第136話 左ハンドル高級車ドライブスルー

 大切にしている愛車なのか、姉御は愛おしそうに車のボディを撫でながら俺に問いかける。


 そんな大切そうにしてるのを見るとさ……余計に乗るのが怖いって!


「い、いえ! ただ、服がかするだけでも怖いっす! 乗るのはもっと怖い!」


「気にするな。傷が付いたらSランクダンジョンへ潜って修理費を稼いでくるだけだ」


 え、ええ……。

 何、この格好良い人……。


「じゃ、じゃあ……お願いします」


「うむ」


「良いなぁ……」


 川鶴さんは、羨ましそうに俺を見詰めている。

 そう言えば、この人も姉御に憧れてんだったね。


 深紅さんと言い、川鶴さんと言い……。

 流石に姉御がオーナーを務める企業だわ。


 そろりそろり、と車に靴が当たらないように低いシートに腰掛けて――。


『――待つのじゃ! リンゴカードの代金、川鶴某かわつるなにがしに渡したままではないか!?』


 白星はくせいが大きな声を上げ、左腰でガチャガチャと揺れる。


 おまっ……。

 さやで何処か傷付けないか、マジで焦ったわ!


「……オーナー。先ほどのお金です」


 川鶴さんが、財布から万札を数枚取り出す。


 メッチャ微妙びみょうな顔してる……。

 喋れば喋るほど、威厳を無くして行く御神刀とは……。


 普通は刀が喋っただけでも偉業。

 崇敬すうけいを集めそうな物なのに、ね……。


「良い。コンビニのATMで引き出す。……それでトワイライト3人娘と食事でも行ってくれ」


「え、え!? ご、ご馳走様ちそうさまです!」


「ああ。では、またな」


 姉御は川鶴さんからお金を受け取る事もなく、そのまま車を発進させた。


 姉御、マジかっけぇっす……。

 美尊も言ってたっけ?

 一流開拓者は1回ダンジョンへ潜るだけで数百万稼ぐとか……。

 超一流の姉御は、もっとだよね……。


「――向琉。夜食やしょくは何が食べたい? 学校まで送り届けるぞ」


 その後、開拓学園高等部へ到着して別れる時にそんな事を言われた。


 金に物言わせるだけでなく、この細やかな心遣いよ……。

 うわぁ、俺も頑張ろう……。


「――あ、牛丼大盛ぎゅうどんおおもり。つゆだくでお願いします」


「うむ、分かった」


 結局――姉御は自分の分も買ってきました。

 誰もいない職員室で、姉御と一緒に牛丼を食べると言う……。


 間違っても寿司とか、頼めないっす。

 牛丼のジャンクな感じを豪快ごうかいに行くのが至高しこう


 姉御の高級車で牛丼が運ばれて来ている光景を想像すると……。

 笑って米を吹き出しそうっすね。


「姉御も牛丼食べるんすね」


「ん? よく食べるぞ? 今日のようにドライブスルーでな」


「――ぶほっ」


 やばっ。

 ちょっと口から米が出たかも。


 こんな低い車体の高級車でドライブスルーって……それ、スルーできるの!?

 受け渡し口から、左側の運転席に届くの!?

 光景を想像したら、メッチャ面白い!


 夜食休憩を挟みつつ――開拓学園のAIを使いながら、やりたい事をやって行く。


 パソコン関連の勉強をしていたし、AIのアシストが便利すぎて思ったよりもスムーズだ。

 パソコン作業でどうしても分からない操作や、これで良いのかと悩んだ時には――姉御が相談に乗ってくれた。


 やっとやりたい仕事を終え、気が付けば――朝でした。


 暗かったはずの空が、いつの間にか明るい時の衝撃!

 俺は結局、朝も姉御と一緒に車で帰る事になった。


 そんなこんなで――朝用のメニューを販売しているハンバーガー屋さんに寄り、朝食の調達をする事に。


『――いらっしゃいませ、おはようございます。ご注文お決まりでしたら、下のマイクへどうぞ』


「べ、ベーコンエッグサンドセットを2つと、エッグマフィンセットを1つ。サイドメニューはアップルパイ1つと……」


「私はサラダだな」


「サ、サラダを2つ! ドリンクはアイスティーレモンをSサイズで3つ、お願いします!」


『はい。ご注文お間違いなければ、お車を前へどうぞ~』


 す~っと、速そうな車体に似合わぬ優しい速度で前進。


 マジで――この高級車でドライブスルーするんだね?

 受け取り口でお会計と受け取りする時、店側の窓が高くてやりづらくて仕方ないってばよ……。


 左ハンドルなら、普段はどうやってお会計や受け取りしてるんだろう?

 朝陽あさひ急速きゅうそくに昇っていく中、姉御は公園に車を停めた。


 そのまま車内で朝食を食べようとするけど――食べこぼしが落ちたら怖い!

 という事で、公園のベンチに腰掛こしかけ姉御の食事に付き合う事になりました。


 家でとも思ったんだけど、美尊が起きてくるにはまだ早い時刻。

 そこで俺は、意を決して姉御にたずねてみた――。



―――――――――――

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