第92話 肉体で分からせる!

「どぉりゃあああッ!」


 俺はシルバーバックを持ちあげ――舞台の中央へと放り投げる。

捻った姿勢を利用して、ドローンカメラへ向かってサイドポーズ!


〈ワロタwww〉

〈良い笑顔でこっち見んなwww〉

〈やだ白い歯///〉


 本来のフィジークなら、ポージングを披露する順番がある。

 でも順番に従っていたら1曲が流れ終わる迄だと時間が余ってしまうし、これは戦闘でもあるんだ。

 順番が変わったり、ポージングが重複してしまうのは許して欲しい。


 さっきの組合いでバックポーズを、そして放り投げるのでサイドポーズは済んだ。

 本当は両サイドをやりたいが、それは贅沢だろう。

 シルバーバックの行動に合わせ、臨機応変に対応しつつも――全てのポージング披露を目指したい!


「いくぞぉおおお!」


 ドローンカメラへ向かいフロントポーズを決めてから――舞台中央で体勢を立て直しているシルバーバックに向かい駆ける!

 どちらの肉体美の方が煌めいているか、勝負だ!


「遅い! お前のバルクアップはその程度か!?」


 右拳を打ち込んで来るシルバーバックを押さえ込む!

 これも先程とは違うサイドポーズに映っているはずだ!


〈キレてるよぉおおお!〉

〈良い血管浮き出てるぞ! 血管が信濃川しなのがわ!w〉

〈土台が違うよ、土台が!w〉


 言いよ良いよ!

 コメ欄も盛り上がってるね!


「はぁ!」


 シルバーバックの足を払い、投げる!


「そのまま、フロントポーズ!」


〈ウォール○リアぶっこわすなよ!w〉

〈腹筋で魔石おろせるよ!w〉

〈腹筋のラインが平安京!w〉

〈訳分かんなすぎてヤバいwww〉

〈その上腕二頭筋メガ盛りラーメンチョモランマ!w〉


 コメント欄も、調べてきたのかオリジナルを混ぜて掛け声をくれる。

 皆、ノリが良い視聴者さんで助かるなぁ~。


「お、きたきたきたぁあああ!」


〈なんだなんだ、ドラミングか?w〉

〈威嚇されてるん? 鼓膜を揺らす震動が凄いw〉

〈太鼓みたいだなwww〉


「そうなんです! こいつはですね、事前情報によるとドラミングをする事で――むむっ!?」


 背後からの地響きに振り向き様の――サイドポーズ!


〈一々、ポーズを決めるなw〉

〈真面目に戦えよwww〉

〈地底人類!〉

〈肩から姉御生えてるよぉおおおw〉

〈うおっ!? トゥループコンガがメッチャ来た!?〉


 そう、このシルバーバックは――ドラミングをする事で仲間を呼ぶ。

 ピンチになると、10匹前後の仲間を呼ぶのが厄介らしいんだけど――。


「――ケチケチするなよ? 祭りなら、もっとギャラリーがいるでしょう?」


 俺は全速力でシルバーバックの後ろへと回り込み、羽交はがめするように筋肉質な両腕を掴む。

 そして――グググッっとドラミングの姿勢へと腕を持って行く。


〈シルバーバックに力比べで勝ってるwww〉

〈背中に鬼神が宿ってるよwww〉

〈今度は何?w〉


「折角の祭りなんですから――もっと増やしましょうよ!」


 シルバーバックの腕を力尽ちからづくで操り、ドラミングを只管ひたすらに鳴らし続ける。


〈ぇええええええwww〉

〈ぅおおおおおお!? 太鼓の音がぁあああwww〉

〈そいつはまつ囃子ばやじゃねぇんだぞwww〉

〈お兄様の背中。もうあはぁあああああああああ!〉

〈この無駄のない筋力が必要なんですね。勉強になります〉

〈これは絶対教育に悪いだろwww〉

〈トゥループコンガが続々と集まってるんだけど!?w〉


 恐らくだけど、このドラミングは魔素を凝集させてトゥループコンガを産出する効果があるんだろう。

 無理やりに打ち鳴らし続け――遂には、300匹ぐらいのトゥループコンガが集まった。


「はっはっは! これで祭りの準備は完了ですね! テンション上がってきたぁあああ!」


 迂闊うかつに近付くと負けるのは理解しているんだろう。

 トゥループコンガは、様子を見ながら周囲を囲んでいる。

 これだけ集まれば十分と、シルバーバックの拘束を解く。

 バッと、シルバーバックは飛び退き――トゥループコンガの群れに身を隠しながら警戒している。

 鼻息は荒く、息も若干あがっているようだ。


 いやぁ~。

 なんだろう。

 筋肉バトルを繰り広げてるからか、テンションが変になる!

 異常にたかぶるぞ!


「遠からん者は音に聞けい! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは天下に轟く地底人、大神向琉! ここで筋肉勝負に負けようものなら、天心無影流次期当主候補の名が廃る! 我がバルクアップされし肉体の煌めき、しかとその目に焼き付けよ!」


〈あたおかがマジであたおかになったwww〉

〈なんか変なスイッチ入ってるぞ!?w〉

〈壊れたw〉

〈落ち着けwww〉

〈地底人だからこそ、マジの天から下なのよなw〉

〈和風時代物の要素が入ってる曲にはあってるけどさぁw〉


 そうして俺はトゥループコンガの群れに身を躍らせ――駆逐を開始する。


〈筋肉の集団面接! 密です、密です!〉

〈古傷が人生語ってるよぉおおお!www〉

〈グレート・プリケツ! お尻の間がSランクダンジョンw〉


 ノリの良い皆さんの掛け声に合わせ、拳を振るう。

 あっという間に集まったトゥループコンガは魔石へと姿を変わって行く。

 その間も、隙あらばポージング!


 そして途中乱入していたトゥループコンガも消え去り――残すは、エントリーナンバー1番のシルバーバックのみ。

 シルバーバックは震えながらも両手を組みハンマーのように、頭上から振り落として来て――。


「――ぬぅんッ!」


 敢えて避けず、俺も両手を頭上に掲げて受け止めた。

 こ、このポーズは――素晴らしいバックマッスルを披露できるじゃないか!?


〈見事な逆三角形! 逆ピラミッドの黄金比が肉体に宿ってるぞ!w〉

〈背中がアメリカ大陸!w〉

〈僧帽筋が歌ってる!〉

〈筋肉デカ過ぎて固定資産税かかりそうだぜ!www〉

〈ケツの間が凹んでるよ、凹んでるよ、はい、ズドーン!w〉


 楽しそうなコメント欄とは裏腹に、シルバーバックは小刻みに震えている。

 俺のマッスルに怖れ戦いたか……。

 仕方ない、そろそろ終わりにしよう!


「はぁあああ! これで終わりだぁあああ!」


 相手の懐へと潜り込み――下から顎を打ち抜くようにジャンプして拳をねじ込む!

 ド派手に、無駄に回転しながら!

 ズズンッと地響きを立て、シルバーバックは背から崩れ落ちる。


 俺はシルバーバックへ背を向け――ドローンカメラに向けてフロントポーズを決める!

 シルバーバックの巨体が霧散するのをバックに、最高のポージングが披露できた!



―――――――――――

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