第67話 兄妹コラボ配信、涙の打ち合わせ

「……チャンネル登録者数を増やすには、既に有名な配信者とコラボをするのが1番だ。美尊のチャンネル登録者数は80万人を超えている。既に1度、意図いとせず美尊の配信に映っているんだから今更いまさらだろう。――2人とも。炎上対策えんじょうたいさくは考えるな。ダンジョンでは、一緒に潜るパーティとして当然の行動をしろ。……後は個人の判断で進めて良い」


「オーナー!?」


「愛さん……。川鶴さんの言葉も、聞いてあげて? 私とお兄ちゃんをコラボさせてくれる提案は嬉しい。私はアイドルだろうと兄妹でコラボしたり仲良くするのが間違っているとは、絶対に思わない。でも……このタイミングではマズい。みんなに迷惑をかける事態じたいに発展するのは、私でも分かる」


「オーナー、どうかお考え直し下さい! 今の反響を見ても、更なる大炎上は確定的……。お2人の擁護派ようごは反対派はんたいはで凄いことになる事は、火を見るよりも明らかです。――劇薬げきやく導入どうにゅうせず、大神さんにはもっと堅実に積み重ね、多くの人にあたたかく受け入れられるようになって欲しいんです!」


「今後、向琉の女性ファンが更に増えたら――余計よけい異性いせいである美尊とのコラボなど、実現出来なくなる。これは何時迄いつまでも逃げ続けて解決する問題ではない。むしろ日を重ねるごとに深まる問題だ」


 痩せこけ酷くくぼんだまなこは、剣呑けんのんさをも覚える眼光を放っている。


「……姉御、俺はみんなで笑いたいんです。――こうして俺たちをかばってくれる川鶴さんにも、俺は笑って欲しいんですよ!」


「……良いから、怖れずにやれ。そのサポートと責任を取る為に最高責任者が存在し、シャインプロはマネジメント料として利益配分りえきはいぶんをもらっている。……面倒毎めんどうごとは私と組織に任せて、2人は好きにやれ。出演者側が楽しんでいない姿を視たい視聴者はいない。ここ最近の2人の配信を視ていても、色々と我慢していると見受みうけられる。2人の事を熱心に追いかけるファンほど、既に気付いているだろう。今、気が付いていない者も時間の問題だ。……真の応援者が離れてからでは遅い」


「それは……。確かに、美尊さんは特に最近はお悩みが多くて、そういった傾向があったかもしれません。そこに寄り添い、解決へ導けなかったのは私の――」


「――川鶴にミスはない。川鶴はよくやっていて、2人だってよく頑張っている」


 川鶴さんの言葉をさえぎり、姉御は俺たちを見回して賞賛しょうさんした。


 そうして再び、姉御の瞳は恐怖すら抱く輝きをびる。

 揺るがない黒。


 それは――まるで死中しちゅうへ向かうような、覚悟の決まった瞳だと俺の目には映った。


「この問題、3人が悩む根本こんぽん――兄妹2人が近付く事が人に認められない。ロジカルではない感情問題の根を取り除かない限りは、美尊の精神状況も向琉の精神状況も悪化するばかりだ。2人とも、違うか?」


「それは……そう。でも、皆に迷惑を掛けるのは違う。血の繋がったお兄ちゃんと一緒に居るのを許されないのは、辛いし変だと思う。……でも私は、アイドルだから。内心が辛くても、笑ってなければ行けない。今まで出来ていなかったなら、これからは気を付けてもっと頑張る」


「お、俺だって! 正直、美尊と一緒に居られないのはメッチャ辛いですけど……。俺は、どんなに辛くても我慢が出来ます! 美尊が幸せになる為なら、どんなことでもやります!――だって俺は、美尊のお兄ちゃんだから! 美尊や姉御が大炎上する方が、俺には耐えられないんですよ!」


「…………」


「……もしも俺がずっと認めてくれと訴え続けても……。兄妹が仲良くする当たり前の事に理不尽な批判を止めず、人の世に生きる皆が俺の大切な人を傷つけるようなら……。俺はまた、ダンジョンに戻――」


「――向琉。人の世に生き、人に認められ、人を愛し、人に愛されろ! シャインプロを離れても良い! 私なぞ捨てても一向に構わん! しかし、人の世で生きながら愛される事だけは――決して諦めるな!」


