第144話 最終日! 良い反応するよね

 そうして迎えた指導最終日。

 前日の指導を終えた直後、俺は1つのアンケートを取っていた。


「うぉおおお……。良いねぇ、これは激アツになれそう!」


 俺の前には15組のパーティや、即席で分けられた生徒たちの集団。

 1組に付き3~5人で分けられている。


「それでは――2分間制限での組み手指導を始めます! 最初のパーティは前へどうぞ!」


 そう言うと5人組の生徒たちが出て来た。

 これは――AIが、相性が良いと導き出し組んだ生徒たち。


 狭い場所では単独の方が戦いやすいダンジョンだが、パーティで上手く立ち回れるなら、その方が良い。


 と言う訳で俺の自由裁量じゆうさいりょうゆだねられた最終日は――より多くの者と組み手指導の体験を! パーティを組む機会や再考も含めてね!

 と言う意図で決めた。


 6時間という短時間でも、パーティとの戦闘なら350から400人と立ち会える。

 それだけでなく1日で全員が……最悪でも生徒同士で戦闘を出来るように!

 待機日とかが無いようにね!


 訓練場はすし詰め。

 だからこそ――緊迫感が生まれる。


 俺が不意打ちをしなくても――周囲から流れ弾が跳んでくるんだからね!


 勿論、姉御がマルチバース社と協同で開発したと言う道具も使わせてもらう。

 突然の授業変更だってAI様に頼ればお茶の子さいさいって寸法ですよぉおおお!

 文明の力に依存、万歳ぃいいい!


 最終日だからか、再度教頭先生が立会人をしてくれるようだ。


 そうして俺とパーティを組む生徒の間に立ち――。


「――それでは両者、準備は宜しいな。――始め!」


 最終日の指導、対パーティでの――ボスを想定した訓練が始まる。

 この4日間の指導で分かったけど……流石に、学生に負けるレベルに俺はない。

 Cランクダンジョンのボスまでなら、単身で楽々と倒しているからね。

 生徒たちにはCランク以上のボスと対戦するに等しく、良い経験になるだろう。


「――止め! 全員戦闘不能により、勝者は大神先生とする!」


 うん。

 即席でも相性の良さは分かる。

 マジでマルチバース社さんのAIって優秀ね……。


 いつも通り指導をして行き――そうして生徒同士の対戦が始まる。


 これも概ね予想通り。

 あちらこちらから飛んで来る攻撃に対処出来ず、次々と身代わり装備に蓄えていた魔力が尽きている。

 戦闘継続が危険になった生徒は、教諭や俺によって直ぐに戦闘から外れた場所へと避難させられる。


 真の危険というのは――予想の埒外らちがいからやって来る。


 どんな時、どんな状態で……どんな攻撃が来ても対処が出来るように。


 このすし詰めの状態は、まさに予想外の連続。

 即ち、常在戦場の魂を欠片でも感じてもらえたら嬉しい。


 そうして授業は進んで行き――迎えた6時間目。


「お兄ちゃん。楽しみにしてた」


「私たちは学園でも最高レベルのパーティですからね。負けませんよ?」


「大神先生! トワイライトの立ち回り、味わってくださいね!」


 いやぁ……。

 最後の最後に来たかぁ~。

 流石にAIくんも、分かってるね。

 大トリに1番の実力者パーティを連れてくるとは……。


「それでは――始め!」


「行くっすよ! はぁあああ!」


 深紅さんが真っ直ぐに突っ込んで来る。

 片手剣を突き刺す――と見せかけ、シールドで俺の顔を狙ってきた。


 当然、俺はシールドを受け流す。


 追撃をかけようとした時には――深紅さんはもういない。

 シールドで視界を閉ざされているうちに、飛び退いて距離を取っていたようだ。


 代わりに視界に飛び込んで来たのは――。


「――美尊、か」


 槍を突く美尊の姿。

 当然、俺も躱そうとする。


 しかし――。


「――お」


 俺の足は、床と氷でくっつけられていた。

 深紅さんのシールドで視界が隠れている間に、魔法で逃げ道を塞いでいたのか。


 そして頭上からは――高速で飛来する弓矢。


 美尊の後ろから射放ち、風魔法を使って方角を変えていたんだろう。

 右方向からは体勢を整えた深紅さんが地を滑るように駆けて来ている。


 左方向には……成る程。

 深紅さんも唯、飛び退いた訳じゃない。


 俺の左側に炎魔法が仕込んである。

 後ろに飛び退いても3人の攻撃が付いて来る。


 前後左右。そして上下の動きを封じた――良い連携だ。


 一の手、二の手とそれぞれが次の策を用意しているのはポイントが高い。

 力尽くでぶち壊すのも良いんだけど、ここは敢えて――。


「――ほっ」


「なっ!? 大神先生、矢を口で!?」


 このぐらいの速度なら、神通力で強化した歯で矢のシャフト部分を噛み止められる。

 美尊の槍も体捌きで躱そうとして――。


「――爆発!」


「あいたぁあああ!? やっ槍も来るぅううう!?」


 噛みついていた弓矢が爆発した!?

 仕込まれた魔法、それも――この淡泊な魔力の味、火や爆発を得意とする深紅さんのものだな!?

