第46話 相談枠編(6)どの仮面を被れば?

 たった1つ、頭を下げて生きる事しか成功体験がなかったのは――選択肢せんたくし視野しやを狭めてしまったと思う。

 自分自身の生き方をゆがめてしまったんだろうなと、そう実感する。


「人間が生来持せいらいもっている気質がどうだろうと、社交性しゃこうせいは環境によって変化するらしいです。――社会性仮面ペルソナというらしいんですけどね? 多くの人が家族と居る時の自分、友人と居る時の自分、初対面の人の中に居る時の自分、1人で居る時の自分と……様々な仮面かめんを被って社会的交流をしていると思うんですよ」


〈ああ、それは俺もあるわ〉

〈俺はおふくろにだけ強いぞ?w〉

上司じょうしせっするとき部下ぶかせっする時に同じツラして行ったら人間関係終わるわなw〉


「俺は10年間もダンジョンに居て……。どうすれば良いのか、どうすれば人に嫌われないのか。――たった1つの手段しか分からない、知らないんです。だから……それでも、卑屈ひくつなまでにへりくだっていても人に嫌われてしまった時、リカバリーする事が出来ない」


〈ああ……チート級の強さを持つのに臆病おくびょうとか言ってた理由が分かってきた気がする〉

〈人間関係の経験値が絶望的にないんだな〉

〈成る程、どの仮面かめんを着ければ仲直り出来るか分からないと……〉

〈やっぱりダンジョンへ落ちてた影響はあるよな……〉


「……俺は、再会さいかいできた唯一ゆいいつの家族、美尊みことと仲良く過ごしたい。同門どうもん姉御あねごと、仲良く過ごしたい。新しくそばに居てくれるようになった人や、皆と仲良くなりたい。愛し、愛されたい。……それなのに、相手から嫌われてしまったら……」


 嫌われてしまったと受け取れる、配信の時に流れて来た美尊のコメントを思い出す。


「――今の弱くて臆病おくびょうな俺には、どうすれば良いのか分からないんですよ」


 本当なら――美尊みことは寝ているかもなんて良い訳せずに、メッセージなり電話をすれば良かったんだ。

 ただ俺は……なんて言えば良いのか、なんと声をかければ良いのか分からなかった。

 だから、明日にと逃げてしまったんだと思う。


自然体しぜんたいで人と仲良くなるには、俺には経験値けいけんち成功体験せいこうたいけんが足りなさ過ぎるんです。人間との交流から離れ過ぎて……どうすれば上手く人と交流が出来るのか、どの仮面をかぶれば良いのか、この年齢で未だ分からないんですよ。……だからこそ必要以上にへりくだって、せめて嫌われないようにとエンタメを盛り上げるのに四苦八苦しくはっくして、丁寧に丁寧にという礼節を取っているのかもしれません。言わば、自分を守る為に他者へ丁寧に接している、とも言えるかもしれませんね」


〈分かる。人に嫌われたくないから八方美人はっぽうびじんになるのって別に悪い事じゃないと思う〉

〈自分の意思は持って欲しいけどゆずいの精神を持つお兄様は応援したいです!〉

〈誰よりも優しい人は過去に優しくされなかった経験があるからって言葉が胸にみるな……〉


「タイミングとか良く分からない事が原因で美尊に嫌われちゃって……。どうすれば良いのか、どう謝れば良いのか、俺には分からないんです。……仮面かめんを持ち出したくない。残っている家族に、いつわって接したくない。でも――自分の本音でぶつかったら、もう仲直り出来ないかもしれない。それが……本当に怖いんですよ。……こんなんじゃダメですよね。俺、もっと強くなりますから!」


〈大丈夫! あたおかが美尊ちゃんを本気で想っているのは伝わったよ〉

〈本当の愛情を言葉にすればきっと伝わるよ〉

〈そんだけ美尊ちゃんの為にって生きて来たんだから自身持って! 仮面を被らなくても分かり合える存在が親友だったり大切な家族だろ!〉

〈あたおかぁ! 泣いた。一緒に謝ってやるから、なんで怒ったのか聞いて誠心誠意せいしんせいい謝ろう!〉

〈酔っ払いの意見はかく、勇気を出そう。怖いだろうなとは思うけど、最悪ばっか考えてちゃダメ!〉


「皆さん、ありがとうございます!」


 ここに居る人たちはあったかいなぁ……。


 姉御の事と言い、美尊の事と言い……。なんか相談に乗る枠なのに、俺が相談に乗ってもらってたな! 


 もうご飯はないし、ちゃんと皆の相談に乗って恩返しをしないと。

 まずはこのエンタメコンテンツにあるまじき暗い雰囲気の修正からだ!


「なんか、しんみりとさせてごめんなさい! 深夜しんやテンションで変な事を口走りました! もっと楽しい話をしましょうかぁあああッ!?」


 俺が軌道修正きどうしゅうせいはかろうとした時――1つのコメント飛び込んで来て、思わず声が裏返る。


伊縫美尊いぬいみこと:お兄ちゃん。今日はたりして本当にごめんなさい〉


 それは――美尊からのコメントだった。



―――――――――――

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