第177話 俺は要らない子ですか?

 思った以上の弓の威力と能力により、何時もの牽制役が牽制役に収まらない結果となった。


〈えぇええええええ!?w〉

〈後ろから見てたけど、避ける敵へ吸いこまれるように矢が刺さったwww〉

〈ホーミング機能かと思ったよwww〉

〈威力も唯の矢じゃねぇだろw 尽き立つじゃなくて、抉ってたぞ?w〉

〈弓矢の概念をぶち壊してくるなw〉

〈これ風以外の属性魔法を混ぜたら、もっとヤバい威力を出すんじゃね?w〉


 弓矢の概念をぶち壊すような、画期的な性能。

 それは涼風さんも真顔になるわ。


「……なめてますよねぇ。でも、それが出来るようになって……風と他の属性をそれぞれの矢へ別々に込められたら、戦略の幅は飛躍的に広がります」


「た、例えばですけど……。今回、美尊ちゃんがラミアに氷属性魔法を使って動きを止めたのも、遠距離から私が出来るようになるって事ですよね?」


「そう、なりますねぇ……。自分の身体から離れた武器に魔力を保持させるのは難しいんですが、これは射放いはなった瞬間の魔法をそのまま、暫くは矢が保持するのをアシストするらしいですから。勿論、その為の基礎も出来てなければ発動しないですけど……」


「……えぇ。た、確かに今までは美尊ちゃんにばっかり任せてましたけど……。遠隔魔法の基礎だけでも、ある程度の威力を放出出来るのはアシスト力が高過ぎぃ……」


「そんなの、遠くからスタートで対峙たいじしたらウチも負けるんじゃない!? 一応、ウチの方が開拓者ランク上なんだけどなぁ……」


〈ふわぁあああwww〉

〈ナニソノ、アタオカブキwww〉

〈これは流石に過保護武器なんじゃ?www〉


「ま、まぁ涼風さんの魔力保有量が凄く多いからこそ、導入されたんですがね!? 普通なら問答無用でアシストの為に魔力を吸うとか燃費が悪すぎますので! も、勿論、他の2人の武器にも凄い特性がありますから!」


「……さっき、ウチのシールドから予想以上の炎が上がっただけでもビックリだったんすけど?」


「ん。私の槍も、傷口だけじゃなくてあっという間にラミアの全身へ氷魔法が広がってた」


「あ、それは適切な比率でユニコーン素材を混ぜ込む事による魔力伝導率向上が大きな役割を果たしたらしいよ! エリンさんもそこら辺の原理げんりを解明してから、テンションがブチ上がってたから……」


〈今の以上の何かが隠れてるのかwww〉

〈切れ味とか防御力はランクに合ってるんだろうけど、魔法性能がエグいw〉

〈ユニコーンの一本角とエリン・テーラーの組み合わせによる科学反応かwww〉


 想像以上の武器性能……。

 正直、武器に関してはそれ程に協力なものは――得物に頼りすぎて肉体技術の鍛錬がおろそかになりかねないから、抑え目でと頼んだんだけどな。


 ま、まぁ……油断に繋がる依存状態にならなければ、性能が高いに越したことはないんだけどさ。


 続いて奥に歩いて行くと、今度は5体ものラミアが同時に立ちはだかる。

 こうなれば先程のように前衛のシールドだけでは抑えられない。

 トワイライトがどう出るかと思うと――。


「――はぁあああ!」


 深紅さんは触れるだけで焦げる熱を宿したシールドで防ぎつつ、怯んだラミアの急所へ魔力を宿した片手剣で切り傷を刻んでいく。

 そうして5体分のラミアに傷を刻んだかと思うと――距離を取った。


「……傷口に魔力が停滞してる?」


 見れば、浅いと思われたラミアの傷口には――深紅さんの魔力が停滞している。


「まさか――」


「――燃え上がれ!」


 刀身から炎を燃え上がらせた片手剣をラミアへ向け振り下ろす深紅さん。


 すると、ラミアに停滞していた魔力が――まるで油に火を投入されたかの如く、爆発的に燃え上がった。


 傷口を数㎝以上も焼いていき――苦しそうな断末魔の叫びと共に、5体のラミアは魔石へと姿を変えて行く。


「えぇ……。こんなん、急所に近ければ薄皮1枚切られても致命傷になるじゃん」


 発動させる前に対となる属性――今回なら水か氷魔法で相殺しなければ、急所を中心に火だるまだ。

 これ……もはや剣技が軽んじられないかな?