 俺の左に罠を張ったので精一杯と見せかけて……やってくれますね!


 素直に驚いたなぁ。

 美尊の槍を避けようと、氷のせいで一拍送れて体捌きを取れば――。


「――はぁあああ!」


 槍を突き出す右手を巧み使い、槍先をぶれさせながら追尾してくる。

 それでも、まだ避けられる速度だ。


 そうして避けると――美尊は突き出した槍で薙ぐように、俺の身体を押し倒そうとして来る。

 上手く肩甲骨や身体から螺旋式の力を使われると、この力が中々に強い。

 そうして俺は、左へ置かれたトラップを踏まされる。


 すると――炎の柱が飛び出して来た。


「もらったぁあああ!」


 炎の中に俺が要るのを確認した深紅さんと美尊は、それぞれの得物で突き技を放ってくる。

 でも、惜しいね!


「お兄ちゃんに避けられた!――涼風!」


「うん、風行くよ!」


 空中に雨粒の様な物が大量に浮かび――俺を中心に竜巻のように回る。

 美尊が得意とする水魔法に、涼風さんが得意とする風魔法を混ぜたのか。

 これだけなら、視界を少し邪魔する程度だけど――。


「液体にを混ぜたのか! 良い手だね~!」


 避けにくい液体に――目潰めつぶしとしては効果的な酢を混ぜて来た。

 神通力でまといを作る俺に、美尊は槍を俺の目に合わせた――距離の掴みにくい高さで突いて来る。


 同時に深紅さんはしゃがみ込み、俺の足下を狩るように片手剣を薙ぎ払って来た。

 涼風さんは、上から弓矢と風魔法の準備……か。


「取った!」


 深紅さんが叫ぶが――俺は片手剣を足で踏みつけ、美尊の槍を身体で押さえつける。


 さぁ、自分の得物を無力化されてどう出る?


「はぁあああ!」


「ウチらは、そんなの予想済み!」


「うん――素晴らしい」


 美尊や深紅さんは、懐に隠していた短刀を抜き迫ってくる。

 涼風さんは――風魔法で、砂埃すなぼこりを的確に俺の目元へ放って来ていた。


 ここに来て、最も目潰しに効果があるものを投入して来るか!

 弓矢による攻撃と見せかけて、か。

 本当に素晴らしい連携だ。

 間違いなく、学生内で1番強かった。


 でも――。


「――ごめんね。この距離では、積み重ねて来た練度が違うから」


 美尊の突き出す短刀の軌道を曲げ――俺へ向かってくる深紅さんの刀の軌道と、重なるように逸らす。


「なっ!?」


 当然、深紅さんは刀が美尊に刺さらないように慌てて逸らす。

 しかし、そうすれば――2人の身体が衝突して倒れる。


 その隙に、俺は美尊から奪っていた槍を背中へトンと優しく突き立てる仕草をした。


 はい、これで2人は戦死扱い。


「2人のどちらかは、俺の身体にしがみつくべきでした。――そして涼風さんは、時には距離を詰めませんと。常に後ろにいるだけでは戦略が読めてしまいますよ」


 神通足で宙を駆けて迫る俺に、涼風さんは懐から粉を振りかける。

 それは近寄られた際に、相手の目を潰そうと用意していた手段だったんだろう。


 確かに、魔力を練る魔法では間に合わないけど――。


「――ごめんね」


 ぶおんっと、神通足で涼風さんへ向けた風を起こす。

 すると――。


「――目が、目がぁあああッ!」


 何処かの大佐みたいな事を叫び、涼風さんは目を押さえながら床を転げ回る。

 メガネをしていても、風は間を辿って入るからね。


「い、一本! 勝者、大神先生!」


「近接戦闘の鍛錬は、考えこそすれ実戦経験と臨機応変さが足りてなかったね。――とは言え、良い感じでした! 個々人に俺が指摘した弱点も修正して来て、素晴らしかったっす!」


「ど、どの口でウチらにそんな事を……」


「うう、お兄ちゃんのスーツ、クリーニング後みたいにピッカピカ……」


「あうう……。目が痛い、治癒魔法をしても直ぐまた痛くなるぅううう……」


 ちょ、ちょっとやり過ぎたかな?

 特に涼風さんは、水魔法で目を洗っては治癒魔法を使ってを繰り返してるけど……。


 これ、暫くメッチャ痛いだろうなぁ……。


「でも、真剣勝負の稽古だから謝りません! かなり惜しかったけど、もっと殺すつもりでかかってきてね! 死ぬつもりで生き残らないとですよ!」


「うん、分かった」


「はいッ! これでもまだ甘かったとか……。俄然、燃えて来たぁあああ!」


「目がぁ……。私の目がぁあああッ!」


 前向きな2人、痛そうに目を押さえて、指導所じゃない涼風さん。


「つ、次は……度が入ったゴーグルとかで戦うのも良いかもっすね」


 俺は冷や汗を垂らしながら、逃げるようにそう忠告をする。


 そうして、金曜日――最終日の指導を全て終えた。


 最後に生徒たちへメッセージ動画を送り、いよいよ――シャインプロのハロウィンフェスティバルだ!

 涼風さんには、医療機関でも使われるという高価な目薬を贈っておきました――。



―――――――――――

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