第130話 マネージャーは流石です!

 午後も同じように時は進み、そして本日最後の授業が終了した。


「――大神さん。お疲れ様です」


「あ! 川鶴さん! 来てくれたんですか!?」


「はい、事務所としてもお受けした仕事ですから。……それに普段の開拓とは違った仕事内容ですからね。様子はどうかなって気になりまして……。実は、1時間前から見ていたんですよ?」


 うん、実は気配で気が付いてましたよ?

 でも、ここは驚いた方が良い――とか、打算的な事は抜きにして……。


「ありがとうございます! それで、ですね? 今日はこの後――」


「――あ、はい。この後は直ぐに撮影へ向かいます。大神さんに休憩をしていただきたいのは山々なんですが、写真集の方が割と……。いえ、本当にヤバいスケジュールでして……」


「あ、はい! それは勿論もちろん、この程度で休憩なんか要らないですよ? 唯、ですね……。その……」


 開拓配信者としては、どうかと思う事を言おうとしている。

 でも、だ。


 今の俺は――臨時講師りんじこうしだ。


 出来る事をやりたい。

 今日やれる事を明日に回したら、開拓者でもある学生は――命を落とす可能性もあるんだから。


「その……。ドタキャンばっかりでアレなんですが、今日の配信は……」


「はい。分かりました。共同管理きょうどうかんりのアカウント、そして事務所の公式SNSで配信予定キャンセルの報告と謝罪をしておきますね?」


「い、良いんですか!?」


「勿論ですよ。朝からず~っと働き詰めなんですから。ろくに休憩もさせずに開拓配信をしろなんて、言えません」


「川鶴さん……。ありがとうございます!」


 頭が上がらない!

 自分で言うのは難だけど――俺はもう、Bランクダンジョンでもメチャクチャ稼げる実力はあるだろう。


 がめつい事務所ならCランクダンジョンや飯枠をやるんじゃなくて、サッサとBランクで金を稼げと指示するだろう。


 それなのにシャインプロは、何処までも俺のマイペースに開拓を進めるのを応援してくれる。


 元々、堅実を掲げている事務所ではあるのだけど――正直、他のゆったりダンジョン経験を積み重ねて来た子と俺は、事情が異なる。


 今日1日、学生たちを指導して改めて思った。


「あ、頭を上げてください! と、兎に角……忘れ物はありませんか!? 何も無ければ、スタジオへ行きましょう。教頭先生にはもう、挨拶はしてありますので!」


「忘れ物ですか?」


 特に無い。

 スーツ姿で、荷物も手持ちの鞄のみ。

 挨拶をしたなら、職員室にも用事は無いし……。


 特に無いと口にしようとした所で――。


「――お兄ちゃん。私を忘れてる」


 またしても体育館の入口に美尊が現れ、そんな事を口にしていた。


「美尊? 今度はちゃんと廊下を通って来たの?」


「うん。今度はちゃんと廊下を通って来た」


「な、なんですか? この会話は? 他に何処を通って来ると?」


 川鶴さんの反応は、ごもっともです。

 普通なら他の選択肢自体が無いですもんねぇ~。


「川鶴さん。私も撮影に付いて行って良いですか?」


「え? み、美尊さんがですか?」


「私たちの配信予定は深紅がこの後17時から18時半。トワイライトが19時半から21時半までだから」


「確かに美尊さんのスケジュールは余裕がありますね。寮もスタジオへ行く途中ですし……。う~ん……分かりました」


「い、良いんですか!? 美尊も一緒って、そりゃ俺は嬉しいですけど……」


 家族を私的な理由で職場へ連れて行くようなもんだよね?

 え、そんなのが許されるなら――俺も美尊がする他の仕事を見たいよ!?


「特別です! 唯でさえ急なスケジュール追加で、先方に頭を下げなければいけないです! たとえ指摘してきされた所で、頭を下げる理由がちょっと増えるぐらいですよ! それに美尊さんなら完全に部外者でも無いです。事務所関係者でもありますからね」


 う、う~ん。

 まぁそうなんだけど……。

 理由としては弱いような……。

 撮影に必要なスタッフとかでは無いしなぁ?


「それに、これは私のマネージャーとしての勘ですが――大神さんは、美尊さんが現場に居た方が良い写真が撮れます!」


「え?」


「初対面の撮影スタッフに囲まれて、大神さんが自然なポーズや笑顔を取れる訳がありません!」


 うん、それはそう。

 俺の人見知ひとみしりへの信頼度、高いなぁ~。

 流石は川鶴さん。

 全て仰る通りでございます。


「す、すいません。正直、臨時講師役りんじこうしやく忙殺ぶさつされてて、現場の想像までは出来て居ませんでした! 美尊に付いてきて頂けるなら、是非ともお願いします!」


 必要とあらば俺も現場責任者へ土下座します!

 はじ外聞がいぶんも捨てて、自分の実力不足を補う見方を紹介しますとも!


「それでは行きましょうか。――あ、美尊さん。申し訳がないのですが……。場合によっては、今日はダンジョンへお送りするのは別のマネージャーが担当する事になるかもしれません。お迎えは私が間に合うのですけど……」


「ん。お兄ちゃんの撮影の方が大切。無理しないで。私たちは自分の足で行き帰りしても良いぐらいです」


「そうは行きません! 少なくとも帰りは意地でも迎えに行きます! 他のスタッフを残業させる訳にもいかないですし、未成年の女性に暗い夜道をトボトボ歩かせられる訳がありませんから!」


「ん。ありがとうございます」


 美尊は頭を下げながら川鶴さんと下駄箱へ向かう。

 そんな2人の背中を見詰めながら、1つ思う。


「その未成年女子――屋上を走れるのよね」


 ボソッとでも良い。

 口から出さないと気持ち悪い突っ込みって、あるよね?


 そうして俺と美尊は、道中で寮に寄り開拓用の装備を車に積み込む。


 そうして川鶴さんの運転する車で、撮影スタジオへと向かった――。



―――――――――――

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