第88話 こんなの、望んでないもん
空になった食器に手を合わせ、俺はスクッと立ち上がる。
〈お!? 生歌披露!?〉
〈お兄様の歌!? 楽しみすぎて心臓が疼くぅうううううう〉
〈うおおおおおお! 公式イメージソングで機械でもどうにもならんと言われた歌か!?〉
〈筋肉があるし良い声してるから、少し練習したら絶対に上手くなるだろ!〉
〈あれ? これもしかしてフラグ?w〉
〈ザワ、ザワ……〉
〈いやいや、まさかそんなwww〉
コメント欄が盛り上がって来た!
よしよし、俺も先生以外の人から歌の評価をして欲しいし――やっちゃいましょう!
食器を片づけてから、俺は
公式イメージソングは配信ドローンに取り込んであるし、流しながら歌えば良い。
「イヤホンもして……よし、行きますよ!? 俺の公式イメージソング『陽の当たる道を征く』!」
〈うおおおおおおお〉
〈歌え歌えええええええ!〉
〈メッチャ活き活きしてる『あたおか』可愛い!w〉
肩幅に足を開き、基本の姿勢はオッケー。
先生に教えてもらった内容を思い出しつつ――全力で歌うぞ!
配信リンク式腕時計を操作して、曲を流し始める。
小気味よい曲の前奏がイヤホンから流れ始め、鼓膜を揺らした。
〈殲滅確定音楽きたぁああああああ!w〉
〈テンション上がる良い曲だwww〉
〈パチスロ大当たりぃいいい!〉
それに合わせ、俺も左右にステップ!
「このように音に合わせたステップで、曲のリズムを取るんですよ!」
〈いやいやステップ速い速い速いwww〉
〈分身の術使ってるじゃねぇかwww〉
〈曲のリズムにあってるの、コレ!?www〉
〈ソニックムーヴだと!?w〉
〈え、残像!?www〉
〈空気の振動音がヤバいwww〉
空気の振動音?
腹式呼吸を意識だ。
〈ぎゃぁあああああああああああああ〉
〈耳が、耳がぁああああああああああああ〉
〈鼓膜ないなった〉
息を吐きながら声を乗せ、歌い始めると同時――
少しだけ、声量が大きかったのかな?
今までゆったりと喋っているだけだったから、急な歌声だと皆の音量調節も間に合わないか。
音量は視聴者側に調節してもらおう。
リズムに乗りつつ、本気で歌い続けると――。
「――え?」
ズズンッっと、何かが崩れ落ちるような地響きを感じた。
思わず歌うのを止めて、音がした方向へと注意を向ける。
「今、何か大きな者が落ちる気配がしませんでしたか!? まるで落石のような……」
〈ミュートにしてて聞こえませんでした〉
〈機械が負けた理由が分かった……。マルチバースの最新機器が音割れぇ……〉
〈声でかぁ……〉
コメント欄に問うが、返事は鈍い。
音割れ……機材のトラブルがあったのかな?
先生から『声が爆発的に大きいから優しく歌おうね』とは、よく注意されるけど……。
マイクに歌声を乗せる場合は、もっと優しくを意識しないといけないのか。
やっぱり実践は勉強になるな!
「とりあえず、音がした方角を見に行ってみます! 事故かもしれませんので!」
ダッと、地を蹴りダンジョンを進んで行く。
モンスターが大量に出現するその場所で、何か――……。
「――……は? 何ですかね、コレ。……
見れば天井から落ちたであろう岩盤が地に落ち、砂埃を巻き上げている。
その下にはモンスターもいたのだろうが……。
今では瓦礫の中で魔石やドロップアイテムへと、その身を変えていた。
周囲にいるモンスターたちも――……。
「……なんで、泡を吹いて倒れてるんだ? 落盤の衝撃でショックを受けたのか?」
あちらこちらに、オークやオーガ、ワーウルフが倒れ痙攣している。
更なる落盤に注意しながら進んで行くと、左腕の配信リンク式腕時計から興味深いコメントが流れて来た。
〈それ、あたおかの声圧で落盤と気絶したんじゃね?〉
「え、これ――俺が歌ったせいなんですか!?」
嘘でしょ!?
でも、何の前触れもなく急に落盤が起きるとも考えにくいしなぁ……。
やっぱり、俺の声が大きかったせい!?
〈ソニックムーヴステップと大声によるダブルパンチかwww〉
〈遂には触れずしてモンスターを倒したとか、あたおかwww〉
〈良かったぁ。真面目な話ばっかりで違う人の配信を視てるのかと勘違いしたよw〉
〈音割れ機能に助けられたw 今頃、あそこで痙攣してるのはワイらだったかもしれんw〉
〈歌の上手い下手が分かる以前の問題だったわw 叫んでもあそこまではならんぞ!?〉
〈一流開拓者の肺活量は兵器だと初めて知ったwww〉
〈地底人式、手を使わぬ狩り方法www〉
〈念願の初ドロップアイテムじゃん! 良かったなw〉
なんだろう……。
声に神通力を乗せて威圧する姉御じゃないんだからさぁ……。
初ドロップアイテムゲットなのに、悲しくて泣きそうだよ!
「――こんな方法のアイテムドロップ、嬉しくない……」
そんなに俺の声、大きいのかぁ……。
で、でも!
これで課題を知れたんだ!
これは前進、必要な痛みだったんだ!
「えぇ~っと……。初ドロップアイテム、取ったどぉおおおッ!」
俺は初のドロップアイテム――ワーウルフの毛皮やオーガの牙を
〈泣かないでwww〉
〈ポテンシャルの塊だから、こっからだからw〉
〈祝! 白星を抱えていてもドロップアイテムを取れる方法発見!w〉
〈大きな声出せる才能があるんだよ! ボリューム調節していこうな?w〉
〈前向きで悲しくても笑おうとするお兄様、素敵〉
〈換金すれば魔石より高額査定だからw〉
やっべ……。
凄い励まされてるじゃん。
――良かったのう、向琉。泣きたいなら、妾を抱いて泣いていいんじゃぞ?
白星、うるさいよ。
名前が出たから、ここぞとばかりに念話をしてきやがった。
普段は俺の左腰で視聴者にイジられないよう息を潜めて唯の太刀を装っている癖に……俺をイジれると思った途端に声をかけてきやがってぇえええ!
――いやいや、向琉がドロップアイテムを取れないのは妾も申し訳ないと思っておったのじゃぞ? よもや、このような解決策があるとはのう……。仰天じゃ。
好きでやったんじゃないよ! 偶然の賜物……いや、悲劇だよ!
――流石に、これは妾でもイジれんよ? 毎日、必死にレッスンしておるのは知っておったからのう。なんじゃろう、まぁ……。これからじゃぞ?
やっばい……。
10年以上も連れ添った毒舌銀狐の白星にまで、慰められたんですけど?
刀に慰められるとか……。
これは中々メンタルに来る……。
だけど――ここで落ち込むのは、ダサすぎる!
旭深紅さんを見習って、辛い時でも笑顔だ!
「それでは――折角なので、他のモンスターもキッチリ止め刺しておきましょう!」
未来への前進だと思い、食料庫に倒れているモンスターをキッチリ魔石へと変えていく。
この日の開拓での収益は、Dランクダンジョンに潜ったとは思えない金額になった――。
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
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