第3話 何度も見た夢
ああ、これは夢だ。
直ぐにそう分かった。
『――
『オジィ――
だって――死んだジジイと、幼い頃の俺が要るんだから。
もう何度も何度も、繰り返し見て来た夢。
真っ暗闇の洞窟――ダンジョンの中で、数え切れない程に見て来た地上の夢だ。
『呼んでいた、じゃと?……お前、その
『
『名前まで……。――
『うん。お姉さんの声が頭に響きます。なんかテンション高いですね!』
『……ちなみに、刀を抜けるか?』
『ん……。ダメ、
『……そうか』
ジジイは、しばし俺を見つめた後――。
『直ぐに
『え、はい……』
普段はヘラヘラとしていて、
そんなジジイが、どんな傷を負った時よりも――
俺は
『
『え……』
『もう、天心無影流とは関わるな』
『な、なんでですか!? 俺、期待を裏切りましたか!? どんな山でも洞窟でも走ります! 武技の鍛錬も、もっと頑張りますから――』
『――もう良い。お前には才能が無い! 母屋へと行け! 勉強でもして来い!』
ジジイが
まだ小学校5年生――10歳ちょっとの頃だ。
7年間、俺は天心無影流の門徒となり、流派を残して行けるようにとジジイの指導を受けてきた。
自分なりに頑張ったつもりだけど――この日、俺は当主であるジジイに見放された。
後に調べて分かった事だけど……多分、家宝でもある御神刀、白星を抜けなかった事が原因だ。
素質が無いと判断されたんだと思う。
でも――諦める事は出来なかった。
門下生がたったの5人しかいない、小さな流派だ。
どんな武器だろうと使い、『
そんな日々が苦しくもあり――日に日に強く力を付けられるのが、楽しくもあった。
それからは道場には入れてもらえないから、蔵にある巻物を読み漁り、自分で実践したり。
師範代となった姉弟子が、地域の公民館で子供たちに武道を教える稽古という名の金稼ぎ覗き見たり。
そして――師範が他の弟子をしごいている所をバレないように盗み見たり。
兎に角、いつか師範に認めてもらえるように、と
そんな日々が続いた――15歳。
俺が高校1年生の春、その事件は起きた。
『――ジ、ジジイ!? どうしたんだ、その傷は!』
『道場に、入るなと……いや、逃げろ。
ジジイが居ないからと、隠れて道場で練習していたけど……。それを
理由は――直ぐに分かった。
『ぇ……。り、龍!? ば、化け物……』
黄色い
俺は情けなくも、その圧倒的な威圧感と眼光に腰を抜かしてしまった。
『ぐ……。
ジジイが神棚まで這って行き、神棚に手を伸ばすが――飾られている太刀を手にする事なく、腕を引っ込める。
その時、フッと微笑んだジジイは――一体、何を思っていたんだろうか。
『……我が命、魂を捧げ、ここに結界を
ジジイがそう
それはそうだ。――限界を超えた神通力を出す為に、ジジイ自身の魂を捧げたんだから。
『――ジジイ!』
結界の外で暴れる龍に怯えながらも、俺がジジイを抱き起こすと――ジジイは、目を
『……
その言葉を最後に――ジジイは事切れた。
そっとジジイの
むしろ最後の一滴まで吸い取った魂を燃やすように、結界の強度が増しているのが分かる。
『――トカゲ、お前が、お前がジジイを……』
憎しみに支配された俺は――御神刀を手に取った。
――今のお主に、妾が抜けるか? 悔しいんだろ? やってみろ。
『やってやる。……抜けろ、抜けろよぉおおお!』
本当にこれは――抜ける造りなのか? 元々1つなんじゃないのかと真剣に思う程に硬い。
――ほれほれ? そんなものか? 神通力を込めてみよ。
『あの龍を、斬る! その為に白星!――お前の力を、俺に寄越せッ!』
そうして――刀身の僅か5分の1程度まで抜けた。俺に出来たのは、そこまでだった。
――ほう……。
異変は――更に続いた。
『じ、地震!? いや……なんだ、この異常に暴走した神通力……。ち、違う。自然の力だけじゃない、混ざり物の――謎の力が……大気で、大地で蠢いている!?』
天心無影流が学ぶ、
もっと悍ましいものが満ちていくと知覚した直後――世界は暗闇に包まれた。
自分が地中深くへと落下している。
結界の張られた道場の敷地ごと地下へと落ちていき――次に気が付いた時には真っ暗闇だ。
それ以来、光は――自分で発生させられるようになるまで、目にする事が出来なかった。
生き別れた妹と再開する、あの時まで――。
―――――――――――
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