第87話 気負いのある動き

 シャインプロ所属の女子校生開拓者パーティ、トワイライトのリーダー――旭深紅あさひみく

 他のメンバーよりも1年年上の少女。

 勝ち気で力強い瞳に、機敏に動き回る小柄な片手剣使いだ。


〈お~やっぱBランク開拓者だけあるのかw〉

〈深紅ちゃんは小っちゃな身体で一生懸命だからな。負けず嫌いな所も好きな人は大好きって感じだし。生意気な妹を見てる気分になるから〉

〈噂だと悪名高い旭プロの社長副社長の娘なんでしょ?〉


「彼女の出自とかは分からないですけどね……。やっぱり美尊みことが所属しているパーティは凄いですよ。兄の贔屓目ひいきめなしに」


〈親の贔屓目ならぬ、兄の贔屓目www〉

〈素人目だと動きが良くて可愛いとしか分からんw〉

〈武術家開拓者のあたおか先生! 何処が凄いのか解説お願いします!〉

〈解説動画かw 良いな、それw〉


 成る程、人の動きを解説するのも有りなのか。

 確かに、自分にとっても勉強になるし……。

 実際の動画を流しながら解説とか出来たら、より分かりやすいよなぁ。

 今度、マネージャー兼社長の川鶴かわつるさんにも聞いてみよう。


「パーティでの立ち回りは俺の知らなかった領域ですからね~。那須なすさんの全体の動きを読んだ立ち回りに、オールマイティな魔法の使い方。美尊も的確な前衛と後衛サポート、更には不確定要素を探る遊撃的な立ち回り。実に見事ですよねぇ~。……リーダーの旭深紅さんに関しては、動きの素早さと的確な指示は認めるんですけど……。ちょっと、1人の武人ぶじんとしては気になる点がありますね」


〈ズバリ、その気になる点とは!?〉

〈お兄様。何が足りないのか教えて下さい〉

〈武人としての意見かぁ。実力が本物だからこそ、気になるなw〉


「旭深紅さんの動きには――常に焦りと、自分が何とかしなければという気負きおいがあるんですよ。常に見えない何かと戦っていると言いますか……。リーダーとしての気負いなのかとも思いましたが、これはアーカイブを見返すと、旭深紅さんの配信初期から――ずっとあるんです」


〈焦りと気負いかぁ~。一生懸命で常に全力なんだと思ってたけど、言われてみればそうかも〉

〈ずっと立ち止まる事なく、毎日のようにダンジョンに潜ってるもんな〉

〈毎日潜り続けてるのとか、マジで凄いけどなw 体調管理も含めてプロ意識と努力の塊w〉


 彼女が何に焦って、何を気負っているのか迄、俺には分からない。

 それでも――見えない強大な敵に追われ、動きに余裕がなくなっているのは間違いないと思う。


「俺も……姉弟子や兄弟子に、よく指摘されたんですけどね? 気負いや焦りは――余裕を奪うんです。適度な余裕を持っていないと、予想外の動きや展開で動揺しやすくなって、カバーも遅れるんですよ」


〈成る程なぁ。緊張感と余裕を併せ持たなきゃいけないのか〉

〈それが難しいんだろうけどなw〉

〈深紅ちゃんはトワイライトのリーダーとしても、常に全力投球だからな〉

〈一生懸命な所は好感高いけど、触れたら切れる張り詰めた糸みたいだなとは感じてた〉

〈キレたナイフか〉

〈↑そのナイフはもうキレてて使い物にならない定期w〉

〈それでもファンに向けては笑顔を絶やさないんだから凄い〉

〈ライブや握手会があった日でも、ダンジョンに潜ってるもんな。一体、何に追われてるんだろ?〉


 彼女とは会ったこともなければ、どんな人生を歩んで来たのかも知らない。

 だから、どうすれば良いのか解決策も分からない。

 俺だってまだまだ未熟なんだから、単なる見間違えという可能性だってある。

 適当な事を言う前に、話を打ち切ろうとしたんが――。


〈どうすれば旭深紅はもっと強くなれると思いますか? 追われて動きが鈍ってるのは、どうすれば解決すると思いますか? お兄様なりの見解で良いので、教えて下さい〉


 なんだか、妙に切羽詰せっぱつまったような質問が来た。

 その真剣な問いに、俺はキチンと考えてから口を開く。


「この問題の多くは――ちから現在、未来の境遇きょうぐうと深く関連する事が多いと思います。俺の場合は……当主として認められるように、見放されないようにと追われ、盲目もうもくになっていました。おそらく彼女にも、そういう大切な信念――或いは、眼前に迫る人生レベルの恐怖があるんだと思います。……きっとそれは、彼女じゃないと分からない重大な話です。――だから、周囲に助けを求めて欲しいですね」


 そう。

 自分の問題だからと、1から10迄の全てを自分が何とかしなければならない訳ではない。


「戦場に立つのは、確かに自分です。日常生活でも、ダンジョンでも同じ。だけど戦場に立つのは、1人とは限らないんです。後方支援だったり、周囲の仲間がいたり……。最初から誰かに頼る気構えではいけませんが、自分だけではどうにかならない事態、戦況だってあります。戦国時代の戦場でも、個人の武勇だけで戦を決定付ける事は出来なかったでしょう?」


〈それは確かにそう。有名な合戦でも、有名な武将が策略で討たれたりする〉

〈ダンジョンでは1人も多いけど、日常生活なら味方を増やさないとな〉

〈今日はまともな事しか言わない。成長した?〉


 失礼な。

 俺は何時でも真剣、真面目だ。


「……なんか、彼女は俺と似てるのかもしれませんね? 姉御や兄弟子に頼れず――1人でどうにかしなければと生き続けた自分を見てる気分です! だから彼女には、周りに頼って欲しいですね。周りも彼女に寄り添って……時に優しく、時に厳しくしてあげられたら――おのずと、問題は解決に向かうんじゃないかなぁ~って。こんなもんで質問の答えになりましたでしょうか?」


〈参考になる! ちゃんと現実的に優しいの素敵w〉

〈そうだよなぁ~。俺も1人で試験勉強頑張ってるんじゃなくて、よくよく考えると色んな人に助けられてる。夜食とかw〉

〈お兄様が真剣に考えて下さるアドバイス、為になります。ありがとうございます〉

〈人に頼り、人に頼られて生きる。当たり前のようだけど、実践は難しいよなw〉

〈そういえばボイトレしてるって話だけど歌は上達した?〉


 お?

 それを聞いちゃいますか!?


「歌……歌っちゃいますか!? 左右にステップを踏みながらリズムを取る練習もしてますから! 俺の歌も、ちょっとは上手くなったと思いますよ!? これ、歌練習枠にしちゃいます!?」


 丁度、食事も終わったし――成果を見せちゃいますか!?



―――――――――――

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