第104話 別にアレを倒してしまっても――

仇討あだうち、か」


「はい。あの黄色い龍だけは……必ず討ち果たす。ジジイの亡骸なきがらに――俺はそう誓ったんです」


 これだけは、地上に上がって幸せな生活をしていても……ゆずれない。

 ダンジョン災害の起きた日、俺の眼前で事切れたジジイの復讐ふくしゅうだけは――必ず果たす。

 あいつは、この世に存在して良い存在じゃない。


 今はダンジョンに居るのか、外に居るのかも分からない。

 たとえボスモンスターのように復活しようとも――2度と復活が出来ないぐらいに叩きのめす。


「分かった。――開拓者ギルドとダンジョン庁の総力を上げて情報を探そう」


「ありがとうございます!」


 よっしゃ!

 実質、国の全ての情報が揃うじゃん!

 やったね!


「いや……礼を言うのは私の方だ。正直、その条件を提示してくれて助かったぞ」


「……と、言いますと?」


「ダンジョン庁の力を使おうと、私は師範しはんあだの情報へと辿り着けなかった。相手が龍だと言う事すら、向琉に聞いて初めて知ったぐらいだ」


 あれだけの巨体なら、目撃証言もくげきしょうげんがあってもおかしくないけど……。

 龍にやられた血だらけのジジイが道場へ飛び込んで来た直後、災害が起きたからな。

 あの場所の近辺は『冥府行めいふゆきのダンジョン』という巨大Sランクダンジョンになったし……。

 目撃者も、被災してしまったのだろうか。


「ダンジョン庁はダメでも――開拓者ギルドなら話が別だ。ダンジョン庁よりも余程、あちらの方が些細ささいな情報でも持っているからな」


「そうなんですか?」


 正直、違いが良く分からない


「ダンジョン庁は災害後、数ヶ月経ってから出来た組織。ダンジョン災害の事や、初期の情報はかなり少ない。それに私が就任しゅうにんするより前の情報は役人任やくにんまかせだ。やる事と流れが理路整然りろせいぜんとマニュアル化されているだけで、現場が求めるような情報は極めてとぼしい。それに比べて開拓者ギルドは半民半官はんみんはんかん。国際的に運営されている事もあり、情報量は桁違けたちがいだ」


 へぇ……。

 そう言う違いがあるのか。

 つまり、開拓者ギルドとダンジョン庁は協力関係の仲良しで居たいって事か。


「それなら、期待が出来そうっすね」


「うむ。開拓者の中には、ダンジョンの何処かで黄色い龍を目撃した者がいる可能性もあるからな。報酬要求を伝え、大急ぎでギルドにも調べさせよう」


「大急ぎって……。ちなみに、そのスタンピードは何時なんです? 目安とかあるんですか?」


 ずっと待っていろと言われても、キツい。

 日付が分かるなら、それが1番だ。


「言いにくいのだが……明日の朝だ」


 目線を彷徨さまよわせて、姉御が口を開いた。

 あと1日もないのか。

 成る程。

 急な話だという事もあって、引け目を感じていたのかな。


「今回のスタンピードは、かつてない程に活性化の速度が速い。テロ組織サイドも、ダンジョンの根源こんげんことわりに近付いているのやもしれん」


 ダンジョンは、そもそも存在から謎だ。

 ただ――世界で一斉にダンジョンが出来て、這い上がってきたモンスターが人を殺してまた一斉に戻って行った。

 それだけだと聞いている。


 姉御に言われて見ると、ダンジョン誕生時の現象にはスタンピードと共通点も多い。

 テロ組織は、そのメカニズムに近付いているという事なのかな?


「長く待たされるより、余程良いっすよ! そもそも、常在戦場でしょう?」


 グッと、親指を立ててそう言う。

 なんなら、俺はこれから直ぐ戦いでも良いぐらいだ。

 姉御は、そんな俺の姿を見てわずかに頬を緩めた。


「明日の光景、向琉は配信をしても構わない。人類側には心強い味方がいると、反テロ組織へ知らしめる結果になるだろう。同時に――スタンピードをめている政府や国民にも、再度危機感さいどききかんうながせるかもしれんからな。だが……時間との勝負故しょうぶゆえに、ながし配信で頼む」


