第111話 他の進捗と開拓配信者の現実
そうして、およそ10分程が経過しただろうか。
「はぁあああ!……よし、今ので最後ですね!」
俺が最後の1体を仕留め、辺りを見渡すと――既に、我先にとドローンへ魔石を拾い集めている開拓者パーティの数々。
戦いが済み余裕も生まれた今、誰しもが無情な訳ではない。
傷ついた仲間に治癒魔法をかけている者もいるが……。
バーゲンで誰かを薙ぎ払ってでも商品を手に入れようと戦う姿より、更に悲しくなる。
〈えぇ……。配信中はもっと格好良いのに〉
〈旭プロ、こんなのばっかなの? うわぁ、イケメンも多かったのに幻滅〉
〈イケオジだって居たのに、こんな裏側なんて見たくなかった〉
〈あの娘、人気の配信者だよな? これ、配信して大丈夫なの?〉
〈良いだろ。真相を伝えるのも大切だよ。夢から覚めろ〉
〈全員が全員、あたおかの邪魔をしたり仲間を粗雑に扱ってた訳じゃないけど……。これはちょっとなぁ〉
〈本来の開拓者は、生きるか死ぬかだぞ? 命張って倒した魔石を拾ってるのに叩くのは筋違い〉
〈↑お、旭プロ関係者の方ですか?〉
視聴者コメントも、こんな状況を見て議論が紛糾している。
思う所はあるけど……もうここで俺がやる事はない。
動機や発言に褒められない所はあったけど、命を賭けて戦ったのも事実だ。
あまり汚い部分を映すのは止めよう……。
俺は地上へと上がり、スタンピードを無事に収めた事をギルド職員や自衛隊員へと告げる。
そうして――ふと気になった。
「美尊や姉御は、無事に終わったのかな?」
ほぼ一斉にスタンピードが発生するなら、もう1時間超が経過している。
ダンジョンによってモンスターが地上へ辿り着くのに差があるとは言えども、他の配置に就いている人たちも終わった頃だろうと思う。
姉御からもらったレポートと、今回担当したダンジョンのスタンピードの順番を見比べた結果、深い階層のダンジョンの方が地上へとモンスターが上がって来るのに時間を要する傾向にある。
「川鶴さんによると……。姉御は日光の方のダンジョンを先に深層から地上へと続く道を崩落させて塞ぐ事で、時間を稼いでると言ってたけど……。それにしても、危険度が違い過ぎる」
美尊たちトワイライトも、関東にあるCランクダンジョンを担当していると言っていた。
一先ず、そちらの状況が知りたい。
基本的にスタンピードは乱戦になるから、配信をする人も少ないらしい。
高額なVRカメラをドローンや頭にセットし、乱戦のどさくさで壊れれば大損だから。
美尊へと通話をかける。
そうして数回、コールが鳴ると――。
『――もしもし、お兄ちゃん? 配信で視てたけど……大丈夫?』
大丈夫、とは……俺の身体じゃなく、旭プロと揉めた事を聴いているんろうね。
俺の垂れ流し配信を視ていられるって事は、美尊たちの方も無事に終わったのだろう。
〈美尊ちゃんの声だ! 参戦してたんだな!〉
〈特殊予備自衛官とは言え、学生なのに大変だな……〉
〈兄妹ともに無事で良かったぁあああ!〉
〈¥30,000
あたおか、マジでありがとう。あたおかが居なかったら、あの化け物の大群が地上へ出てたと思うと怖くて仕方ない〉
〈¥200
学生で金なくてゴメンなさい。せめてもの感謝の気持ちです〉
〈¥10,000
お兄様ぁあああ! お礼金です、お納めください!〉
美尊の声に混ざって、自動読み上げの機械音声が流れる。
1つの目的である恐怖感の再認識には成功したみたいで良かった~……。
「俺の方は、その……。色々とあったけど、大丈夫だよ。美尊の方も、無事にスタンピードは収めたみたいだね?」
『うん……。スタンピードは無事に終わったんだけど、落ちたドロップアイテムと魔石の取り分で、ちょっと揉めた』
「え、誰と?」
まさか、トワイライトの中で?
あんな仲良さそうに見えて、実は中では利益争いがあるとか?
さっきからそういう光景ばかりを目にしてるから……つい、そう考えてしまう。
『旭プロの人とか、他の小さな事務所とか個人勢の人たち。……ギルドからの報酬だけでも、私は十分だと思うんだけどね……。やっぱり車や家を買うのにもローンを組めないし、賃貸も借りられない実家暮らしの人たちは辛いみたい』
「……そっか」
開拓者は大金を稼げると思っていたけど、よく考えれば――それは極一部か。
冷静に考えてみれば――俺みたいに1人で数百というモンスターを誘き寄せ倒す開拓配信者なんて、視たことがない。
そりゃあ俺が配信で映した鉱石の採掘に、サッと開拓者が集まるはずだ。
『深紅が代表して交渉してくれたから、もう落ち着いたけどね。……深紅は深手を負いながらも、単独で撃破数120体を超えるMVPだったから、場を落ち着けられた』
単独撃破数、120体!?
