第3の矢、超能力移植怪人・アスラ
あと、519秒。
太陽が沈みつつある中、決闘が始まった。
両者の戦闘スピードは異常に素早く、それ故に戦闘自体は5分ほどで決着がついた。分刻みで詳しく見ていこう。
最初の1分目。
ヒロシはアスラの弱点を探るべく、全方位から攻撃を仕掛ける。前、右、左、斜め、後ろ、真上。まさに猛攻であった。
ヒロシは自らの体内を自由にカスタマイズできる。彼は今、口より取り込んだ酸素を全て燃焼させその際に発生する熱エネルギーを体の任意の方向から吐き出すことで爆発的な推進力を得ていた。まるでジェット戦闘機のように。
その速力は優に時速500キロは出ていたであろう。
だが……アスラのバリアーは破れない。まるでその優位性を見せつけるかの如く、アスラは一切反撃をしない。
「フハハハハハ……無駄無駄、そして無駄だぞ! 我が帝国が開発した斥力フィールドは敵と判断したものは全て弾く! もちろん地中にも有効だから無駄なことはやめるんだな。さぁ、次は我の力を見るがよい、
ヒロシの体を不可視の槍が貫き、わき腹に大穴が開く。
次の2分目。
アスラは先と打って変わり、徹底的にヒロシを攻撃し続ける。
両手の動きに合わせて降り注ぐ不可視の攻撃。右手を振れば右側に。左手を振れば左側に。それぞれ押し寄せる剣が、斧が、槍が、ヒロシの四肢を切り刻み、押しつぶし、貫く。
その度に肉片が、手足が、内臓が宙を舞い、辺り一面に不快な水音と共に降り注ぐ。腐臭が薫り立つ中、それでもヒロシは諦めない。
持ち前の高速再生を利用し欠損部位を修復しつつ、次は様々な生物の特性を利用した遠距離攻撃を行う。
音速越えの水鉄砲、強酸、ガス爆発、音波攻撃、火炎放射、冷気放射、雷、投擲、
この星には様々な生物が誕生し、滅び、その中から新たな生物が誕生し……それを繰り返してきた過去を持つ。その中には様々な手段で遠距離攻撃を仕掛ける者が大勢いた。ヒロシはそれらを遺伝子の奥から蘇らせ、利用したのだ。
しかし……いずれの攻撃もその全てが斥力フィールドにより弾かれお返しとでもいうようにアスラの攻撃が次々と打ち込まれる。
凄まじい速度で再生と負傷、そして変化を繰り返すヒロシ。周囲には彼の体より血しぶきが常に噴出され、赤とピンクと白の霧が戦場を覆う。
「無駄といっているだろう! 我の力と帝国の技術力、これが噛み合わされば矛盾は成立するのだ! 最強の矛を、盾を、その肉体に刻み付けるがよいわフハハハハハ……」
息を大きく吐きながら高らかに嗤うアスラ。その姿はまるで魔王の如しであった。
3分目。
威力偵察。
それは「偵察」と呼ばれる軍事的な情報収集活動の方法の1つで、簡単に言うと敢えて交戦することで敵の装備や実力といったものを把握するために行われる。
敵を倒すことではなく情報収集が目的なので、
この2分間のヒロシの行動は実のところ全てこの威力偵察であった。彼はアスラのこれまでの言動や行動からどう倒すべきか、その手順に必要な遺伝子情報を体内で検索し続けていた。
そして――その解を見つけた。あとは己の肉体を書き換えるだけ。幸いにもそこまで大規模な変態は必要ではないので、短時間で終了するだろう。
ヒロシは己の体内にウイルスを解き放った!
レトロウイルス。それは
彼らの
すると逆転写酵素の働きにより、細胞のDNAを書き換えることが出来るのだ!
