第193話 side 旭深紅 さようなら

「――涼風、美尊!」


「まだまだ大丈夫だよ! 多少の傷はアクセサリーが代わりに引き受けてくれてるみたい! それ以上の深手も、自動治癒機能が働いてるから時間をかければ治癒する!」


「うん。……ただ、大きなダメージを受けると、アクセサリーそのものも傷ついてる。多分、貯蔵していた魔力で相殺そうさい出来ないダメージ量の場合、肩代わりをアクセサリーを構成する魔力が引き受けてるるんだと思う。……つまり下手をすれば、アクセサリーが壊れて一巻いっかんの終わり」


「そうだね! 骨折とかレベルぐらいからかな? 自動治癒機能だけじゃ動きに支障を来すレベルのダメージを受けると、アクセサリーが傷付いてる!」


「ん。……多分、死ぬレベルも1度は肩代わりしてくれるんだろうけど、代償は――」


「――アクセサリーの一撃粉砕いちげきふんさい、かな? そうなったら私たち、あっという間に全滅だね」


 涼風の予想は、おそらく当たっている。

 流石は稀代の天才エリン・テーラーとユニコーンの一本角の組み合わせと言った性能だけど――流石に無敵の治癒機能、かみごと不死性ふしせいを得られるって訳ではない。


「全力で避けるよ! 全員、距離を取って!」


「分かったよ! 弓矢で牽制するから、2人は即座に距離を!」


「ん、おっけ」


 ああ、良い連携だ。

 言葉にしなくても、お互いにカバーをしあって――この格上の化け物とも一緒に向かい合える。


 何時からかな?

 この2人と、これだけ心を開き合えるようになったのは。


 2人と居ても――ウチは何時も、怯えてた。

 嫌われるんじゃないか。見捨てられるんじゃないか。


 助けてなんて口にしたら、情けない。面倒臭い。自分より弱い人は要らない。

 そう言われるんじゃないかって……怖くて仕方が無かった。


 ウチ自身が、ウチの存在価値は――開拓者としての強さだと思っていたから。


 その恐怖は、未だに完全に払拭はされてない。


 これだけ死線を共にしているのに、ウチはまだ捨てられるかもと言う極僅かな可能性に怯えている。


 だから――誰よりも強く、人に必要とされる人で有らねばと思ってた。

 強ければ、開拓者のこの2人は、ウチを必要としてくれるだろうから。


 でも――お兄様が突如として現れて、みんなそっちにばかり注目して……ウチはもう、要らない子。

 アイデンティティが音を立てて崩壊したのが、自分でも良く分かった。


 また見捨てられちゃうのかな。

 今度はオーナーと出会えたような奇跡は起きないんだろうなって……凄く怖くなった。


 でもウチがお兄様に負けても――誰も離れて行かなかった。


 勿論、負けたのは悔しい。

 だけど――お兄様は、オーナーと同じぐらい規格外の存在。


 ウチより小っちゃい頃から鍛錬を積み重ねて来て、Sランクダンジョンでも生き抜いたんだから。


 だから、今は負けていても――皆はウチを見捨てない。


 将来必ず、追い抜く。その100点満点の強くなる姿勢を実行し、着実に目に見える結果を残して行けば――見捨てられない。


 だから全てを吸い尽くすぐらいに、お兄様から強さを学んでみせる!


 そう思い直すと――お兄様への恐怖感は、やがて師に抱くような畏怖と憧憬に変わって行った。


 追いつきたい。

 これだけの強さがあれば、絶対に奪われない側だろう。

 自分の大切な何もかもを、守り通せるはずだ!


「……こんな規格外のアクセサリーも、お兄様なら手に入れちゃうんだもんね」


 ウチの左手薬指で、亀裂が入りつつある指輪。

 これがなければ――ウチはもう、大切な仲間2人も、自分の命も奪われてた。


「ああ……強くなりたかったなぁ」


 どれだけ上手く受け流そうとしても、サイズが違い過ぎる。

 どれ程に技をみがいたありでも、ぞうに攻撃されれば死ぬしかない。

 これ程の質量差のある巨体、攻撃力を持つサイクロプス――ウチじゃ、完全には衝撃しょうげきを殺しきれない。


 着実に限界へと近付いて行くダメージ。

 前衛ぜんえいという役割から、トワイライトの中ではウチが1番に死ぬんだろう。


 1人沈めば、一気に全員が沈んで行く。

 まさ黄昏たそがれ――いりだ。


 開拓者をしている以上、ウチに取って死は怖くない。

 ただ――。


「――父さんに、謝りたかったな」


 何分、幼い頃で……災害で脳内が混乱もしていた。

 だからこれは、ウチが罪悪感から脳内で産み出した妄想の記憶かもしれない。


「なんでウチ、父さんを責めたんだろう。お金持ちなのに母さんを護れなかったのはなんで、とか……。アホな事を言ったよね」


 ウチの顔は、母さんによく似ているらしい。


 父さんからすれば、それは亡くなった母さん――愛する亡者に責め立てられるに等しい言葉だっただろう。


 お金で父さんに従う人を見て来たから……お金の力を勘違いしてしまった子供だった。

 お金は大勢を意のままに動かす力があり、世の中を自分の望む通りにも出来ちゃうような凄い物だと勘違いしちゃってたんだよね。


 成長してから違うと気が付き、悔いても悔いても――もう、どうしようもない失言だった。


 多分、私がその発言をしてからだったんだと思う。


 父さんがそれ以上にお金を求め、鹿奈さんと政略結婚までして……。

 ダンジョン開拓者に投資して、ダンジョンへの異常な執着と経営を始めたのは。

 

 その結果が――旭プロの開拓者や、それに巻き込まれた人々の死だ。


 ウチにも、大きな責任が絶対にあったはずなんだ。

 それは物心が付くか付かないかの子供だったから、なんて言葉じゃ許されない。


「……ああ、ごめんなさい。犠牲になってしまった皆さん」


 生きて強くなって、多くの人を救う事で罪滅ぼしをしたかったけど……もう、これは無理だ。


「ははっ……。腕が痺れて、もう受け流せないや」


 太さだけで自分の身長の何倍もある棍棒を、ここまで良く受け流したと思うよ。

 でも――終わった、かな。

 サイクロプスが次か、その次に振るう攻撃で、ウチは――。


「――そのバンド……3分間の借り物の力を得る代わりに自爆する道具は、エリン・テーラーさんが作ったものです!」


 絶望に飲まれた時、お兄様の声が微かに聞こえた。

 幻聴げんちょう、か?



―――――――――――

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