「垂れ流し配信って……。確か、何か作業をしている片手間かたてまに流し続ける配信ですよね?」


「うむ。……明日はコメントを拾おうとは考えるな。魔石を出そうとも欲張るな。その分、十分な見返りは用意する。いつものように配信映はいしんばえを意識したせる動きも良いが――それでは殺陣たてだ。明日は天心無影流てんしんむえいりゅうの探求する、合理ごうり最速最短さいそくさいたんで勝利する動きの鍛錬と思え。一切の加減は要らん。他の開拓者が応援に駆けつけられる時まで、ダンジョンから出られないよう時間を稼いでおくのも勝利条件の1つだ」


 成る程、合理ごうりを突き詰めた動きは――つまり、最速最短で敵をほうむる動きや兵法へいほうの全てだ。

 結果的にそれが1番、10分間の制約をクリアするのに繋がるだろう。


 それより――。


「姉御? 俺に……時間じかんかせげって言いましたよね?」


「ああ、言った。それがどうかしたか?」


 これは――あの名言めいげんを言うチャンス!


時間じかんかせぐのはいいが――別に、ソレをたおしてしまってもかまわんのだろう?」


 言えた!

 決まったぁ~!

 これ、地上に居た頃に視たアニメですっごいれた、クールなセリフなんだよなぁ!


「ああ、全て殲滅せんめつしてしまって構わん」


 しかし、姉御は普通に返事をしてきた。


 うん……。

 姉御は知らないだろうからね?

 こういうのは、知っている同士じゃないと盛り上がらんわな……。


「あ、はぁい……。頑張りまぁす」


「何を落ち込んでいる? それと当日、万一5番目を終えて余裕があれば――もう1つ、Cランクダンジョンへと応援へ向かって欲しい。ここだ」


 姉御が指さした地点は、5個目からほど近いCランクダンジョンだ。


「別に良いっすけど……他の人が担当するんじゃないんすか?」


「ああ……。そうなのだが、そこは旭プロが全て任せろ、と言ってきてな。正直、あそこは信用ならん」


随分ずいぶんとバッサリ言いますね。……まぁ深紅さんの件を聞いたら、俺もそう思いますけどね。あの胡散臭うさんくさい誘いに乗らなくて、本当に良かったですよ」


 今思えば、あんなのは口約束でしかない。


 小難こむずかしい事が書かれた契約書で、なんとでもやり込められていた可能性もある。

 移籍を承諾しょうだくするつもりなんて、端から1パーセントもなかったけどね。


「あれだけの好条件を出したのに断られるとは、旭柊馬あさひしゅうまも嫌われたものだな。少しは揺らがなかったのか? シャインプロの6倍以上の収入だぞ?」


「いえ、全く? あ、そう言えば聞きたかったんですよ。借金返済しゃっきんへんさいは全然良いんですけど……。なんで俺の取り分は、1割にしたんですか? 返済が無い他の子のように、半分とは行かずとも……。2割とか3割なら、旭プロとほぼ同等の配分だったんですよね? それなら姉御が叩かれるのはもう少し、なんとかなったのでは?」


 正直、姉御がいまだに『詐欺師さぎし』として叩かれているのは心苦こころぐるしい。

 徹底てっていしたと言えばそうだけど……。

 やり過ぎ感があったのも否めない。


「ふん。取り分契約が2割や3割だとしても、旭プロは全員が必須でパーティを組ませる。そうすれば、2割の報酬を山分け。仮に4人パーティなら……向琉が受け取る額よりも少ない。数字のマジックだな」


「おおう……。成る程、姑息こそくぅ……」


 美尊とパーティを組ませる提案にも、そういう意図があったのか。

 個人チャンネルじゃなく、パーティのチャンネルをほぼ毎日のように稼働させるのか。

 パーティでより高ランクダンジョンに挑ませる事で、より高い報酬も目指せるのかもしれない。


 あるいは――お金以外の何かで、パーティへこだわる理由があるのか。


「それに向琉の不当ふとうに低い取り分を公表こうひょうしたのは、他の所属開拓配信者やスタッフ、ファンを納得させる為でもある」


「……と、言いますと?」


「男性アイドルや女性アイドルだけだった事務所が、急に1人だけ男性アイドルを雇用こようしたら――ファンはどう思う? 向琉の知っている男性アイドルや女性アイドルしかい所属していない代表的なアイドル事務所。……そこのファンに置き換えて、少し考えてみてくれ」


 超有名なアイドル事務所と、そのファンを思い浮かべる。

 そこにたった1人、特例で異性が所属するとなったら……。


 あ、それは――死ぬな。



―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!



楽しかった、続きが気になる! 

という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

ランキング影響&作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る