忘れました。てへぺろ。

[💿Georges Bizet、1838-1875、『Carmen』第一幕 Habanera]




「な ん で お前がここにいるんだよ⁉」


 ロックが外された自室の扉をブチ開けたら、この前の任務ミッションで発見し神秘部のラボに提出したはずの奴がいた。

 あれだ、落し物が自分で主の元に戻って来た、みたいな。アホかまるで妖怪じゃねぇか。

 そんなわけでつい大声を出してしまったが、これは――万が一にも聞かれたり見られたりしたら不味い。VUS超広帯域レーダーを一瞬だけ起動して、よし周囲に機影ひとかげはなし。

 そっと扉を閉めた。



[💿Georges Bizet、1838-1875、『Carmen』第一幕 Habanera 再生停止]



「で、なんでいるんだというかどうやって抜け出したまさか通報とかされてねぇだろうなそもそも」

「あのぅ」

「なんだ」

「質問は最小単位ずつでお願いねあなた♪」[😘]


 自らをアセビ、と名乗っていた個体はそう答えると同時に背中から何かを拡張して取り出しておれの方に見せてくる。

 それはT字看板で、精緻なドット得で[😘]と表示されていた。本体の表情は限りなく無表情に近い。黒のおかっぱ頭、半目、小さく開いた口、全身を覆う拘束具、やや前のめりになりながら宙に浮かぶからだ。そして掲げられた看板。まっこと表情豊かである。


「最小単位、ね。じゃあまず1つ」

「どうぞ」[💓]

、って何だよ」

「? わたしの常識だとつまはおっとのことをそう呼ぶ、って」[🤔]

「えーと、つまって『妻』? 『つま』じゃなくて」

「それ相当古い前々世紀的ネタだよ」[🤣]

「うるさいわ。てことはおっとって『夫』? 『良人』じゃなくて」

「良人はをつと、って読むんだけど夫って意味もあるよ。だからボケ失格!」[😏]

「ふん、そうかよ――――何でだよ! おれは指輪システムケッコンカッコホンモノなんて使用した記憶ねぇぞ!」

「妻がダメなら妾でも」[🤪]

「何でそうなるんだ……めかけ? なんで?」

「だってには奥さんいるでしょ頭の中に」[🤔]

<うえ⁉ い、いや~っつにワタシとご主人様はそんなんじゃ(〃▽〃)>


 いや言い方よ。お前もクネクネと電気信号を行き往きさせんな。

 …………。

 ……あ た ま の な か に な ん だ っ て?

 コイツ、どうしてブレインのことがわかったんだ⁉

 

「おいアセビとやら、何でわかった答えろ!」


 P7を突き付ける。相対距離は2メートルもない。


「そんなに怒らなくても。全然恥ずかしい事じゃないよ」[❓]

「冗談言っている場合か?」


 おれは脅しの意味も込めて内心焦りながら一撃、放つ。

 トリガーが引かれる。

 撃針が雷管をぶっ叩く。

 弾薬内の装薬が激しく燃える。

 薬室に収められた弾頭から激しく回転した弾芯が銃身を経由してガスと共に外へと飛び出す!

 アセビの傍を通過するまで秒も必要としないだろう。

 そんな物体を。アセビは。






 舐めとった。小さく開いた口から、前触れなく飛び出した、無数の粘液と鉄粉と発条ばねとマイクロプラスチックがまぶされ絡みあった、で。

 赤と黒と白のその舌はまるで有機と無機が等しいバランスで融合したかのよう。


「おいたはダメですよ、」[🤐]


 9x19mm被帽付徹甲弾APCはそのまま舌と一体化し、小さな口にするすると入っていく。そして薄い眉毛がピクリと動き、逆ハの字になった。

 こりゃあ、おこってやつ?


<ブレイン、スキャンしたか?>

<うん>

<正体、わかったか?>

<……うん。ご主人様、聞いて。まずは演出をオフにするよ>


 何? と聞き返すよりも早く演出が消える。

 おれの部屋が一瞬で無表情に、のっぺりとなる。

 だが。





 アセビは

 いや違う!

 金属製(と思われる。そうに決まっている)ではない部分が露わになった。、これは。クローク隠蔽加工でも展開していたというのか?

 露わになったモノを端的に描写すると、こんな風になる。


 光沢を帯びた、触手。

 それが何本か背中側から生え、天井へと伸び、アセビを釣り上げていた。だから前のめりに浮かんでいたのだ。

 正しく異様な光景。

 驚愕するおれの元にブレインからスキャンデータの詳細が届く。



【・質量、変動あり】

【・構造、推定……炭素含有化合物と炭素非含有化合物の融合構造体。過去の単語より最も近しいものを選別。『Xenobot』】

【・作成年代、21世紀終盤と推定】



 Xenobot。ゼノボット、合成生物というやつか。確かにさっきの舌の構造を見るに有機物無機物が混ざり合ったような感じだった。

 疑問が口から飛び出す。


「おまえ一体何が目的なんだ?」

「それは……えぇーと…………」[😑]

[🤔]

[🤨]

[😐]

[😥]

「忘れました。てへぺろ」[🥴]

「おいこら」

「まぁそれはともかく。なんか外の人たち怖いし、匿ってくれませんか?」[🤩]


 これは、どうしたものか。どうするのが最善だ? 

 メリット・デメリットを考案しておれは答えを……口に出した。

 

 

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