


「は、はい! すいません!」


 設営リーダーらしき壮年男性の怒声が、広い会場に響き渡る。

 そうだよね。

 事故があったら大変だから、気を付けないと。


「グラフィックポイ、プロジャクションマッピング、3Dホログラムオッケーです!」


「よし。近代的な仮想空間を演出するのも良いが、やはり基本装置も大事だ! スモーク、フォグを一瞬出してくれ! オッケー! 最後、紙吹雪は詰めずにバズーカを――馬鹿野郎、覗き込む奴があるか!?」


「――ぇ」


 バズーカと呼ばれる筒を覗き込んでいた男性が、男の怒声に顔を向けた瞬間――ボンッと、空気砲が発射された。


「うわぁあああ!? おい、救急車――……ぇ?」


「あ、大丈夫ッすか?」


「――……ぁ、は、はい?」


 危ないかなぁ~と思い、全速力で抱えて空気砲を避けたんだけど……。

 これは正解だったな。

 普通の人なら、最低でも鼓膜が破れていたかもしれない。


「無事そうで良かったです」


「あ、ありがとう……ございました。ほ、本当にありがとうございます!」


 一拍おいて、何が起きたのかを理解したのだろう。

 空気砲による事故に遭いそうだった男性はペコペコと頭を下げてくる。

 うん、事故が起きなくて本当に良かったよ。


「…………」


 設営リーダーは、俺の顔を見詰めてポカンとしている。


 まぁ……開拓者ですし?

 多少の危険は対処出来ますよ。


「お、おい! 一端、全員集合! 今日は絶対に起こしちゃ行けない不幸な事故……その未遂が起こり過ぎだ! 打ち合わせからやり直すぞ!」


「「「は、はい!」」」


 設営スタッフの人々は一端自分の作業を止め――集合。

 その後は特に問題がなく準備――そしてリハが進んで行った。


「――あ、川鶴さん!」


「大神さん!? な、何をしているんですか!?」


 ジャージ姿のトワイライトの面々を連れた川鶴さんは、俺の作業着姿を見て驚愕の表情を浮かべている。

 驚いてメガネを傾ける人って、本当に居るんだなぁ……。


「何って、俺はライブもないから暇っすから……。朝から設営の仕上げとリハをやると聞いたので、手伝ってました!」


「ど、道理で……。寮のインターホンを何度押しても、スマホの通話にも出ない訳ですね……」


 川鶴さんは――ガクッと舞台に膝を付いた。


 まだ作業中だから、床には物とかも落ちてて危ないですよ?


「大神さん……。お、お気持ちはありがたいんですが……ね? 今日の流れ、覚えてますか?」


「はい! トワイライトは今日の最後の出演――だいたい15時から出演! そして15時半に終演予定です!」


「ご自分の予定が流れに入ってないですよ!?」


 川鶴さんは床に両膝を突き、頭を抱えている。


 俺の行動が書かれたメッセージも確認したけどさ……。

 やっぱり兄としては、美尊の晴れ舞台が見たいじゃない?


「おにいちゃん、相変わらずで安心した。大丈夫、お兄ちゃんの出番と私たちは被らないようになってる」


「にししっ! 美尊は大神先生に愛されてるな~。いや、両想いか? ウチらの事はついでなんすかね? 残念だなぁ~、悔しいなぁ~」


「お兄さん先生は相変わらずの妹命ですね……。オーナーの存在も忘れないでくださいね?」


 美尊も深紅さんも、涼風さんも苦笑している。


 なんか涼風さんは……ちょっと違う気もするけど。

 なんでここで、出演者でもない姉御の話が出るんだろ?


 川鶴さんは気を取り直したのか、ガバッと顔を上げ――。


「――兎に角、ですよ! 手伝って頂けるのは、ありがたいですが……。今日のスタジアム開演時間13時より前――10時から、大神さんには写真集当選者への握手会があります! 会場は直ぐ近くですが……10時からなんですよ!? もう! 頭にタオルなんて巻いたら、髪型が……」


 背伸びをして、川鶴さんは俺の頭に巻かれたタオルを取る。

 癖の付いた髪を直そうと四苦八苦してくれているみたいだけど……。

 すいません、無駄に身長が高いものでしてね……。


「分かりました! 今すぐ、そちらの会場へ向かえば良いんですね!?」


「は、はい。……本番前に疲れさせてしまい、すいません。握手会前にメイクをしますので、付いて来てください」


 トワイライトの面々を他のスタッフへ一任した川鶴さんは、俺を連れてスタジアムを出ようとする。


 そんな俺の背に――。


「――今日の1番のMVPは、大神さんですよ。……MWPは、設営リーダーである俺ですがね」


 設営リーダーさんの悔しそうな声が届いた。


 う~ん……。

 まぁ事故が起きて怪我人が出たら、開拓者の治癒魔法も間に合わない可能性もある。

 舞台装置が壊れたら、治癒魔法だって効かないからね!

 取り敢えず、俺も何かしらの役には立てたみたいで良かった!

 握手付き即売会、まずは成功させるぞぉ~!



―――――――――――

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