流石はBランク開拓者……。
で、でも――。
「深手って、大丈夫なのか!?」
『うん。涼風が応急処置をしてくれて、自衛隊員の人が専門の病院に運んでくれたから。後遺症が残りそうでも無かったよ』
「そ、そっか……」
さっき左腕を失った人を見たから……。
四肢欠損レベルでは治癒魔法でも、どうにもならない。
開拓者生命、そして命に別状が無くて良かった……。
『川鶴さんが怪我人を病院へピストン輸送しているのを、今は手伝ってる』
え、川鶴さんが?
なんで……。
「川鶴さんは、避難しなかったの? 俺も昨日、結構説得したんだけど……」
『事務所のライバーを置いて社長が逃げられないって。自衛隊が運ぶ程じゃない怪我人たちを、大型ワゴン車でブンブンと病院に運んでる。川鶴さんも、強いね』
「本当にね……。感謝しないとな」
旭プロの社長――旭柊馬の顔を思い浮かべる。
苛烈なノルマを課す、口達者な男。
あれに比べてウチの雇われ社長は――なんて善良なんだろうか。
ウチの経営者が――姉御で良かった。
美尊との通話を切り、姉御に通話をかけるが――。
「――圏外?」
繋がらない。
と言うことは、事態が発生して1時間以上が経つと言うのに――。
「まさか、姉御はまだダンジョン内に!?――あの、すいません!」
「は、はい!? 如何されましたか!?」
慌てて、ギルド職員へと声をかける。
ダンジョン内へと入る前に揉めた負い目からか、ギルド職員さんは頭をペコペコ下げている。
「日光にあるAランクダンジョンに電話は出来ませんか!? 姉御……大宮愛が、そこに入ったはずなんですけど!」
「え?……わ、分かりました。確認してみますね!」
そう答えたギルド職員さんは、パソコンを弄ってからスマホへ電話番号を入力している。
そうして電話が繋がったのか、会話を始めた。
〈大宮愛がAランクダンジョンに潜ってるとか言った?〉
〈嘘でしょ? どうせ安全な場所でふんぞり返ってる。あたおかが何時も擁護するアレだろ〉
〈ダンジョン庁長官だけど、大宮愛はAランク開拓者だぞ? 人手が足りないなら、有り得るよ〉
〈指揮官が現場に出て連絡付かないとか、アホなの?〉
〈↑Aランクダンジョンのスタンピードとか、他に対応出来るやついねぇだろ。お前こそアホなの?〉
色々な意見が合っても良いとは思うけど……。
相変わらず、姉御の名前が出ただけで荒れるなぁ……。
そして通話を終えた職員さんが、俺の方を見て口を開く。
「か、確認してみました所ですね……。15分程前に潜られて、未だに戻っていないようです」
怖々と伝えて来たギルド職員さんの言葉に、俺は内心焦ってしまう。
ギルドへと電話が繋がったと言う事は、少なくともモンスターが地上へと溢れ出す事態には陥っていない。
でも――まだ、事態は終息していない。
1番危険な場所のスタンピードが終わっていないのに、安堵の息なんて吐いている場合じゃなかった!
「クソ、こんな事をしていられない!」
俺は急ぎ、宙を翔る。
ナビを起動させて向かう先は――栃木県、日光のAランクダンジョン。
「……しまった、俺のランクでは――行っても中へ入れないんだった」
戦いで脳が興奮状態になっていて、ルールの事なんか忘れてた……。
――向琉よ。ダンジョン内部に入ることは叶わんでも、その手前……ギルドへは入場が出来るじゃろう?
久し振りに、白星が念話で話しかけて来た。
そうか……。
ダンジョンへと通じる扉の、ギルド側。
モンスターが地上へ出るに当たり1番最初に通るそこに居るのは、違反じゃない!
白星、ありがとう!
――良い。しかし何故、そこまでして向かいたいのじゃ?
白星の問いに答えつつ、俺は青い空へと神通足で跳び上がる。
そんなの……決まっている。
姉御が心配だから、少しでも近くに居たい――そんな愛しさを、抱いてるからね。
戦場では……ふとした油断や偶然で、命なんか泡のようにパッと散る。
姉御にもし何かあったら――姉御のカバーをしたい。
地上へと上がって来たモンスターを蹴散らすなら、違反にはならないだろ?
ダンジョン庁として民間人を守りたいという、姉御の意志を守る――最後の砦になりたいんだよ。
――そうか……。ならば妾は止めん。良き男になったのう、向琉。
白星の嬉しそうな声を脳内で受け止めながら、俺は空を駆けていく――。
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
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