第109話 旭プロ担当のダンジョンへ――。

 そうして5カ所目のダンジョン。


「――よし、間に合ったぁあああ!」


〈うぉおおお! あたおか最強!〉

〈これ、策が無かったらヤバかったんじゃね?〉

〈最後とか、入った瞬間ドアの前にモンスターいたもんな〉

〈あたおか依存が過ぎる。人類の味方で良かった……〉

〈怖すぎる。すぐ目の前にこんな化け物の大軍が迫ってたのをリアルタイムで見ると……〉


 姉御の狙った通りになったな。

 いくつものダンジョンで、合計1500体ものモンスターの大軍をギリギリ防ぐ姿を目の当たりにした視聴者は、改めてスタンピードへの危機感を抱いてくれたようだ。


 美尊や姉御は、無事なんだろうか?

 特に姉御は心配だ。

 複数を担当して、改めて命が賭かった時間制限移動という苦しさが分かった。

 Cランクでこれだけ大変なのに、Aランクダンジョンを複数なんて……。


〈もっと高いランクのダンジョンでもスタンピード起きてるんだろ? 平気なん?〉


 そんなコメントが流れて、思い出す。


「そうだ! まだ最低ノルマが終わっただけだった!」


 姉御に頼まれていた、6カ所目のダンジョン。

 旭プロが担当すると断固主張したCランクダンジョンへと向かう。


 そうして宙を駆ること、約10分。

 少し離れたダンジョンの建物までやって来ると、自衛隊は建物を包囲をしたまま。


 つまり――まだギルド下にあるダンジョン内では、戦闘が行われているという事か!

 俺は急いで開拓者カードを手に掲げ、ギルドの中へと入る。

 すると、俺の顔を見たギルド職員が小走こばしりで駆け寄ってきた。


「お、大神さんですよね? ここは担当では無かったはずですが……」


「はい! 応援に来ました! まだ中で戦闘が行われているんですよね!?」


「そ、それは……。はい、ですが……。その……」


 なんだろう、煮えきらない態度だ。

 歓迎――までは行かなくても、すんなりと助太刀すけだちは認めてもらえると思ったのに……。


「俺も中に入って良いですよね!?」


「い、いえ……。ここは旭プロダクションの開拓者だけで担当すると、上からも厳命が……」


「……はい?」


 え、もしかして――事前に割り当てられていた担当場所以外、入れないの!?

 そりゃ誰彼構だれかれかまわず好きな所へと向かってたら、収拾しゅうしゅうが付かない事態になるかもしれないけどさ!


「あの、俺は姉御――ダンジョン庁長官の大宮愛から様子を見るように言われているんですが!?」


「し、しかし……。ギルドの上層部からは何もうかがってないもので……」


 ああ、もう!

 お役所仕事ってやつなのかな!?

 今、姉御からギルドへと手を回してもらう訳にも行かないし……。


「ここのスタンピードが始まって、どれぐらいですか!?」


「中に潜った配信を視る限り、交戦開始は1時間近く前になりますが……」


 もう1時間近くも戦ってるのか!?

 そんなの、いくら開拓者の体力とは言え――限界が近いのでは!?


「旭プロの配信で中の様子が視られるんですよね? なんて検索すれば良いですか?」


「い、いえ……。それが、ですね」


 ギルド職員は、顔を俯かせてしまう。

 そうして差しだしたスマートフォンには――『配信は切断されました』の文字。


「配信が切断? どういうこと、ですか?」


「その……腕に巻いている配信リンク式腕時計には、脈波を感知して配信を切る機能があるのはご存知でしょうか?」


 あ、開拓を始めた最初の頃に説明された事がある。

 左腕に巻いた腕時計が脈波みゃくはを感知出来なくなれば、自動的に配信が切れる。

 その機能があるから、死亡した姿を晒し続ける事はないって――。


「――つまり、この配信をしていた人は……戦死したと言う事ですか!?」


 それなら、余計に助太刀すけだちに入るべきだろうに!

 こんな問答をしている場合じゃないでしょ!?


「い、いえいえ! 左腕を失っただけでも、配信が切れる事はありますから……」


「どっちにしろ、戦闘が不利って事ですよね!? 地上にまで上がられたら、国民が危ういでしょう!」


〈そうだそうだ! いい加減にしろよ!〉

〈ギルドマジでさぁ! 大手事務所に忖度してんじゃねぇよ!〉

〈お役所仕事で全く融通ゆうづうが利かねぇな! 応援を受け入れた方が確実だろうが!〉


 あ、配信を垂れ流してたんだ。

 世界中に流れている配信――腕時計から流れる機械音声のコメントからも責められている。

 すると、対応してくれていた若い人の代わりに、年配の職員が出て来て――。


「――大神さん。どうぞ、中へお入り下さい。ここのギルド支部長として、内部へ入るのは許可します。応援はありがたいのですが、連携もあるでしょう。入ってからの対応は、旭プロの開拓者さん方と話をしてください」


 そう言って入場の許可をくれた。

 入るまでは許可するけど……後の揉め事までの責任は取らないよ。

 そんなニュアンスの言葉だ。


 ズルいな……。

 姉御はこんな人たちより、もっと老獪ろうかいな人と日々、舌戦を繰り広げているのか……。


「分かりました! それでは、失礼します!」


 俺は迷いを振り払い、階段を駆け下りて行く。

 コメントでは、ギルドの対応に罵詈雑言ばりぞうごんの嵐が流れている。

 そんなコメントに返事をする暇もなく、急いで扉を開くと――。


「――なんだ、これは……」


 地上へと続く扉を囲うように、半円形で布陣を組んでいる。

 開拓者パーティが盾となり、モンスターを食い止めているが……。


 戦線は、崩壊しかけている。

 もう眼前までモンスターの大群に押し込まれているじゃないか……。


 視れば、はるか前方で打ち捨てられている開拓者の中には――見るからに息が無い人もいる。


「た、助けて……」


 地上へと続く扉――俺の前まで這って来た男性には、左腕が無かった。

 おびただしい流血。

 このまま治療しなければ、遠からず命を失うだろう。


 それでも――旭プロの開拓者は、誰も治癒魔法を唱えようとしない。

 治療した所で、戦線への復帰は無理と……捨てられた?


「だ、大丈夫ですか!? 今、治癒魔法をかけますからね!」


「あ、ああ。……助かった。ありがとう」


 流血が止まった男性は、俺の腕に抱かれ涙を流しながら礼を口にした。

 それを横目に見ていたのか、まだ健在な開拓者たちが――。


「――テメェ、シャインプロの大神向琉だな!? テメェに分け与える報酬はねぇぞ!」


「そうだ! 魔石ノルマがヤベぇんだ!」


「畜生、ノルマ未達みたつの罰則なんか受けられるか! 足りない金額の支払いに、装備の貸与と動画編集サポートまで打ち切られたら……。もう開拓者どころじゃねぇ!」


 何かに追われているような……。

 とんでもない言葉が、次々と聞こえて来た――。



―――――――――――

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