第99話 スカウト? 引き抜き?

「……お、俺たちを、スカウトですか? シャインプロから、旭プロに?」


 人見知り発動。

 地上に上がったばかりのように意識を持って行かれる事はないけど、口調がどもってしまう。


「ええ、その通りです」


 突然の引き抜きか……。

 本当にあるんだな、こういうの。


「あの……なんで私たちがここに居るって分かったんですか?」


 美尊が小さく手を挙げて尋ねた。

 そうだよな。俺たちを引き抜こうとしてたにしても、タイミングが良すぎる。

 尾行は公安っぽい人だけだったし……。


「私が、たまたまSNSでお2人がここにいらっしゃると目にしたのでございます」


 副社長の旭鹿奈あさひかなさんが答えてくれた。

 SNS……。

 そうか。写真付きでアップしたから、それでここを特定したのか!

 お高いアフタヌーンティーの場所を熟知しているなんて、流石は副社長だ。


「如何でしょう? 通常、開拓者は事務所と永年契約えいねんけいやくを交わしていますよね? 負傷などの理由でなく、引き抜きでは違約金いやくきんが発生する。お2人はまだ、CM契約等はございませんよね。それならおおむねねの違約金相場は、前年度の収益の数倍ぐらいでしょうか? 全て、こちらが負担致しますよ」


 なんとも太っ腹な話だ。

 俺は兎も角、美尊は相当稼いでいるだろうに。


「旭プロは本来、Bランク開拓者になる迄の取り分は事務所が8割です。その代わり装備などは全て、格上の物を貸与しておりますがね。――ですが、お2人は特別!」


 大仰おおぎょうに手を広げ、特別を強調して来た。

 なんとも、芝居がかった動きだ。


「こちらの事務所に移籍していただければ、即座そくざに取り分は6割とします! どうです? 大神さんの今の取り分は……なんと1割。シャインプロはケチですよね~……。旭プロなら、6倍ですよ!」


 収入が6倍になる。

 それは凄いな……。


「更に更に! 伊縫いぬいさんの装備代金1千万も即座にお支払いしましょう! ええ、特別に! 契約金代わりです!」


 うわぁ……そこまでしてくれるの?

 今の所――ドッペルゲンガー戦で、俺……と言うか、白星はくせいが壊してしまった装備代は弁済べんさい出来る当てもない。かなり割りの良い話だ。


「まだまだ終わりませんよ!? お2人にはパーティで活動してもらいます。常に一緒に居られますよ! 更にパーティランクがBランクになれば、取り分は7割! Aランク以上なら8割でも良いですよ!?」


 ええ……。

 そんな迄してくれて、本当に大丈夫なの?


「極めつけに! お1人ずつに専属マネージャーを付け、動画編集もメディア出演や交渉もサポート! 確定申告かくていしんこくも当社の税理士にお任せ!」


 確定申告、か。

 今、レッスンとかでその辺も実例を含めてやってるけど……色々と難しいんだよなぁ。


「大神さんは、あの大宮愛おおみやあいひどあつかいを受けておりますよね? お2人揃って移籍いただけるのならば、弁護士費用も全て当社が持ちましょう!――さあ、これだけの好条件は他に有り得ませんよ!?……如何いかがですかな?」


 お辞儀じぎしながら顔だけを俺たちに向けて来る。

 ギラギラとした瞳からは、強い野心のような物を感じる。


「素晴らしいお話ですねぇ~。今の俺の待遇たいぐうからは、考えられない好条件です」


 俺は美尊に目線を向けてから、笑顔で旭柊馬あさひしゅうまさんにそう返す。


「そうでしょう!? それでは――」


「「――だがことわる」」


「……はい?」


 俺と美尊のセリフがハモった!

 目配せだけで俺の言いたいセリフが分かったなんて……美尊、お兄ちゃんは嬉しいよ!

 言ってみたかったんだよなぁ~このセリフ!


「……今、なんとおっしゃいましたかな?」


 う……。顔を近づけないで欲しい。

 だいぶ慣れて来たけど、人見知りが発動してしまう。


「だ、だから、お断りします、と。俺はシャインプロで満足しています。いえ、むしろシャインプロじゃないと満足出来ないんですよ」


「しかし、しかし! 大神さんは理不尽な扱いを受けているはずです!」


「ははは……」


 その辺りは、姉御の話を直接聞いてないと分からないよなぁ。

 確かに、取り分は1割なのは理不尽だと思うけど……。

 10割の取り分より、美尊とこうして街中で自由気儘じゆうきままに過ごせる時間の方が価値がある。

 それをもたらしてくれた姉御を裏切るとか……有り得ないわ。

 恩義おんぎは金じゃ買えないんだよ。


「まだ条件が足りないと言うのなら――」


「――すでに結論を提示したのだ。そこまでにしてもらおうか」


 え、この強気で性格が悪そうな口調。

 声でモンスターを射竦いすくめられそうな女性の声は――。


「――姉御!?」


「愛さん!?」


 バシッとパンツスーツを着こなした姉御が、腕を組んで立っていた。


「兄妹のいこいの時間を邪魔するとは……。旭プロは無粋ぶすいだな」


 姉御はめつける視線を旭夫婦あさひふうふへと向け、カツカツと靴音を鳴らして俺たちのテーブルへと詰め寄って来る。



―――――――――――

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