第16話 初開拓配信!(2)

「――あ、早速ですがモンスターがいましたね。なんかこっちに向かってマッチョが走って来てます!」


〈マッチョって、あれオーガじゃん!〉

〈初心者殺しだ!〉

〈開拓者の最初の壁って呼ばれるモンスター。お手並み拝見はいけんだな〉


「成る程、こいつはオーガって言うんですね。教えてもらって助かります!」


〈どういたしまして〉

〈というか、攻略ガイドは? 地図と出現モンスターの情報はギルドから買ってないの?〉


「お金、無いんですよ……。妹にお茶も出せないぐらいで……。今日は沢山、稼がなきゃなぁ」


〈草〉

〈泣けてきた〉

美尊みことちゃんとお茶だと?〉

債務者さいむしゃしんどいなw 早く収益化申請しゅうえきかしんせい通れ! お茶代ぐらいやるから!〉

〈まぁDランクでも、それなりに稼げるだろ〉

〈っていうかオーガ! もう目の前〉

〈近い近い! こえぇえええ!〉


 コメント欄を読んでいると、3メートルぐらいあるマッチョは俺に向かい拳を振り上げ――俺の前できりとなって消えた。


〈は?〉

〈は?〉

〈消えた?〉

〈え?〉

〈どういうこと?〉


 視聴者の皆さんは何が起きたのか分からないらしい。

 俺よりダンジョンに詳しいと思ったけど……。やっぱりモンスターの生体に関しては、俺の方がくわしいのかもしれない。10年ものだしな。


「皆さんに解説しますね、これが魔石ませきと言うんですが……。まぁDランクだけあって小さいですね。巨峰きょほうぶどうと同じぐらいのサイズ、10グラムぐらいかな?」


〈いやいや、なんで魔石が手にあるの?〉

〈持ってきた?〉

〈え、まさかそれ……オーガの魔石?〉


「そうです。これはさっきのオーガの魔石を身体から抜き取った物ですね。魔石はモンスターを倒せば確実に落ちるかくです。魔力の塊とでも言いましょうか。身体の何処かにある魔石を抜き取れば、直ぐに身体は霧散むさんします。……魔石になって消えるまで肉体へダメージを与えるのも、ほぼ似た感じですね」


〈いやいや! いつ魔石を抜き取ったの!?〉

〈全く見えなかったんだけど!?〉

〈魔石が何処にあるかなんて個体差あるのに分かってたまるか!〉

〈意味が分からんw〉

〈え、即死そくしさせてたって事?〉

〈死んだのに気付かずに走ってきてたと?w〉


「魔石を抜き取ると、即死そくしとは行きませんね。ラグがあります。モンスターの身体に残った魔素まそを大幅に超える強いダメージでの止めか、魔石を直接壊せば即死させられますが……魔石は手に入りません。代わりとして、稀にそのモンスター由来のドロップアイテムが落ちる感じです」


〈それは聞いた事があるけど、その前!〉

〈もっと分からない事があるでしょう!?〉

〈教えて地底人〉


 え……。わ、分からない事?

 そんな事を言われても……。皆さんが確実に知らなそうな事……。

 あ、これは流石に知らないだろ!?


「そうですね! 調理するなら、魔石はそのままで神経をめるのが1番です。燻製くんせいとか調理に時間がかかる保存食として食べるなら、そうしないと消化吸収する前に消えてしまいますから」


〈そんな知識使わんw〉

〈モンスター喰うとか、初めて聞いたw〉

〈10年生き抜くなら、そりゃ食糧しょくりょうにするわなwww 普通は喰わんけどw〉

〈いやいや、そうじゃなくて! さっきの!〉


「さっき?」


〈走ってたオーガさん、いつ攻撃されたん!?〉

〈完全に地底人死んだと思ってたんだけどw〉


「ああ、そういう事ですか!……え? 発見と同時に魔石を抜き取っていましたよ? その後も動き続けてましたけど……。強いダメージで魔石を壊すと、換金かんきんが出来なくて困りますからね」


〈いやいや、えぇえええええ〉

〈攻撃してたの!?〉

〈刀抜いてないじゃん! 神速しんそく抜刀ばっとうとか?〉

〈もう既に訳が分からんw 地底人との異文化コミュニケーションw〉


「刀は使ってないですよ。天心無影流てんんしんむえいりゅうはどんな武器でも使えるようにって流派ですけど……。俺が1番得意なのは、神通力じんつうりきとか……魔法ですかね? そんな感じの地下で肉体を強化した格闘術が得意です! さっきのは貫手の応用ですよ!」


〈あたまがパンクしそうだよぉおおお〉

〈さっきのオーガ登場から超スローで見て来た。なんか地底人の身体がブレて一瞬で戻って来てたんだけど……〉

〈それ、カメラが追えないぐらい早く動いたって事?〉


「あ、そうです! 早く動いてシュバッと嫌な塊を抜き取って来ました!」


 やっと理解してくれたか!

 人とのコミュニケーション――会話で聞きたい事の意を汲んで、言いたい事を分かるように伝えるのって難しいなぁ……。


「あれ? 皆さん? 動かない……。は、配信機材が壊れたのか!? えっ!? また借金が増える!?」


〈ちげぇわw〉

〈言葉にならんって言うか……w〉

〈こんな理不尽な速度、あり得んだろ〉

〈初心者殺し殺し〉

〈姉御の同門どうもんで実際にSランクダンジョンに暮らしていた経歴が無かったら、映像加工えいそうかこうして貼り付けてると疑ってたな〉

〈あの、大神さん。次からはもう少し戦闘が盛り上げるように意識してくれませんか? 見えない戦闘じゃ、盛り上がらないです〉


「このコメントからあふれる良い人感……。川鶴さんですか!? す、すいません! 分かりました! 盛り上げるように頑張ります!」


 カメラに向かってペコペコと頭を下げると、巻いた自動読み上げ機能付き配信リンク式腕時計から、「草」だの「保護者に怒られたw」だのと声が流れてくる。

 視聴者が離れて行かなくて良かった……。


 もっとギリギリの戦闘を演出しないとダメって事か?


 優勢に攻めていると思ったらピンチになって、逆転したと思ったらまたピンチ。そして最後になんとか辛勝しんしょう……。それが盛り上がる戦闘の特徴とは聞いているけど……。

 その辺の雑魚相手にやるもんじゃないしなぁ。


「そ、それでは気を取り直して次に行きましょう……」


 俺は取った魔石をドローンの収納箱に入れ、再びダンジョン奥へと向かい歩き出す。


 少し悲しくなって、しょんぼりしてしまったけど……。気落ちしている所を配信では見せないようにしなければ!

 よ~し、気を取り直して……やるぞ!



―――――――――――

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