第198話 助け合い

「俺も姉御も、深紅さんを見捨てませんでしたよ?」


「……でした? え?」


 やっぱり、気が付いてなかったんだな。


 意識では『助けて』を怖がっても、だ。

 無意識のうちに『助けて』と言ってしまうぐらい、それだけ信用をしてくれていたんだ。


「俺か姉御、どちらかが来るまで耐えようと――そう言う戦い方をサイクロプス相手にしてたんじゃないですか? それは『助けて』と言う意思から来る行動では?」


「ぁ……。ぇ、そん、な?」


「それは自分が強くなくても――助けてくれる人が居る。俺たちをそう信じてくれたって事ですよ。一緒に耐える戦い……耐久をした美尊や涼風さんも、『倒せない自分でも見捨てない。一緒に助け合ってくれる』。無意識で、そう思う事が出来てたんじゃないですか?……意識にすると、怖かっただけで」


「ウチは、ずっと『助けて』って動いてた?……無意識で?」


「はい。深紅さんは過剰に『助けて』と口にするのに恐怖を抱いてるみたいですがね? とっくに深紅さんから『助けて』と意思表示を受けて、皆が『助けて』たんですよ? 勿論、深紅さんだって誰かのそんな態度から『助けてた』事が、思い返せばあるでしょう? この状況にトワイライト全員で至った原因とか、まさにそうでしょうに」


 深紅さんは言われて気が付いたのか――呆然ぼうぜんとしている。


 本当に自分が有用だと示さなければ捨てられると思っていれば――勝ち目のない相手との戦闘で、協力すら求めない。

 人に『助けて』と言うのが、本当に『出来ない』なら、救助だって待たない。


 きっとサイクロプス戦を前にしても――さっさと1人身勝手に犠牲になり、楽になっている。


 誰とも『助け合い』が出来ない信じられないというのは、究極の自己責任論なんだから。

 自助努力のみしか認めず、互助や共助を自分の枠組みから外すって事なんだからさ。


「だからこそ――最期の最後まで信じてもらえるように……俺も努力します!」


「え?」


「助け合い、信頼関係は――相互そうごのものですから! 俺は深紅さんが最期まで死を選ばす、教官である俺の助けを待ってくれていると信じていました! 深紅さんが最期の瞬間、父さんと心中しようとするんじゃなく……最期の瞬間まで信用してもらえるようにって! それまで深紅さんが無意識でやっていた『助けて』を、お互いに意識してどんな状況でも出来るような関係に、なりたいです!」


「……お兄様。それでも、誰も助けてくれなかったり……。助けを求めた結果、大切だと思っていた人が離れて行ったら……どうすれば良いんですか? ウチは、どんなモンスターの攻撃よりも、あの社会的な孤独の方が……」


 その方が――死よりも怖いんだろう。


 それはそうだ。

 俺だって、始めてその人に助けてと言う時は――怖い。


 川鶴さんにだって、涼風さんにだって助けてと初めて口にする時は不安だった。

 でも――。


「――この人なら助けてくれるかもって人を巻き込んで、助けてもらうんですよ!」


「そ、そんなの! モンスターを押し付けた迷惑な旭プロ所属パーティと同じじゃ――」


「――一方的いっぽうてきな助けての押し付けじゃ、勿論ダメです。助け合い、なんですから。……後で助けてくれてありがとうって、自分に出来る形のお返しを、その何倍もする。お互いにそうしようとかえたすいのループの中で、きずなが生まれるんですよ。開拓者パーティも、その辺にいる人も同じです」


 武力で頼った事を、誰もが武力で返せるとは限らない。


 エリンさんが姉御や俺の力を研究する代わりに、アクセサリーや武具を作ってくれたのだってそう。

 その後、トワイライト皆の危機を、エリンさんが姉御に伝えてくれたのだって――後まで永遠に続いていく助け合いループの1つだ。


「……後で助け、助けられる。……今は私たちを助けてくれている、あの開拓者パーティも?」


「ええ、良い例ですね。彼らは自分たちだけ助かろうと思えば、この隙にモンスターの群れを突破出来ました。……でも、そうしないのは、彼らの背後に『助けて』くれた深紅さんたちが戦っているからですよ」


 今、ボス部屋前の扉で戦っているあの人たちだって――逃げようと思えば、手薄になり挟み討ちで混乱するモンスターを破って簡単に逃げられただろう。


 他にも手がある。

 簡単な話だ。


 門を開け放って、俺たちに全モンスターを押し付ければ更に完璧。


 それをしないのは――俺たちなら、サイクロプスも倒せると信じているから。


 モンスターパレードに追われていたのを、深紅さんたちが『助けて』くれた恩があるから、今度はサイクロプスに集中出来るように恩返しとして『助けたい』から。


 きっと、そうだと思う。

 見捨てず勇敢ゆうかんに門を抜かせないようにと戦う開拓者パーティを見て、深紅さんもそれに気が付いたんだろう。


 ツッと、片側の頬を雫が伝った――。



―――――――――――

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