ヒロシがどのようにして生物の特性を引き出すのか、己の体を
まずどう変化したいかという設計図を
次に製造された設計図は骨髄内にある
こうして製造されたウイルスは血液と共に体内を巡り、必要な細胞に接触。そのDNAを書き換える。
そしてヒロシを構成する細胞は全て
こうして彼は様々な生物の特性を引き出したり、体内の構造を自由に変化させることができるのだ。
そして生物の特性意外に隠し玉が、もう1つ。
4分目。
遂に逆襲の狼煙が上がる。
これまで通り、ヒロシはアスラに猛攻をかける。反斥力フィールドを破ろうと力任せに打撃を繰り返す、ように見えた。
「フハハハハハ……無駄無駄無駄、無駄である! 全くよくもまあ飽きずに同じとを繰り返すのだっ、がっ、か、あっ、か……?」
奇妙なことが起こる。アスラの頭がぐらりと傾いたのだ。彼の大口はまるで水中から突然空中に移動した魚のようにパクパクと開閉を繰り返す。見えないナニカを必死に飲み込もうとするかのように。
そのスキを逃さず、ヒロシはアスラの周りを何度も駆け抜ける。発生する大量の土埃!
アスラの視界は一時的に閉ざされる。だが、この時彼の
「ぬう、どこに行った、出てこい!
頭上より降り注ぐ矢の嵐。満遍なく、全方位に。だが、手ごたえはない。
「む、一体どこに消えたと」
それは一切の抵抗なく目標へと肉薄。アスラの
それを確認すると同時に内部に搭載されている敵味方識別装置が反応を知らせる。
>この槍は味方。
「そ、そんなわけあるか! 奴はヒロシに喰われて」
>前方に味方反応を識別。
次の瞬間、アローレインで受けた傷を修復しつつ突進するヒロシが現れた!
その体表は滴り落ちる液体金属に覆われていた。「味方」の識別信号を出しながら。
驚き、慌てて攻撃をしようとするアスラ。だがヒロシの方が早い。
その攻撃はアスラにとって全くの予想外のものであり、それ故にまともに受けてしまう。
その攻撃は――
〘斬物光刃〙
――魔法であった。
アスラの右腕がゆっくりと切断され、地面に落ちる。
均衡が、崩れた。
最後の5分目。
アスラの「斥力フィールド」。これは全自動迎撃・防御システムであり――
そして土埃で目隠ししている間にヒロシが纏った液体金属。これはかつて「
そしてこの液体金属を振動、発生させた僅かな電気信号でもって敵味方識別装置の欺瞞に成功したのだ。
こうしてアスラの矛盾から「盾」を取り除くことに成功した。
次は「矛」の番である。
「お、おのれ我の腕が、くそが!」
慌てて攻撃を放つアスラ。だが発生する攻撃は、左側のみ。彼の能力「
そして「盾」たる斥力フィールドも無効化された今。右側は完全に無防備であった。
そして何よりも。自らの体に槍が3本も生えている状態では精神的な余裕はなく、攻撃の精度は欠片もなかった。攻撃・負傷の経験がなかったアスラなら尚更である。
そしてヒロシの逆襲が始まった。
10秒もしないうちにアスラの
形勢は完全に逆転した。
それを察し、撤退しようとするアスラ。だがその足取りは緩慢である。長さ、重さの違う
これではロクにバランスを取ることができず、従って逃走のスピードも出ない。そして何より彼の
だがそもそもの問題として、憎しみに燃えるヒロシに見逃すという選択使があるはずもなく。彼は逃走を阻止すべくアスラの顔面にあるものを放つ!
それは無味無臭の物質である。毒ガスではない。だが効果はてきめん、アスラの
ヒロシが投げたのは窒素と二酸化炭素の塊であった。1分前にアスラのスキを作り出したのもこれだ。
彼が取り込んだ酸素を燃焼させて高速移動することは先に書いた。この攻撃はその際に使われなかったものを利用しているだけに過ぎない。高濃度のそれらを吸い込めばどうなるか。ご覧の通りである。
自らの怒りを、憎しみを見せつけるかのように近づくヒロシ。「最後に言い残すことはあるか?」等の気の利いた言葉は、ない。
ただ行動あるのみ。
ヒロシは遠慮なくアスラの首を掴み、引きちぎった!
機能停止し白目を向くアスラ。その首元から垂れる露わになる頸椎。
そこには用途不明の様々なコードやら機械が巻き付いていており、足元には血の水たまりが出来つつあった。
超能力移植怪人、アスラ。彼の正体は
すなわちサイボーグであったのだ。
こうして辛くも勝利したヒロシ。だが、その顔に高揚感はなく。
ただただ、
ゆっくりと闇が支配を広めつつある。
その時まであと――
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