第133話 何者にも負けない。これ、たとえですよ!?

 そうして俺たちは、道場の撮影スタジオへと移動をして来た。


「本当に、道場だ……」


 清潔せいけつな床。

 神棚かみだな


 道場は何処どこもそうだけど――今ははるか地下に眠る、天心無影流道場を彷彿ほうふつとさせる。


 久し振りに踏み込む神聖な道場。

 ダンジョン災害前には、師範であるジジイから入る事を禁じられていた――道場。


 思わず礼をしてから、俺は入り込む。

 そして小道具を担当しているらしきスタッフさんに声をかけた。


「あの、道具を追加しても良いですか? 私物なんですが……」


「ん~確認が要りますけど……何を置きたいんですか?」


「この刀――白星はくせい神棚かみだなに」


「道場に、刀っすか。良いっすね。ちょっと上に確認取ります!」


 そうして現場監督らしき人物の元へ駆けて行く。


 ――向琉あたる。懐かしんでおるのか?


 白星はくせい、久し振りだね。


 ――うむ、わらわは妾で楽しんでおる。向琉がロリコンだ、女子校生に囲まれて鼻を伸ばしておるなどとは思っておらぬぞ?


 そんな事を思ってやがったのか。どうせまた、俺のパソコンなりスマホの端末からゲームしてたと思えば……。


 ――思っとらんと言うておろうが。ああ……じゃが深紅とやらを組み伏せていた時、心拍数が上がったのは見逃さんかったぞ?


 最悪だ!

 違うから、それは予想外の行動にちょっと驚いただけだから!


「大神さん、オッケーです! それでは神棚に――」


「――あ、すいません。こいつは俺以外が触れるとケガする妖刀なんで……。俺に飾らせて下さい」


「は、はぁ……」


 口の端をヒクつかせ、少し怯えた様子の小道具さんに頭を下げる。

 そうして白星を天心無影流道場で祀られていた時のように神棚の前に供えた。


 ――コラっ! 天狐てんこたるわらわ妖刀扱ようとうあつかいじゃと!? 訂正ていせいしてびよ!


 脳内でやかましい白星はくせいの言葉を無視して、サッサと立ち去る。

 衣装担当さんにもメイクさんからも呼ばれていて、忙しいからね!

 そうして道具に着替えてメイクを整えて……しばし待機。


「お兄ちゃん。私はそろそろ……」


「あ、うん。開拓配信だよね? ありがとう、助かったよ」


 美尊が申し訳なさそうに近寄り、そろそろ開拓配信に行ってくると言う。

 本当に美尊が居て助かった。

 ここから美尊が居ないのは不安だけど……カメラの奥に美尊をイメージして頑張ります!


「私も少し抜けますが、送り届けて直ぐに戻りますので」


「はい、了解っす!」


 川鶴さんも美尊を送る為に現場を出て行く。

 1人残されての撮影……スッゲぇ不安。

 ヤバ……寂しい。


「準備オッケー! それでは撮影再開します!」


 その言葉に――カチッと、自分の中でスイッチを切り替える。


 俺自身として映るんじゃなくて……武術家、大神向琉おおかみあたるえんじるんだ!

 スッスッと、道場内を進んで行きカメラの前に――正座する。


「良いですね~! 先ずは瞑想めいそうシーンから、そのまま一点を見据みすえて! 視線はそのままに別角度行きます! 続いて目を閉じて!」


 道場での撮影は進んで行く。

 道場にたたずむ姿。

 構える姿。

 基本の体捌たいさばきをする姿。


 そして――。


「――明るい写真はオッケーです! ダンジョン内外での対比たいひを撮ります! 蝋燭台ろうそくだい準備して~!」


「え? ダンジョン内、ですか?」


「はい。依頼を受けるに当たって経歴を調べさせていただきましたが……。大神さんは道場ごとダンジョンへ落ちるという凄絶せいぜつな経験をされたとか」


「ま、まぁ……。そう、ですね」


 悪気はないんだろうけど……。

 ズバッと言いにくい事を言ってくる人だなぁ~。


「その時、大神さんがどんな感情からどんな表情をにじませていたか。それが撮れればファンが喜ぶと思うんですよ」


「ファンが……。成る程、それなら……」


 ファンが喜ぶなら、多少無礼たしょうぶれいな物言いでも良いか。

 むしろがたがたいと気にして、最良さいりょうの写真を届けられない人より――プロフェッショナルにてっしていると思う。


 嫌われるだろうと分かって言っていたふしがあるし、その覚悟を持てるのは――職業に誇りがある証拠だと思う。


 実際、撮られた写真の1枚1枚をモニターで見ると、メッセージ性のようなものを感じるからね。


「ダンジョンに落ちた時……」


 当時、最初にダンジョンへと落ちた時を――ゆっくり思い起こす。

 血塗ちまみれのジジイが、叩きのめされるように道場へ飛び込んで来た瞬間。


 血塗れの床。

 外には黄色い龍。

 ひかりがパッと消え――真っ暗闇に閉ざされた道場。


「道具、照明準備オッケーです!」


 そう。

 あの時も――一気いっきに光が消えた。


 これ程、見える世界では無かったけど……。


 思い起こすなら、一発目は――。


「――良い怒りの表情です」


 カメラマンさんが撮った写真がモニターと連動して映る。


 そこには明確な敵意を顔に表した俺の顔が映っていた。

 次に感じた事と言えば、ジジイの死。


 そして――底知れぬ絶望と恐怖だ。


「涙……。良いですね、良い写真いただきました!」


 え、俺は――今、泣いていたのか?

 モニターを見れば、確かに涙が流れている。


 そうか……。

 あの時――俺は悔しくて、寂しくて……泣いていたんだな。


 もう10年も前の出来事だし、忘れていた。


 ジジイ……。

 俺が絶対、仇を討ってやるからな。


「オッケー! 続いてダンジョンでの死闘と鍛錬を、蝋燭の光で照らしながら撮りましょう!」


霧吹きいりふきで汗を演出します」


「ん~。髪から飛び散る汗はそれで良いんだけど、肌からはリアルな汗が出て照らして欲しいね~」


 この撮影……道場内で揺れる蝋燭の火を見ていると――神経が研ぎ澄まされる。


 武人として、何者にも臆さない勇気を再確認出来る気がするよ。 


 どんな強力な敵だろうと――10年の闇を乗り越えた俺は、決して逃げない。

 どんな強大な敵だろうと、決して負けない気がする。


「――それならば、私が本物の汗を出すのに協力しましょう」


 まぁ……でもね、それはあくまでも『気がする』なんですわ。


「――大宮おおみやあいさん……」


 目の前に人外じんがいの力を持つ姉御が――闘気とうきを漂わせながら現れれば、実際には尻尾巻しっぽまいて逃げるよ?


 ドッと――あせあふれ出て来た。

 霧吹き、もう要らないと思います!



―――――――――――

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