第169話 帰るまでが遠足

 さて、結局――丸1日以上を費やし、合計で80頭近いユニコーンを屠った訳だが……出たアイテムは1つ。

 だけど稀少なこのアイテムは、たった1つでも3人分の武具や防具を十分に賄える分量らしい。


「よし、ミッションクリアです! それでは、これから東京に帰って素材を渡さないといけないので……配信はこれで終わりますね!」


〈まずそこからどうやって出るんだ?〉

〈入れたし、そこから出られるんじゃね?w〉

〈またこじ開けるのかwww〉


 それしかないかな?

 一応、正規ルートに出てから配信を切るか。

 岩肌に波打つ魔力。

 そこを再び両手でこじ開け――足から身体を突っ込む。


「うん、正規ルートに出られました! 実力に自信がある人は、このルートを使ってくださいね!」


〈清らかな処女じゃなければユニコーンに殺されるだろw〉

〈あたおかの強さ基準で言っちゃダメよwww〉

〈裏ボスは本来イレギュラーな強さ。Aランクで普通以上に戦えるレベルでもなければBランクの裏ボスなんか挑むべきじゃないよw〉


 うん、視聴者さんが注意してくれてる。

 俺から何かを口うるさく言う必要も無さそうだ。


「多分、土曜日のトワイライトとのコラボには――今日の素材を使った武具のお披露目が出来ると思います!」


〈なんだろ。スゲぇ遠距離のダンジョンに、人を護る為っていう感動する理由で来てんだよな? それで24時間以上も耐久したのに……。感動より笑いがデカイのよwww〉

〈あたおからしくて、これが良いw〉

〈お涙頂戴は間に合ってるからwww〉


 うぅ……。

 最後のゲットに至る経緯がアレ過ぎて、文句も言えない!

 悔しい!


 でも、まぁ――最後まで視聴してくれた人が、なんかんだ視ていて良かった。

 そう思える配信に仕上がって良かったよ!

 うん、これで良かったんだ!


「それでは、ば~いセンキュー!」


 手を振りながら配信を切る。

 さて、と……。


「いやぁ……。流石に結構体力を使うよなぁ……」


 ユニコーンも実際、結構強かったし……。

 出るか出ないか分からない耐久は、精神を摩耗まもうさせる。


 こっから東京まで――直線距離で1千キロメートル以上。

 来る時は体力も余ってたから、12時間ぐらいで辿り着いたけど……。


「――これで土曜日のコラボ迄に間に合わなければ、地獄! 姉御も動画はチェックしてくれてるだろうから、到着予想時刻にマルチバース社の技術開発局長を呼び寄せるはず……。つまり――俺の地味でキツイ戦いは、こっからです!」


 なんか早駕籠はやかご訃報ふほうを伝える人や、飛脚みたいに地味だけどキツイって感じ?


 でも――物を持って行かない事には、加工も始まらない。

 ここまでして、コラボまでにプレゼントが間に合わない。

 その間にトワイライトの身に何か起きるとか……冗談じゃない!


「よっし! 気合いを入れて行くぞぉおおお!」


 目指すは東京!

 俺はすっかり寒くなった空を、再び東京に向かい駆ける――。


「――姉御の予測する到着予想時刻に絶対、間に合わせるぞぉおおお! 修行で霊山を巡った当時を思い出すなぁあああ!」


 筋肉がバテバテになってから、もう一段階違うステップの修行が始まるのだ。


 そうして15時間後――。


「――姉御……」


 ダンジョン庁庁舎の近くへ降りた俺は、車から降りて来たばかりの姉御に蹌踉よろけつつ声をかけた。


 姉御は、かけていたサングラスを外して苦笑し――。


「――うむ。……早かったな?」


 そう労いながら、俺の肩にポンと手を置いた。


 お日様は中天ちゅうてんに輝いている。

 行きよりは時間がかかってしまったけど……姉御は怒った様子もない。

 むしろ、早かったなと労いの言葉をくれるとは……。


「待たせました、か?」


「いや? 向琉に渡したスマホはGPSで私のスマホと連携してあるからな。……到着予想時刻は、正確に予測がついたぞ?」


「……ふぇ?」


 じ、GPS?

 それ――俺が今、どこら辺をどれぐらいの速度で駆けていたか、分かってたの?

 マジ……すか?

 あぁ、もう――それを聞いたら気力が……。


「うむ。兎に角――良く手に入れて来たな。直ぐに加工へ取りかかろう。……暫しの間、向琉は私が守ってやる。今は安心して休め」


 常在戦場と張り詰めさせていたけど――姉御がそう言うなら、大丈夫。


「……そこの人は?」


 何もない――ように見える空間を睨み、問う。

 まぁ姉御が放置しているからには、危害を加えるような人物じゃないんだろうけど……。


「ここで透明化マント等というトンデモ科学を無駄に晒している変態女も、起きたら紹介しよう」


 姉御がそう言うと――ミドルカットぐらいの金髪で、細身で小柄な女性。

 裾が地面に着きそうなオーバーサイズの白衣を身に纏いながら、ニヤリと微笑む女性が見えた。


 挨拶をしたいけど……限界、かも。

 今は姉御の言葉と善意に甘えよう――。


「……姉御、この身を任せます」


「うむ。天心無影流の名にかけて」


 ああ、これは――常在戦場を保つため、代わりで見張り番をする時に良く交わした言葉。

 この責任ある言葉を聞けたなら、もう安心だ。


「俺――もうゴールして良いよね?」


「何を言っている。……ほら、私のサングラスをやろう。これをかけていれば、眼を瞑っているかバレない。寝込みを襲おうとする不逞ふていやからを警戒させられるだろう」


「ふぁ……」 


 サングラスをそんな役に立てるとは、流石は姉御です。

 その言葉を口にした後――落ちていくまぶたを、俺は押さえきれなかった。


 どう考えても高価そうな格好良いサングラスで、視界が暗くなった瞬間――一気に意識は途絶えかける。

 知床との往復に、裏ボス80体近くの討伐はこたえましたねぇ……。

 まだまだ、修行不足っすわ――。



―――――――――――

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