第195話 ……やり過ぎた?

 焦りは動きを単調にさせ、かえって時間をかけてしまう!


「くそっ! 百体以上いたのが、あと半分ちょいぐらい!? まだそんなもんか!」


 扉の前でモンスターの猛攻を凌ぎ、ほぼ全てカウンターで屠り続けている。

 自分から攻撃を仕掛ける暇はない。

 一掃できるような大技も、この数の前ではだ

す隙がない。

 流石はAランクモンスターによる多対一の波状攻撃はじょうこうげきだ。


 攻撃の反動を利用し、急所である魔石を一撃で砕いて行くしかない。

 その繰り返しで――時間が刻一刻と迫っている!


「このままじゃ、旭柊馬あさひしゅうまが……」


 あの自爆バンドでドーピングしなければ、旭柊馬は突撃して数秒後にはミンチだろう。


 とは言え、あのバンドは――3分間、身体能力が原因で死なないようにと渡しただけ。


 技もないなら、身体能力が上がろうと真の強敵に叶うはずもないんだから。


 だから――3分以内に中へと入り、バンドを外して助けなければいけないのに!

 そう焦っていると、後ろの扉が開き――。


「――大神さん、ここは俺らが引き受けます! トワイライトを……旭柊馬さんを、助けてください!」


 パスパレードされたパーティが、そう声をかけてきた。

 俺が食い止めている間に治癒魔法をかけていたのか、確かに全員が戦えそうな状態ではあるようだ。


「――深紅さん!? 旭社長!? くそ、でも……」


 戦闘で敵を屠りながら、扉の中をチラッと視れば――旭柊馬が倒れ、ボロボロの深紅さんが助けに走り寄っていた。


「――行ってくれぇえええ、大神向琉さんよぉおおお!」


「あ、あなたたちは!? 旭プロの!?」


 押し寄せるモンスターの反対端に――パスパレードをした、旭プロのパーティがいた。


〈あいつら、ここまで来たのか!〉

〈全ての元凶、まさかの加勢!?〉

〈必至に逃げて悪気が無かったとは言え、悪は悪だからな。自分のケツを拭いに来ただけ、まだマシな悪だけど〉


「……合わせる顔がねぇとは分かりつつもよ、せめてもの償いをさせてくれ!」


 そうして隊列を組み、モンスターを1匹1匹、討伐し始めている。


「……本当は俺たちにモンスターを押し付けた連中なんて、顔も見たくない。共闘なんてまっぴらごめんなんですがね。今は特別です。――さぁ、モンスターは挟み撃ちで混乱している! 大神さんは、サイクロプスをお願いします! あれは、大神さんじゃないと倒せないんです!」


 開拓者パーティは、そう言って――旭プロと共闘し、両端からモンスターを討伐していく。

 間に挟まれたモンスターは前後から飛来する魔法攻撃、武器による攻撃に狼狽え、碌な反撃も出来ない。


 この形勢になれば――。


「――分かりました! 感謝します、ご武運を!」


 確実に優勢に戦える事を確かめ、俺はボス部屋へと駆け入る。

 すると、もう正にコンマ数秒後には――深紅さんと旭社長が巨大な棍棒に潰される。

 そんな状況が目に映った。


「――くっ!」


 全速力で走り骨身ほねみきしませる重い棍棒を受け止め――イヤイヤ! マジで、ものすっごい、重いんですけど!?

 流石に骨がミシッとか言ったわ!

 あ~腕がビリビリといったぁい!


「――お兄様?」


 横目に、キョトンとした表情の深紅さんが映る。


 ああ、もう……生きる事を認めていたような目だ!


「お待たせしました!」


「お兄ちゃん!」


「お兄さん先生!?」


「美尊、涼風さん!……良かった、アクセサリーがちゃんと機能したみたいだね?」


「うん、お兄ちゃんがくれたコレがなければ、皆が死んでた」


「私、最期まで諦めませんでした……。お兄さん先生が本当に来るのは予想外でしたけど、オーナーとかが助けに来てくれるかもしれないって……」


 うんうん。

 美尊と涼風さんは、最期まで生きるのを諦めなかったんだね。

 それが1番!


「――よいっしょお! ホームラン、くらえよぉおおお!」


 俺は棍棒を無理やり取り上げ――逆に、サイクロプスを横殴りに殴打する。


 すると、数十メートルという巨体が地響きを立てて地を転がり――壁に頭から突き刺さった。


 うわぁ……。

 エリンさんがスキャンした俺の肉体構成の話じゃないけど……マジで人間の筋力辞めてるよなぁ。


 と言うか、この棍棒良いな。

 予想以上に強い。

 天心無影流は素手でも戦えるとはいえ、やっぱり武器があった方が遥かに強いから。

 姉御もそうしてたし、俺だって白星の呪いが無ければ武器を用意してた。


 これがあれば、門の前に居るモンスターを一気に蹴散らせそう。

 コイツを倒したら、もらっていこうかな?

 いや、ギルドへの扉を通れないか。

 そもそも、多分モンスターの一部扱いだろうから一緒に霧散むさんするか……残念。


〈えぇえええええええええ〉

〈いやいや流石にCGよな? え〉

〈あたおか、マジで……。えぇ〉


 視聴者も流石に引いてる。

 で、ですよねぇ~……。


「や、やぁあああ! ぱ、ぱぁわぁああああああ!」


 カメラに向かい、良い笑顔で筋肉アピールをする事で、空気をほがらかにしようと試みる。

 世界一爽やかで、頼れるマッスルをイメージ!


〈パクリネタかよwww〉

〈規模が違うんですが……。あの人が投げてるのあめちゃんだし。シリアスを壊さないとタヒんじゃう病気なの?w〉

〈お兄様ぁあああ! あああお兄様の筋肉に一生ぶら下がりたいむしろお兄様の筋肉の一部になりたい!〉

〈↑視聴者様の中に脳のお医者様はいませんか!? 大変なんです!〉

〈↑残念ながら手遅れです〉


 ど、ドン引きよりは少しマシになったかな?


 でもこれで、サイクロプスとは距離が空いた。

 なんか横たわったまま、ピクピクと痙攣けいれんしているし……それなりに時間を稼げるだろう。


 俺には、ちょっと深紅さんと話したい事がある――。


「――深紅さん、もう諦めてしまうんですか? 譲れない何かの為に死んでも良い。それぐらいの気持ちで戦うのは、武人としてありだと思いますよ。でも……死ぬ事で、終わりにしようとか思ってないっすか?」


「そ、それは……。ウチは幼い頃に父さんを傷付けて、おかしくしちゃったから。それで父さんが色んな人を傷付け、命を奪う事態にすら陥ったからって……」


「それで死ぬ事が贖罪しょくざいになるとでも?――ふざけんな」


 心の底から、否定の言葉が口に出た。


 復讐なら兎も角、知らぬ所で死ねば、亡くなった人が報われるとでも?


 そんな馬鹿げた話があってたまるか。



―――――――――――

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