第79話 これが、こんなのが?

 やはり認めてもらえないか、と言った所で飛び出した――姉御の暴露ばくろインタビュー記事へのリンク。


 リンク先はネットで読めるニュース記事なんだろうけど……。


 俺たちには、何がなんだか分からない。

 続々とコメントで記事の内容が投下とうかされているが――どれも、事実とは異なる。


 俺は自分から天心無影流の後継あとつぎになるべく、3歳から道場へ通っていた。

 9歳の時に正式に養子入りしたのだって、一刻いっこくも早い方が傷が浅く済むとジジイが希望したからだ。

 住み込みで修行を望んだのは、俺。


 死亡届を出さなかったのは、良く分からないけど……。

 血の繋がった家族へ引き渡そうにも、俺にはもう美尊以外に親類縁者しんるいえんじゃは存在はいない。

 まだ高校生の美尊が、俺の身元引受人みもとひきうけにんになれるしも無い。

 1番縁が深い姉御の元へ行ったのが、まるで悪逆あくぎゃくのように語られている。


 全て捏造ねつぞうも良い所だ。

 ほとんど――事実なんてない。


 それが有り得ない事に、事実として語られているらしい。

 他ならぬ姉御自身の口から――情報の確度かくどが高い、本人へのインタビュー記事として、だ。


「……お兄ちゃん。これは本当なの? 私は小さすぎて、よく覚えてない」


 美尊が真相を確認してくる。


「い、いや……。いやいや……。有り得ない話だ」


 尋ねる美尊の言葉で、姉御が謎の捏造言動ねつぞうげんどうをした思惑おもわくを探る思索しさくから現実へと戻って来る。


「……そう、だよね」


〈大宮愛の悪行あくぎょうのせいで2人の兄妹が引き裂かれ続けるのなんて納得いかねぇ!〉

〈おい、このタイミングで大宮愛が個人SNSを開設しやがったぞ。マジで煽ってんのか?〉

〈↑どうせ偽物だろ?〉

〈本物だ、コレ。自己紹介動画付きじゃん。DM凸れるぞ!〉

〈兄妹人気に乗じようとしたんだろうけど、墓穴掘ぼけつほっただけというwww〉

〈事務所の意向とかアイドルの事情なんか知るか! これからも2人で仲良く過ごして! 心残りを残さないで!〉

〈大宮愛許さん、絶対に天誅てんちゅうを下す〉

〈2人して個人勢になっちまえ! なんなら2人で独立しろ!〉

〈姉御マジでクズ。『あたおか』が信じて庇ってたのに、全て裏切りやがって詐欺師が〉

〈大宮愛の操り人形になんてなるな! 再会できた兄妹で楽しい配信をしてくれ! もしもがあっても、思い残すことが減るように! そうしないとワイらが悲しい!〉


 なんだ、これ……。

 コメントが――今まで以上に、とんでもない量に増えた。


 今までは――俺と美尊の事を認めるか、認めないか。

 どちらにするか悩ましい。


 そんな流れだったのが――姉御憎あねごにくし、被害者である2人は救済きゅうさいされるべきと、流れが急に変わった。


 同時接続視聴者数は200万人を突破し、いまなお――俺たちの事は認めて幸せを願い、姉御にさばきを下せという論調ろんちょうがコメント欄を埋め尽くしている。


「あの……俺たちは、失っていた時間の分まで仲良くしても良いんでしょうか? 俺たちは、やっと……皆さんに認めてもらえるって事でしょうか?」


「……皆さん。……お兄ちゃんとの仲を、許してくれるんですか? 私はアイドルなのに……。自分の幸せを願っても、良いんですか?」


〈兄妹としてだろ? そもそも第三者がどうこう言う事がナンセンス〉

〈兄妹の仲を無理やりに、どうこうするって? そんなの大宮愛と同類だろw〉

〈↑それだけはマジ勘弁〉

〈美尊ちゃんの幸せが俺たちの幸せ。大神向琉は大宮愛の被害者なのに、これ以上兄妹仲を邪魔して大宮愛と同類はマジで嫌〉

〈アイドルだろうと人権はあるんだよぉおおお〉

〈兄妹としてだかんな? そこだけ弁えてな?〉

〈地獄で一緒になれる喜びより、この世で2人で一緒になる喜びを感じて欲しい;;〉

〈美尊ちゃん涙ぐんでる……。そんだけ皆に認めて欲しかったんだな〉

〈こんなにお兄ちゃん想い、ファン思いの子から幸せを奪った諸悪しょあく根源こんげんがいるらしい〉

〈ぜってぇ許さん。大宮愛ぃいいいああああああああああ! タヒねタヒねタヒねタヒねタヒねタヒね!〉


 姉御……。

 これが――すすんださきにあるこたえ、ですか?


 兎に角、俺と美尊の仲は――認めてもらえるようだ。

 俺と美尊は目を合わせて、もう一度ファンへ向け深々と礼をする。


「ありがとうございます! 兄妹仲良くしつつ、これからも俺たちはアイドル開拓配信者として頑張ります!」


あそほうけて油断する事のないように……。ううん、お兄ちゃんと比肩ひけん出来る強さを身に付けられるよう、今まで以上に頑張ります。あのドッペルゲンガー戦の本気のお兄ちゃん、殆ど動きが見えなかったから悔しい」


〈それだよ! 大宮愛がクズ過ぎて話が逸れてた!www〉

〈お兄様が2人、助かった今となっては珠玉しゅぎょくの瞬間だった……〉

〈あの戦いヤバかった! 童貞剣が遂にと思ったら、銀髪狐ロリが居たんだが!?〉 


 諸悪の根源は大宮愛。

 俺たちの仲は認めると言う事に帰結して――話題は、ドッペルゲンガー戦へと移った。



―――――――――――

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