第131話 初撮影、険悪な現場!

 スタジオ近くのコインパーキングへと車を停め、川鶴さんを先頭に建物へ入る。

 すると――。


「――うわぁ……。テレビで見たことがあるガチの照明、スタッフも多い……」


 先にシャインプロ所属のメンバーが撮影を行っているようで、既に撮影は始まっていた。


「ここは宣材写真せんざいしゃしん向けのスタジオです。大神さんはここでの撮影を終えた後、この建物内の別スタジオに移動する事になります」


「べ、別スタジオですか?」


「はい。ここの建物はアンティーク調の家具や、カフェ風の撮影スタジオがあるんです。この後、直ぐにメイクをしてから、この2カ所で撮影。続けてスタジオを移動し、今度は道場の撮影スタジオです」


「ど、道場ですか!?」


「ええ、昨今はコスプレ撮影などのニーズも増えていますから。経営難けいえいなんで潰れた道場など、あらゆるシチュエーションがレンタルスタジオとして有るんです」


「ほ、ほぇえ~……」


 凄い時代だ……。

 天心無影流道場てんしんむえいりゅうどうじょうがダンジョン災害で地下に沈まなかったら、経営難で撮影スタジオになる未来も……あり得たのかもしれない。


 最近、姉御を通じて司法書士しほうしょしさんから受け取った書類によると――大神家おおかみけ所有しょゆうしていた不動産は、引くほどに多いけどね?


 それでも都心一等地としんいっとうちに広大な敷地を有する道場は――伝統を継いで行くにしても、膨大ぼうだいな赤字を垂れ流す不動産だっただろうから。


「おはようございます。シャインプロの川鶴です。この度は急な変更をこころよく引き受けて下さり、誠にありがとうごいます。これ、よろしければ皆さんで召し上がってください」


 川鶴さんがペコペコと頭を下げながら、スタッフへと挨拶をする。


 俺も続いて挨拶をするが……この場のリーダーと言うか、現場責任者らしきスタッフ――カメラマンは「はい、はい。早くメイクして来てね」と、かなり不機嫌そうだ。


 まぁ……それはそうだろうね。

 こちらの都合で無理やり仕事を増やして、納期のうきまで直ぐなんだから。


 川鶴さんが持参じさんした手土産も気持ちが表れているのか、かなり高級そうだ。


「大神さん、メイクをしますのでこちらへ」


「は、はい!」


 様々な用具を手にしているオシャレな女性に呼ばれ、俺は緊張しながら椅子に座る。


 美尊はどこ!?


 つい視線で探してしまう。

 美容室みたいに話しかけられるとしたら、人見知りムーブメントが炸裂さくれつする。

 助けを求めてしまうのは、理解して欲しい。

 仕方がない事なんだろうけど……。


 メイクをする時――顔が近い!

 首筋がザワザワするような、嫌な感覚が襲うううう!


 鏡を見れば――そこに、美尊が居る。

 ああ……いこいのオアシス発見。

 そこだけを見詰めていよう。

 ありがとう、美尊。


 慣れない仕事。

 アイドルっぽい華やかな現場で潰されずに済んでいるのは、美尊が同行してくれらからです!

 メイクが終わり、立ち上がって直ぐ――。


「――はい、続いて大神向琉さん入ります!」


 スタッフへうながされ今まで撮影されていた女性と入れ替わりに、照明が照らされた白い布の上に足を踏み入れる。


 うわぁ……。

 これ、テレビとかで見たことがある!

 彼方此方から注ぐ照明が眩しい!

 レンズがギラギラ光を反射してくる!

 ききき、緊張がヤバい!


「お、大神向琉です! 本日は急に申し訳ありません! どうぞよろしくお願いします!」


「はい、お願いします。――それでは正面見て」


 俺が足を踏み入れた瞬間は、不機嫌そうだった男性カメラマンも――パッと、人が切り替わった。

 カメラを向けた瞬間、声音から何からが違う。

 被写体ひしゃたいである俺が緊張しないように、柔らかい表情と声をかけてくれる。


「はい、次は顎引あごひいて。次は笑顔。……う~ん、硬いねぇ。人生で1番嬉しかった時を思い出してみましょうか」


「い、1番?」


 そ、それは――姉御が、俺たち兄妹の為に動いていると知った時?

 いや、多分――冥府行めいふゆきのダンジョン奥深くで、美尊を発見した時だ。

 そう、カメラの後ろに佇む美尊を――。


「――はい、オッケー」


 笑ったつもりはないけど――カシャリと言う音が聞こえオッケーとの声も聞こえる。

 どうやら、美尊を見ていたら自然と笑みを浮かべていたようだ。

 スタジオに置かれた大きなモニターは、カメラと繋がっているのだろうか。

 今撮ったであろう写真――俺が笑顔を浮かべた顔が映し出されている。


 流石、プロの現場だ……。


「少し身体を横に向けて。はい、ストップ。こちらへ流し目お願いします」


 つ、次々と指示が飛んでくる!

 これは、全く油断が出来ない!


 でも――無理を押して仕事を引き受けてくれたスタッフさんへ応える為に!

 お金を出してまで写真集を買ってくださる方々に最高の1枚を送れるよう、アイドルに徹する!


 恥ずかしさを捨て――俺が持つであろう魅力を、全て写真に撮ってもらわねば!


「――はい、オッケー。スタジオ移動します」


「ありがとうございました!」


「大神さん、衣装チェンジです。こちらへどうぞ」


「は、はい!」


 男性スタッフさんに案内され、スタジオの片隅にある試着室のような場所へと誘導される。


 服も手渡された上で、だ。

 そうして着替えを終え移動すれば――そこはアンティーク家具に満ちたオシャレな一室だった。


「はい、それでは家具を使って思い思いのポーズをどうぞ」


「え、え!?」


 選択肢がめちゃくちゃ多い!

 カメラマンさんの指示に戸惑っていると――。


「――そこのソファー座って見ましょうか。足を組んで、王者の風格っぽく偉そうに」


「は、はい! 王者の風格――こうですか!?」


「……あの、物理的にオーラは醸し出さなくて大丈夫ですよ? 身体の周りに、なんか魔王っぽいオーラ纏っちゃってますからね?」


「あ、すいません」


 神通力と魔力を混ぜて王者の風格っぽいオーラを演出してみたんだけど……。

 要らなかったかぁ~。


「それでは顎を上げ、見下ろすように視線ください!」


「み、見下ろす!?」


「こう、自分より格下のモンスターを捻り潰すような視線っすかね?」


「な、成る程。要は視線で威圧する感じか!――こう、ですか?」


 ギンッと、視線に神通力を込めてカメラのレンズを見下ろす。


 すると――気が弱そうな男性スタッフが1人、意識をり取られたのかミラーを手に倒れた。


 他にも尻餅しりもちを突いたり、足をガクガクと震わせている人の数々……。


 や、やり過ぎた!?


「……少し顎を上げて、こちらへ視線をくれるだけでオッケーです」


「すすす、すいません!」


 結局、指示に従いポーズを取って行く。


 一瞬だけど――カメラマンさんが舌打ちしたのが見えた。


 俺に隠れるようにした行動だけど……この状況に不満を抱いているのが伝わってくる!

 そりゃ~そうよね。

 急にねじ込まれた仕事。

 更にはいきなりアドリブでオーラを出したり、気当てでスタッフを気絶までさせたんだから!


 あからさまにぶっきらぼうじゃないだけマシだ。

 よ、良くない雰囲気だよな……。

 なんとか挽回しないと……。



―――――――――――

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