 苦々しい思いを抱きながら、更に進んで行くと――。


「――お、ハーピーの群れだ。厄介な飛行能力! これは流石に、連携しないとでしょう!」


 見れば天井が高く幅員が狭い道の延長線上――30メートル程度先にハーピーが7体も居る。


 すると美尊が一歩前に出て――槍を構えた。

 魔力伝導率の高い穂先に、魔力が渦のように集中して行く。


 魔力の質的に……風魔法と水魔法の複合魔法かな?


「はっ! やぁ!」


 そして――連続して2突き。


 1突き目は、風と水が荒れ狂い――台風のようにハーピーの羽毛を濡らして滑空の自由を奪う。

 間髪入れずの2突き目は、美尊お得意の氷魔法。


 有無を言わさずびしょ濡れにされていたハーピーは――身体を氷結させ、羽ばたく事も出来ずに地へ落下。


 深紅さんや美尊は、落ちてきたハーピーをまるで雑草でも刈るかのように楽々止めを刺して回っている。


「もう、さぁ……。こんなのおかしいよ……。エリンさん、えぇ……」


〈あたおかの周囲も順調にあたおかになって行くwww〉

〈それぞれの特性に合ってるけど、ぶっ壊れ性能が過ぎるwww〉

〈こんなレベル破壊武器をネタ武器呼ばわりとか、エリンさん。マジでさぁ……〉

〈バランスブレイカーが過ぎるw 強すぎて回復系アクセサリーの効果を試しようがないw〉


「本当、それですよ……。これ、俺が耐久してまでユニコーンの一本角を取ってこなくても、エリンさんが武器や防具、アクセサリーを開発すれば十分な防衛力アップが出来たんじゃないんすかね?」


 いや、もう……ね?

 ユニコーンの一本角で魔力伝導率が高まっているとか、そういうレベルじゃないのよ。

 それぞれの欠点を補い、むしろ今まで弱点だった部分を使うようにすると強くなるよ~とはなっている。でも強くなるの桁がちょっとおかしい。


 この武器がないとトワイライトが立ち回れなくなっちゃったら、どうしよう……。


〈Erin Taylor:私はアクセサリーの治癒効果に興味があるんだ! 弟くん、いっそ君が彼女たちを奇襲きしゅうして適度に痛めつけてはどうかな!?〉


「出来るか、んなこと。大炎上だわ」


 ヤバ、思わず白星はくせいに接するレベルで口が悪くなっちゃった。


 でも――本当に何を言ってるの、この人は?


 このマッドサイエンティスト、自由が過ぎませんかね?

 流石にこれはブーメランではないと思う。

 俺だってここまで無茶苦茶な注文はしない……はずだ。


「こ、これでは修行にならないですよね……。皆さん、さっさとボス部屋に行きませんか!?」


「お兄様、まだ新しい武器で何が出来て、何が出来ないか。何がウィークポイントで何がストロングポイントかの全容も把握出来てないっす! しっかりと把握して、適宜戦略てきぎせんりゃくを練っては実戦を繰り返しながら進みたいんすけど……ダメですか!?」


「あ、はい。それなら、このまま行きましょう。非常に堅実かつ適切な判断かと思います」


「それじゃ、深紅。今の時点で私が気付いた事なんだけど――」


 美尊も涼風さんも、それぞれの武器特性から新たな戦略とカバーリング案をドンドンと提案して、議論を深めている。


 どうしよう……。

 この子たち、武器性能に振り回されて驕るどころか――考え方が凄く着実!


 どんだけ堅実派なの、この女子校生たちは!?

 武器性能に驕り昂ぶって、痛い失敗をするみたいな可愛げが全く無い!


〈大草原〉

〈どっちが教官か分からない立派さwww〉

〈う~ん。深紅ちゃん、立派。あの命を捨ててでも進んで強くなれが方針の旭プロ社長と血が繋がってるとは思えんw〉

〈武器の性能に踊らされる事がないのは凄いwww〉

〈果たしてあたおかは教官が出来るのか!?w 今の所、後ろを着いていくだけの付き人だwww〉


「気にしている事を指摘されると、傷付くんですよ!?」


 今のままだと――俺は魔石泥棒だ。


 教官をする訳でも戦う訳でもなく、パーティだからと分け前をハイエナすると言う……。

 それぞれの弱点や戦闘の癖を補うような武器性能や意識付けを促す付与を求めはしたけどさ……。


 もうそっちが強力過ぎて――俺のアドバイスは要らないんじゃ?


 結局、攻撃を受けないのでアクセサリーの治癒効果を発揮する事もなく、ボス部屋の前まで来てしまった。


 エリンさんの不満そうで武器作成に手を抜けなかった自分を後悔するコメントが優先的に読まれるのは、D.connect運営の忖度だろうか――。



―――――――――――

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