第140話 後衛、後ろから観る者、か

 深紅さんにどう接したものかと言う、涼風さんからの相談内容。


 主な変化の原因としては、俺も少し知っている旭プロ関連のやらかした問題。

 そして俺の存在に――恐怖や焦燥感を抱き、徐々に追いこまれてしまってるらしい。


「み、深紅さんに……俺が恐怖や焦燥感を与えてしまっている原因、とは?」


「お兄さん先生が悪い訳では全く無いんですけど……。深紅ちゃんは、追い抜かれる事に凄まじい恐怖を感じていたんです」


「姉御からも、深紅さんが話して良いという話までは聞いてますが……」


「特に深紅ちゃんを……その、絶望ぜつぼうふちから救ってくれたオーナーの中での重要性が下がることに、凄い恐怖感を覚えているんだと思うんです。そっちは、明確にお兄さん先生の方が上と認めた今でも感じている恐怖かと……。極端な話、オーナーはお兄さん先生に集中して他の子は要らないって言われるかも。そこまで思っているみたいなんです」


「それ程、なんですか?」


「はい。……深紅ちゃんは、オーナーじゃなければ里親にはなって欲しくない。一時的に保護されていた施設で色々あったにせよ……。そう断言するぐらいオーナーに心酔してるので……」


 確かに、なぁ。

 深紅さんが姉御へ抱く感情は――少し異常だ。


 姉御から手ほどきを受けられる権利という餌をぶら下げたら――自分の関節を外したり、自分の血で俺の服を汚してやる。

 自傷じしょうに全く躊躇ちゅうちょがないという、リミッターの外れっぷり。

 姉御からの一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくが、メンタルに直接左右するのも頷ける話だ。


「ふむ……。正直、俺に何が出来るかと言われると、アレなんですが……」


「そう、ですよね……。すいません。余計な事を言ってしまいました」


「いえいえ……。ただ、この情報を教えてくれたのはありがたかったです! 俺は正直、姉御に可愛がられてますからね……。色々な意味で。……無意識に自慢みたいな発言をしてしまったら、ヤバかったっすね!」


 この間、姉御と徹夜で仕事をしたり、朝食にドライブスルーをしたエピソードとか……。

 面白おかしく苦労話をしたつもりでも、深紅さんにとっては――極めて面白くない。

 自分はもう、見てもらえなくなるのではないか。


 そんな疑念にも駆られかねない。


「――あ! それならいっその事、俺とトワイライトでコラボ配信をするとか!?」


「い、良いんですか!? お兄さん先生がそれをしてくれるなら、それが1番私たちは嬉しいですけど……。深紅ちゃんも、お兄さん先生みたいに強くならないと見捨てられるかもと焦ってます。クールな美尊ちゃんは、淡々と事実を突き付けるだけ……。今、そんな構図に嵌まってるので……」


 別にそこまで焦って強くならなくても……姉御は見捨てないと思うんだけどなぁ。

 でも、こう言うのは理性で分かってても――深層心理しんそうしんりで恐怖を抱いていたら、無意味だ。


 姉御自身からも深紅さんへ伝えてるんだろうけど――本人は、どうしても思い込んでしまう。


 言い方は悪いけど、その状態から抜け出せないという気質なら……。

 やはり、強くなっている実感が心理的に必要なんだと思う。


 俺はスマホを取り出し、姉御へ通話をかける。


『――どうした?』


「――あ、姉御。出るのはやぁ……。い、今、大丈夫ですか?」


『うむ。何があった?』


「実は、ですね――」


 わずか2コールで通話に出た姉御に、涼風さんからの相談内容。

 そしてコラボ配信で実際に指導をして、強くなったという実感を深紅さんに与えられればどうかと提案してみる。


『うむ。……深紅には、強さなど関係ないとは何度も言っているのだがな。そうすると、あいつは必ず――捨てられた子犬のような瞳を浮かべるのだ』


「……成る程。察するに『強さなんて関係なく姉御の傍に居て良い』。その発言を、もう開拓配信者としては期待していない……。真面目すぎて、そう曲解してしまうって所ですか?」


『察しが良いな。……流石、講師として拳を交えただけはある。……恐らく、そうなのだろう。期待していると私が言っても、重荷になる。無理をしなくて良いと言えば、見捨てられたと感じてしまう』


「先日、姉御が『私では強く言えん』と言ってた意味が分かりました。……確かに、心の支柱が1つだけしかない。……それも、強すぎる憧憬しょうけい崇敬すうけいで支えられている柱だと、もろくて厳しいっすね」


『……うむ。せめて、精神的な支柱が増えれば良いのだが、な。――だが、涼風の提案は助かったぞ』


「涼風さんの提案って、コラボの件っすか?」


『ああ。今回の一件でトワイライトと向琉が上手く仲を深めれば、私からコラボの提案をしようと思っていた。……講師としては仲を深められなければ、ハロウィンフェスの警備で距離を縮めさせようと画策していたぐらいだ。向琉とのコラボは、涼風の狙い通り深紅の――そしてトワイライトの強さ底上げにもなる。そして向琉が、真にシャインプロのファンから認められる事にも繋がるだろう』


 やはり涼風さんは――ちょっと特殊な興奮を催す訳の分からない部分はあるけど、良い眼をしているんだな。


 自分のパーティを観て、冷静に何が足りないのか理解している。


 そこに俺という――臨時講師となった今なら受け入れやすい存在で、悪化していく状況の打開を図るという強かさもあるからな。

 姉御の打つ手と同じ事を思い付くなら、大したもんだ。


 俺の得る利点に関しては――。


「――シャインプロが、俺以外は女性開拓配信者しかいないからっすか? 古参のシャインプロ推し男性ファンにも、受け入れられるような場を……。そんな感じの試練ですか?」


『その通りだ。……兎に角、事情は分かった。時期は川鶴やトワイライト全員と相談して発表しよう。涼風には、それまでシャインプロ内の話に止め公表は避けるよう伝えてくれ』


 そう話が纏まり、通話を切る。


 トントン拍子に話が進むし……やるべき事が目白押しだ。

 まだハロウィンフェスティバルも週末に控えているのに。


「涼風さん、姉御と話をしてですね――」


 俺は姉御との通話内容を説明する。

 コラボの理由、目的も全て理解した涼風さんは、嬉しそうに顔をほころばせた。


「ありがとうございます! 段々とズレていく深紅ちゃんを、私の大切な人たちを……お陰様で救えるかもしれません」


 そう、お礼を言った。


 花にも負けない綺麗な笑顔は――仲間想いな娘の、内面が現れているようだった。

 純粋な仲間意識だけかは、先ほどの興奮具合を見ているから自信が無いけどね――。



―――――――――――

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