第155話 啖呵切っちゃった☆

 1人の大人として、武術家として……俺に何が出来る?

 指導を一時でも請け負った先生として、彼女に出来る事は?


「正直――人間、何処にいても死ぬ時は死にますよ。……開拓者をしていると死にやすい? 今回の事件、開拓者として鍛錬を積み、肉体的な抵抗力が強い深紅さんでも呂律ろれつを失うぐらいの毒を使われたんすよ? 一般人なら――即、命に関わってたんじゃないっすか?」


「そ、それは……。そもそも! 深紅が裏方……経営に回っていれば、そんな危険な目に遭う必要は無かったではないですか!?」


 突然カメラの前に現れた俺に対して、旭柊馬は言い返して来る。

 う~ん……。

 この考え方がもう、俺たちとは相性が悪いよなぁ……。


「経営者サイド、地上のビルに居れば安全。――そんな事は有り得ないです。もしそうなら、ダンジョン災害で亡くなった人は、何故亡くなったんですか? 未だに続く後遺症を持つ人は……。大切な人を失った人は?」


「そ、それは……! 当時と今は状況が違う! ボディガードに優秀な開拓者を付ければ――」


「――ボディガード、ですか。では――これでは?」


 俺はスッと一歩踏み込み――旭柊馬のふところへと入った。


「なっ!? ひっ……」


 突然、目の前に現れた俺に驚き――旭柊馬は尻餅しりもちを突いた。


 そうよね。

 視覚の反射ってのは、そういうものだから。

 俺は別に、殴ったりしていない。


「今、俺にその気があれば……あなたは即死していました。でも現状の深紅さんは……死に物狂いで自己鍛錬に励んできた深紅さんは、違います。同じように俺が踏み込んで攻撃しても、生き抜いたでしょう」


「……お兄様」


「深紅さんは、強くないと奪われる。失ってしまう。そう気負きおう……怨念おんねんとも呼べる思いを抱き、強さに貪欲であり続けました。動機や今の在り方、全てが健全だとは言いません。……でも、その飽くなき努力の結果として彼女は――今回、自分の命を護る力を得ていた」


「そ、それは……」


 娘が開拓者――死と隣合わせの職業を続けるのが嫌だ。

 それなら、ちゃんと話し合えば良い。


 確かに、自らダンジョンに入る開拓者は――スタンピードや災害などがなくても、死ぬリスクが高いのは事実なんだから。

 でも――。


「――中学校1年生から、1日も欠かさずダンジョンに潜り、奪われないように強くなって来た。彼女のこれまでの努力、行動……。その全ての足跡を否定するような物言いは止めて、ちゃんと話し合いませんか? 一方的に『経営者になれ』と命令するのは、違うでしょう?」


「それは……」


 俺の言葉に何か感じる所があったのか……旭柊馬は俯いてしまった。

 

思うに――旭柊馬は、執念深く感情的な人物だ。

 大切な者、手に入れたい何かの為には、手段を選ばない。

 そうやって生きて来たし――それである程度、成功してしまったんだと思う。

 社会の序列としてなら、そのままの姿勢を貫いても良いのかもしれない。


 でもね――家族は、対等なんですよ?


 対等に喧嘩して、認め合って……謝り許し合う。

 その繰り返しを何らかの執念が邪魔して出来ないような状況なら――俺は1人の臨時講師として、友達として深紅さんを委ねたくはない。


〈あたおかぁあああ! 良い事を言った!〉

〈親になってないのに親の気持ちが分かってたまるか偉そうに……って思いと、深紅さんのためには地底人の言葉も一理あるって思いで複雑〉

〈旭プロの経営者とか、それこそ恨み買ってるだろ。襲撃されそうな自覚ないの?〉

〈深紅ちゃんのこれまでの努力を全否定してやるなよ! 親なら話し合って妥協点を見つけ合えよ!〉

〈これ親権は今まで旭夫妻のままだったの? それなら法的には不利そう……〉

〈今回の件を教訓にして彼女も強くなろうとしてるんだろ? 不安なら自分のとこの所属を護衛に差しだせば良い〉

〈↑深紅ちゃんの護衛が務まるのなんて羅針盤ぐらいしかいない。そんな大物を護衛にするとか過保護にも程があるし事務所が赤字で死ぬ〉


「……深紅さん。開拓者は。民間人よりも死に近い。それを心配する親の気持ち……それは分かりますね?」


「……うん。でも――それでも! ウチは、自分の命を開拓者としての向上に使いたい!」


 俺が尋ねると――深紅さんはキリッと、何時ものように強気な表情に戻し瞳に炎を燃え上がらせた。


 負けん気の強い――危険なまでに愚直に燃え上がる炎だ。


「自分の命が無くなる時……。お父さんと死んじゃったお母さんには、申し訳ないと思う。でも――スタンピードの時みたいに、ウチに助けられたって人が居るのは――生きてて良いんだって、ウチ自身の存在理由として自信になるの!」


 こんな、17歳の女の子に……生きてて良いんだと、この世に存在する理由付けをさせてしまうなんて。

 そんなの考えず、自由に友達と遊び回っても怒られない年齢だろうに。


 結局――この考えや主張も、未成年者のものだ。


 親には監督責任があり、子供が道を踏み外して居ると思えば……一方的に『ダメだ』と意見を切りすて、開拓者を止めさせることも出来てしまう。


 そんな事は百も承知だろうに、旭柊馬は――。


「――まだ、諦めた訳じゃありません……。しかし深紅の気持ちは……強くなろうと努力し、実際にBランク開拓者まで上り詰めた努力は、否定したくありません。……また冷静に話し合いましょう。私も事件の事を聞いて直情的に……無計画に動き過ぎました」


 そう言うと、旭柊馬は――トボトボとシャインプロから出て行く。


 その背中が、もの凄く寂しそうで……。

 深紅さんは、彼に対して心の傷があると言う。

 でも――いつか傷が癒えてきたら……話し合える未来もあると良いな。

 話し合いの結果、分かり合えなくても仕方ない。


 唯――1度ぐらい、本気で言い合うぐらいが健全な家族の姿だろう。

 悪いところを素直に見詰め、やり直せるような関係なら……だけど。


「さて……と」


 ところで――なんですけどね?

 この空気、一体どうしましょうか?



―――――――――――

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