第173話 トワイライトのコラボ開始!
迎えた土曜日。
時刻は17時直前。
川鶴さんは時計を片手に、ダンジョンへ通じる階段前でトワイライトの面々と俺を見詰めながら――。
「――それじゃ、最後の確認をしますね」
今日のトワイライトとのコラボに関する説明を始めた。
俺としても、今日を楽しみに……そして少しだけ不安に待っていた。
「先日は美尊さんの枠に大神さんがゲスト出演すると言う流れだったので、今日は
コラボをしたのなんて美尊以来だし、炎上しないだろうか……。
「
「ん。私はそれ、よく覚えてないけど……
「大神さんのファンは自由を愛する
ハイ、じゃないですけど?
なんか『ちょっと例外です』みたいに言われたのですが?
確かに俺のファンたちは『あたおか』って言う
握手会で話してみると……うん。
素敵な個性がある方が多かったよ?
「事務所SNSでの
そうなのだ。
共同管理のSNSなので、たま~にしか俺は見てなかったんだけど……。
そう言う指令が来たので、学園の時にしていた会話のように積極的に絡ませてもらった。
「俺は普通に楽しく会話をしてただけなんですけどね?」
「そうですね。その自然体から、結果的に妹の友達とお兄さんの会話として受け入れられました。マネジメント側としては文句なしの大感謝です」
川鶴さんはぺこりと頭を下げた。
女性アイドルのみ所属を売りにしていた事務所だから、その辺りの地道な配慮や対策も大変なんだなぁ~。
突然『異性とコラボします!』だと、ファンもどんな関係なのか不安になるだろうからね。
「配信時間は17時から19時を目安に。こちらのダンジョンは全8階層。始めの3階層がBランクで、3階層の最奥にボス部屋があります」
ダンジョンには、大きく2種類ある。
ギルドから扉を開けた瞬間、ダンジョンの難易度が最深階層まで固定された一般的なもの。
そして今回来たのは――始めの3階はBランクで、そこからはAランクへ変わるダンジョン。
「はい! ウチらも、ここのダンジョンは良く修行につかってますからね。Bランクのボスも何度か倒しましたんで!」
「うん。途中、ラミアとハーピーとか……厄介な連携でダメージを負わなければ、ギリギリ勝てる相手」
「その道中が1番大変なんですけどね……。この前の配信でも美尊ちゃんが背中に奇襲をもらいましたし……」
ああ、あの配信か!
俺がまだ地上へ上がって来たばかりの頃、視たな。
確か『金を儲ける配信』として採掘に行こうとしていた日だ。
懐かしいなぁ~。
ここはトワイライトの面々が頻回に挑んでいる、格好の修行場らしい。
とは言え――最深部ボスまで踏破した者は姉御のみだ。
本当は俺たちも最深部まで行きたかったけど……俺の開拓者ランクがなぁ。
Dランク開拓者だから、2階級上のBランクまでしか入れないから……。
流石にまだまだCランク開拓者へ上がれそうにはないし……。
俺はモンスター討伐数は兎も角、魔石やドロップアイテムの換金ポイントが全然加算されてないから……。この損失が、かなり大きい。
まぁそれでも、史上最速で昇格してるらしいんですけどね?
上を見ずには居られないと言うか、せめて自分の住んでた道場に戻る資格が早く欲しいと言いますか……。
「MCは大神さんにしていただきます。配信開始後にゲスト紹介、指導付き開拓企画の解説。そしてプレゼントでの武器防具性能説明をしていただき、トワイライトの面々は一言二言、ご感想をお願いします」
「うん。お兄ちゃんからのプレゼント、凄く楽しみだけど……悪いなって」
「お金は受け取らないからね!? トワイライトの3人は隙あらばスパチャして来ようとするけど……10個ぐらい年下の学生から、あんな高額もらえないから! もし投げたら全額返すからね! 手数料の分だけ俺が損すると思ってください!」
「あはは……。お兄さん先生も頑なですねぇ……。分かりました、これからはちゃんと理由が無い時は投げません」
「う~ん、ウチらとしては自分の稼いだお金を、納得するように使ってるんだけどなぁ……」
「それでも! 特に理由もなく、妹の友達から金を貢いでもらうのはダメ!」
「お兄ちゃんはホストとかには絶対になれない。配信者とかってホストやキャバクラの人に似た精神が必要らしいよ?」
はうっ!
そ、それは……。
プロ意識が足りないと言えば、そうなんだけど……。
が、学生から巻き上げるのは違うじゃん!?
まして妹の友達で、教え子なんだからさ!
他の視聴者なら投げていただいた分、純粋に面白い配信で報いようってなるけども……。
「それでは厳重に包装されたこれらの荷物は下で開けてもらうとして……。普段使っている武具は本当に持ち込まなくて良いんですか? 念の為、慣れた武器があった方が良いのでは?」
「要らない。お兄ちゃんが私に必要と思った武器を信じる」
「わ、私も……お兄さん先生には、コテンパンにされてますから。必要な機能を細かく調整してくれているようなお話を、お兄さん先生も配信でされてましたからね。信じます!」
「ああ。俺と姉御が話し合いながら、間違いなく世界トップレベルの技術者に作ってもらったものだよ」
「なら、ウチらは信じますよ! 最強と
「そ、そうですねぇ……。有名かは分からないですが、肩書きと腕、才能は間違いないので……。視聴者には知っている人も居るかも?」
少なくとも俺は、名前も知らなかった。
でも会社名と肩書きで凄い人なんだろな~ってのは、十分に伝わると思う。
「それでは、行ってらっしゃいませ! 私はここで皆さんが無事に帰還するのを、お待ちしてますね」
川鶴さんに見送られ、俺たちは階段を降りていく。
厳重な包装をされた荷物をガンガンと壁にぶつけながら、階段前広場に降り立ち――。
「――姉御の格好良さ、装着。
サングラスをかける。
うん、なんか姉御になった気分。
そうして左腕の配信リンク式腕時計を操作し、カウントアップ。
まるでラーメン屋の店主が写真を撮られる時のように
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
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