第219話 野望、願望、欲望の共通点
思い返してみる。
俺が開拓者……アイドル開拓配信業を始めたルーツを。
「始まりは、地上へ上がって……。姉御に、借金をかたに無理やり、でしたねぇ」
「だが、その借金は嘘のデマカセだったんだろ?」
お?
意外に俺のことを詳しく調べてくれてるのかな。
実際、借金とは別に――姉御が俺を老獪な人やらなんやらから護る為に、大金を使ったのは本当らしい。
エリンさんが言うには、だけど。
でも、税金とかは結局請求されてない。
一切の返済も要らず、姉御の元を離れることさえも認められた。
それが発覚したのは、俺がカメラを切ったフリをして姉御をハメた……Aランクダンジョンでのスタンピードの時の配信だけだったんだけど。
見てくれたのかな?
「そうですね。でも、俺は姉御に恩を感じてますから! それに、人々が泣かないように護れるように強くなりたい。再会出来た妹に、楽をさせてあげたい! ジジイの仇討ちもしたいですから!」
「……若いな。野望、願望、欲望。あらゆる欲を否定する気はない」
フッと、微かに笑って、正樹さんは窓から外を眺めてしまった。
話は終わりだと思っているんだろう。
でも……俺は、正樹さんの言葉に心がモヤつく。
本当は、ここで「そうですか」とか流すのは、上手い世渡りなんだろうな~とは、思う。
でも、気持ちを覆い隠すのは、真に仲良くなるのには違う気がする。
「……正樹さん。欲って、そんなに悪いことですか?」
恐る恐る、尋ねてみる。
車内は誰もが俺たちの会話を気にしていて、誰も口を挟める空気じゃない。
正樹さんは、窓から外へ向けていた視線を俺に戻し、小さく溜息を吐いた。
「言っただろ。否定する気はない。だが欲で身を滅ぼすなんて、アホらしい真似を俺はしたくない。そんな死と隣あわせな気概も向上心も、歳と経験を重ねれば捨てる気になる」
言葉の重みが違う。
その風貌もあるんだろうけど、1度仲間を失い、自分も命からがらに帰還した正樹さんの言葉は、説得力が段違いだ。
うぅ……。
それは、今の若造な俺には分からないけど……。
「……それでも、俺は一生、この気持ちは捨てたくないです」
「…………」
ジッと、品定めをするように見つめてくる正樹さんの視線が痛い。
底の見えない沼のような隻眼が、俺の言葉を咎めているように感じる。
でも、俺だって――言いたいことはハッキリと言う!
「だって、野望だろうと願望だろうと欲望だろうと……『望み』って字が混じってますから」
そうだ。
俺は――人々に『希望』を与えるアイドル開拓配信者なんだ。
腰に佩いた白星も、少し感動したのか震えている。
良く言ったというように感じられて、この苦しい空気の中でも、ちゃんと意志を伝えようって気になる。
そうだよね。
Sランクダンジョンの奥底に10年間居た時は――正樹さんの瞳なんかより、遙かに暗い空間で生き抜いてきたんだから。
今更、怖じ気づいちゃダメだ!
「望みを捨てた人生って空虚で、ただ終わりを待つ退屈なものなんじゃないかなって。少なくとも俺はそう思います!」
笑みを浮かべながら、そう言い切った。
そんな俺を数秒、正樹さんは見つめていたいたが――俯き、フッと小さく笑った。
「……そうだな。それも、また輝かしい若さ、か」
嘆息混じりに言う正樹さんは、またしても窓から外を眺め始めた。
その瞳は一体、何を見ているんだろう?
何が見えているんだろう?
「……俺のような敗北者に、向琉は眩し過ぎるな」
小さく呟く正樹さんの声。
俺は思った。
あれ、これ――顔も見たくないって言われた?
しょ、初日から突っ込み過ぎたかもしれない!
くぅわぁあああ……。
正樹さんから黄色い龍の情報を貰いたかったのに!
盛大に悪い印象を与えちゃったかもぉおおお!?
あぁ、どうしよう!?
姉御、美尊、深紅さん、涼風さん、常識人の川鶴さん!
俺に、コミュニケーション能力を教えてぇえええ!
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
近況ノートにもお礼を添えて書かせていただきましたが、暫く本作の毎日更新が止まってしまうこと、誠に申し訳ございません!
楽しかった、続きが気になる!
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生き別れの妹とダンジョンで再会しました 〜10年間ダンジョン内で暮らしていたら地底人発見と騒がれた。え、未納税の延滞金?払える訳ないので、地下アイドル(笑)配信者になります〜 長久 @tatuwanagahisa
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