第68話 兄妹コラボ前の連携、嵐の前の静けさ

 時刻は間もなく、19時になる。


 やって来たのは――なんと『冥府行めいふゆきのダンジョン』。

 俺と美尊が再会した地でもあり――進めば進む程、ランクが高くなる。


 その上、低階層のダンジョンの構造でさえも正確にマッピングされ尽くしていない日本屈指の巨大ダンジョンだ。

 ダンジョンランクが切り替わる毎に、階層ボスと呼ばれる存在が君臨くんりんしているらしい。


 俺の住んでいた道場、ジジイの墓がはるかSランク階層に眠り――美尊を抱えて上がってくる時は、兎に角一目散いちもくさんに上がってきた場所だ。


 広い部屋を通った覚えはあるけど――一目散に地上を目指し駆け抜けたから、ボスが居たかは、よく覚えてない。

 今回は初めて、上から下へと潜る。


 美尊と初めて再会したダンジョンで、初めてのコラボ開拓配信をする。

 このダンジョンほど舞台として素晴らしい場所は、他にないと思う。


「……お兄ちゃん、本当に強い」


「美尊も、本当に良い眼をしてるなぁ~。状況判断やサポート、攻撃も的確で連携しやすいよ」


「本当? 背中を任せてもらえる?」


「うん、このランクのモンスターならね」


「む~……」


 俺たち2人は先に連携や兄妹の交流という意味で、1階層の開拓を始めていた。

 冥府行きのダンジョンは、2階層までがCランク。

 2階層の最奥にCランクの階層ボスとやらが居て、3階層からがBランクとなるらしい。


 美尊に説明してもらった事だけど……今まで俺が潜ったダンジョンとは、かなり様相が異なる。

 姉御の開拓レポートも、流石にこのダンジョンに関しては――『異常で未知数。危険は計り知れない』と断言していた。


 それに俺の神通力じんつうりきも――このダンジョンは、いたところが危険だと肌をピリピリさせて危険を伝えてくる。

 なんだろう、この間の死霊系しりょうけいが出るCランクと同級に当たる1階層なのに……。

 ちょいちょい、ダンジョンに住んでいた時に感じる危機察知ききさっちみたいなのが働くんだよなぁ。

 常識的なダンジョンを知らなければ、普通はそういうものだと思えたけど……。


 他のダンジョンを知った今、改めて異常性を肌で感じる。


 これは、ずっと油断が出来ないぞ……。

 ここ数日でなまっていた常在戦場じょうざいせんじょうの心を思い出せ。

 油断ゆだんしたら多分――大惨事だいさんじが起きる。


「それにしても……お兄ちゃんはEランク開拓者なのに、普段着で良いの? 装備、買ってあげようか?」


「いやぁ……。妹におごってもらうのもなぁ……」


 いつかは格好良い装備を着たいけど、俺はいつも通り普段着で潜っている。

 美尊の装備は、いつかのダンジョン開拓配信でも見たけど――モンスターのレアドロップを使用したであろう立派な槍。

 防具も――昔に流行った、ドラゴンなどの素材をって作るゲームに出て来る鎧みたいだ。


「あれ、前の……トワイライトだっけ? そのパーティで潜ってた時より、重装備じゃない?」


 確かあの時は、胸当てだけだったはずなのに……。

 今日は鎧が覆う面積が段違いに大きくなっている。


「あの時は後ろに涼風すずかが居るから、軽装にしてたの。これは1人で潜る時用」


 機動性きどうせいも捨てないようにしたのか、鎧は当たると致命傷ちめいしょうになる胴体どうたい腰部ようぶから大腿だいたいまで。それに大事な神経が通る肩から上腕と、籠手部分こてぶぶん

 防御範囲を広げつつ、可動性の高い関節を鎧が邪魔しないようなつくりだ。

 インナーにはチェインメイルを着ているから、鎧がおおってない部分も、多少の攻撃なら防げるはずだ。


「暑そうだけど……。首と頭にだけ気を付けてれば、大概たいがいの攻撃は致命傷にならないな」


「うん。正直、もう汗だく」


「ほい、お水」


 落ちていた石を魔力でコップ型に加工し、水魔法で洗浄。

 中にも水をそそぎ、美尊へと手渡した。脱水は良くないからね。

 ドローンに積んである水分は、万が一魔力が尽きた時の緊急事態用だ。


「お兄ちゃんは、普通に人間離れした事をする。……美味しい。ありがとう」


「いえいえ。……それにしても、モンスタードロップアイテムを加工した装備って高そうだな?」


「これを普通にオーダーメイドすると、目が飛び出るような金額。この防具は……Cランク昇格祝いにね、愛さんがプレゼントしてくれたの」


「……姉御が?」


「……うん。『命を守る防具はケチるな』って……。私たちシャインプロのダンライバーはね、開拓者ランクが上がると毎回、愛さんが自費で防具をプレゼントしてくれるの」


 え?

 俺――Eランクに上がった時に、姉御からもらってないんだけど?

 あ、あれか? 姉御が偶々たまたま、アメリカに居たから……。

 う、うん。きっとそうだ! そもそも、史上最短……2日とちょっとだっけ?

 そんな短期間でランクが上がるなんて予想してないだろうし?

 俺の身体に合う装備を作るよゆうもなかっただろうからね!


「お兄ちゃんが居なくなってからも、ずっと良くしてくれた。だからね……今日の愛さんの心ない言葉が、信じられなかった」


「……そっか」


 だろうね。

 俺も――そう思うよ。


 姉御、その場の演技やお芝居がどれだけ上手くても――それまでの過去がある以上、違和感いわかんぬぐえないんすよ?

 人の人生は――連続して歴史をつむぐんですから。


 不器用な優しさを示してきた過去。

 そして――今。

 今が突然――クソ人間に変化するなんて、有り得ないんです。

 一瞬、この10年でクソになっちゃったのかとも勘違いしましたが、ね?


 残念ながら、川鶴さんや美尊は――姉御の10年間の発言、行動。

 全てを知っているんです。

 だから姉御が酷い発言をした時――驚いたし、泣いたんですよ?

 クソって分かりきった人間が酷い事をしても――当然。

 誰もおどろきなんてしないですからね!


「……私たちの願望がんぼんの為に、本当にコラボ配信して良いのかな? 私は川鶴さんに、迷惑をかけたくない……」


 美尊はまだ、悩んでいるようだ。

 お世話になった人に迷惑をかけるのが、凄く嫌なのが伝わってくる。


 優しい子のまま育ってくれたなぁ~。

 お兄ちゃんは嬉しいよ。

 うつむく美尊の頭に、ポンと手を乗せる。


「……お兄ちゃん?」


 上目遣いで俺の方を見詰みつめる美尊の頭を、俺は優しくでながら――。


「――死中しちゅうかつあり。……逃げても待つのは炎上と、永遠に堂々どうどうと一緒に居られない地獄のような日々だけ。それならもう、進むしかない! 死中にこそ、活へ繋がる道はあるもんだよ! たとえ実は今活路かつろにいたとしても、願い事をつかもうと歩み出さなければ無意味なんだから!」


「……うん。そうだね、分かった。誠心誠意せいしんせいい、視聴者の皆にも理解してもらえるように、頑張って開拓配信やろうね!」


「おう、良い笑顔だッ! 美尊はそうやって笑ってる顔が1番最高ッ!」


 そうして俺たちは、ダンジョン出入り口前に戻り――配信開始の時間を待った。



―――――――――――

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