第115話 姉御の報酬は? やってやるぜぇえええ!

 俺は姉御と相対そうたいし、やっと本音で語り合えると安堵あんどの息を吐く。


 姉御も配信が終わったなら、俺を守る為に悪役を演じる必要もない。

 そうやって、少し気を緩めてくれたようだ。


 とは言え――常在戦場の精神は忘れていない。

 周囲のモンスターへの警戒はおこたっていないようだ。


「……済まんな、向琉。私が不甲斐ふがいないせいで、迷惑をかけた」


「いえ、俺こそ……。俺が人類じんるいてきとか、国や企業の偉い人に狡猾こうかつ手口てぐちで利用されないようにしてくれた時みたいに……。リアリティのない借金を言い訳に、自分にヘイトを集めて俺たちを守ってくれてたのに……。また姉御にわざと悪人を演じさせてしまい、すんません」


「ふっ……。何度も言うが、気にするな。私が好きでやった事だ」


「でも……。姉御は俺が地上で自由に生きて行けるように環境も整えてくれて……。美尊と居られるようにもしてくれたのに。収入だって、契約を見直したり更に整えてくれると言ったり……。そんな大恩ある姉御に、俺は何1つとして恩返しが出来ていないっす」


 つくづく、自分が情けなくなる。

 この上、姉御が開拓者やダンジョン庁長官として情けないみたいな印象を配信で流す事になるなんて……。


「恩返しなどと、水臭みずくさい事を言うな。……私は、向琉の姉弟子あねでしなのだぞ? 姉が弟の為に動くのは、当然の事だろうが。そんな事より――向琉、強くなったな?」


 背中を合わせ、連携をして戦ったからだろう。

 姉御がたかぶっているのは、戦いで命のやり取りをしたからだけじゃない。

 俺の成長を肌で感じられ、浮かれているのかもしれない。


伊達だてにSランクダンジョンで生活していた訳じゃないって事ですかね? でも姉御こそ100キロメートル以上を駆け、300体のAランクモンスターと戦った後とは思えない……。改めて人外じんがいだな~って思いました!」


「お前が言うな」


 冗談に冗談で返す姉御の表情は、優しいものだった。


 まぁ……そうね。

 自衛隊の装備で、火を吐いたり水を生み出し大気を凍らせたり、姿を消したり目にも止まらぬ速度で動くモンスターに対応出来たとは思えない。


 お互い、この10年で人外になったもんだなぁ……。


「姉御の言っていた通り、神通力じんつうりきの良い練習になりました!」


「うむ。最速最短さいそくさいたん、無駄を排除はいじょし敵を討つ合理ごうり極地きょくち。武術と神通力の良き組み合わせだった」


「はい! 特に姉御と戦った時には、一段階上のステージに昇ったのを感じましたよ!」


 視覚に頼らず肌に触れる触覚や空気を流れる聴覚まで取り入れ、神通力じんつうりきを用いて武器にする。

 姉御の動きを間近で体感して合わせられたのは、本当に良い経験になった。


 Sランクダンジョンに落ちてた時は、白星はくせいの指導で魔力に頼って生き抜く事が多かったからなぁ……。

 神通力じんつうりきの応用は、また違った修行だ。


「うむ。神通力の総量そうりょう、用い方も戦いの中で向上させていたな。姉弟子として、師範代として……非常に嬉しく思う。……折角の上り調子に水を差す、開拓者資格の停止処置などに罰されず済んで良かった」


 安堵あんどした様子で、姉御は腕を組み息を吐く。

 嘘偽うそいつわり無く俺を心配してくれていたのが、血塗ちまみれの顔からでも良く伝わってくる。


「や、やっぱり……さっき姉御が罰金と決めなかったら、その可能性もあったんでしょうか?」


「少なからず、な。功績は功績として報酬は与えられるだろうが、同時に1ヶ月ぐらいの資格停止しかくていしは有り得た。……ギルド支部長の停止勧告ていしかんこくを無視して突入して来たんだろう?」


「は、はい。……居ても経ってもいられなくて」


「それならば、尚更なおさらだ。知らずに潜った訳でも、トラップなどでやむを得ずにルール違反をした訳でもない。十分な注意をされたのに振り切って来たのでは、な……。大義名分たいぎめいぶんがあろうと、可能性はあっただろうな」


 お、おう……。

 成る程。

 俺が思っている以上に、ランク以上のダンジョンへ潜るのは重いルール違反のようだ。


「罰金と確定させたとは言え……。こうしている間にも、金額きんがくふくらんで行く。時間での累進性加増るいしんかぞうだからな。だが……東京と日光。この2つに落ちているAランクモンスターの魔石の数々を換金すれば、差し引きでも大きな黒字となるだろう。さっさとドローンに積み込むぞ」


 そう言って姉御は、魔石を拾い出す。

 そして拾った魔石を、俺が持ってきたドローンの収納箱へ全て入れる。


「あ、あの……姉御? それは俺の収納箱っすよ? 自分のに入れないんですか? あ、それとも地上で換金後に報酬を分けるとか?」


「何を言っている。私は要らん。向琉が全て持って行け」


「で、でも! ほとんど姉御が倒した戦果じゃないですか!? 俺は、後半からの手伝い程度で――」


「――気にするな。言っただろう? 金の使い道に困るなら、貯めておけ。美尊と幸せに暮らせる環境を早く手に入れる為に、な」


「で、でも……。それじゃ、姉御の報酬が……」


 俺は申し訳なくて俯いてしまう。

 姉御はそんな俺の様子を眼にし、魔石拾いを中断して――歩み寄って来た。


「私の報酬など、気にするな。弟弟子おとうとでしの成長を間近で見られた。国民も守れた。姉弟子としても、ダンジョン庁長官としても、これ以上の報酬などはない。そうだろう?」


 15センチメートルぐらい身長が高い俺の頭に、姉御がポンと手を乗せてさとす。

 そうして優しく俺の頭をで――。


「――……これは、まさか!?」


 俺の頭に設置していたVRカメラが手に当たったのか、大きく目を剥いた。

 明滅めいめつしているカメラを見て、狼狽ろうばいあらわにしている。


 姉御……常在戦場じょうざいせんじょう、ですよ?


 そうして俺は、ミュート状態にしていた配信リンク式腕時計の自動読み上げ機能を――音声ありに変更する。


 思わず――ずっと我慢していた笑みがこぼれた。



―――――――――――

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