「……なん、ですかそれ? 今1番、人の世で愛されてない姉御が言っても――説得力がないんですよッ!」


「……兎に角、もう告知もした。今更、後戻りしようと――1度燃料に引火した火は、止まらん」


「それだって、姉御が火をつけたんでしょ!?」


 姉御は立ち上がると、ノートパソコンを畳んで出入り口へと歩き始めた。


「そうだ。――私が燃料となり、私自身が火を付けた。……もう、後戻りなどは出来ないぐらいにな」


「姉御ぉ……。なんで、なんでそんな事を言うんですか!? こっちを見てくださいよ! 俺の目を見て、ちゃんと本心を話して下さいよ……。どうせまた、不器用な優しさが裏にあるんでしょ? そうなんですよね?」


「……情けない声を出すな」


 背を向けて去ろうとする姉御の肩を掴んで、その歩みを止める。

 力尽ちからづくでこちらへ振り向かせようとするが――俺の手が姉御の肩に食い込むだけで、巨大な岩のように動かない。


 姉御、なんて力だ……。

 それに――なんでこんな、病的に細いんだ?

 昔はもっと――力強い肉体だったじゃないか。

 今は、まるでスケルトンのように骨張っていて……。

 明らかに、断食修行だんじきしゅぎょうなんかで片づけて良いレベルの肉体じゃない。


「……俺は、姉御を信じたいんですよ! 視聴者が言うように――詐欺師のクソ野郎じゃないって、配信者を金蔓かねづるとしてしぼくすような、胸くそが悪くなるような人間じゃないって……。俺は姉御を、信じたいんですッ!」


「…………」


「優しい嘘でも良いから、信じられるような事を言ってくれませんか? 姉御をしたって付いてきた人たちがここに居ます! そんな俺たちを、どうか安心させてください。お願いしますよ……」


「……向琉。お前は――たるみちけ」


「どういう、事ですか? ちゃんと答えて下さいよ!」


「……兎に角、難しい事を考えずに2人で楽しんで来い。パーティとして正しい行動をつらぬとおせ。全ての答えは、進んだその先にある。――ではな」


「……オーナー? ど、何処どこへ行かれるんですか!? まだ何も解決して――」


「――これから、大切な仕事の予定が入っている」


「い、今、この状況よりも大切なお仕事ってなんですか!?」


「……すまないな、川鶴。……私にとっては――川鶴もまた、子供だ」


「オーナー!」


 バタンッと、無情むじょうにも扉が閉まる音が室内に響く。


 姉御が去ったミーティングルーム。

 泣き崩れる川鶴さんの背を、俺と美尊はさすり続けた。


 その度にずっと「お2人を守れずすみません」と、何度も何度も川鶴さんは繰り返し謝罪の言葉を口にした。

 やがて、川鶴さんが立ち上がると――。


「――私がクビになっても構いません。お2人は今日、コラボ配信をしなくて大丈夫ですから」


 明らかに無理やりと分かる笑みを浮かべ、そう口にした。


「……分か――」

「――やりますよ」


 美尊がコラボ配信の中止に同意しようとしたのを遮って、俺は断りを入れた。


「お、お兄ちゃん?」


「大神さん!?」


 2人は驚愕している。


 そりゃ表面を見ていれば――姉御の横暴極おうぼうきわまりない、最低最悪の独断命令どくだんめいれいに見える。

 姉御は視聴者が言うとおり――この10年で救いようのないクズになったと、俺さえも思ったよ?

 でもさ……。

 川鶴さんの背を少し撫でながら、姉御の一連の発言や流れを時間をかけ冷静に整理してみると――。


「――なんか色々と……引っかかる事や、妙な言い回しが多いんですよね~。俺だって、伊達に15年間も社会性仮面ぺるそなかぶって演技をしてなかったと言いますか……」


「「……え?」」


「……兎に角、全ての答えは2人が進んだ先にあるって姉御が言うなら、進んでみましょうよ。――どうせもう、逃げたって炎上は確定してしてるんです! だったら、前に進んで燃えましょう!」


 俺は2人に、親指を立てて笑いながら、サムズアップする。


 脳天気のうてんきな俺に毒気どくけを抜かれたのか――2人も、小さく笑みを浮かべた。



―――――――――――

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